1986年の日本競馬

1986年（昭和61年）は、日本の競馬史において特筆すべき出来事が数多く発生した年でした。特に牝馬クラシック路線では、一頭の歴史的名牝が誕生し、不滅の記録を打ち立てています。また、長年の課題を克服した生産牧場の偉業や、時代の変化を感じさせる新たな試みも見られました。以下に1986年の主要な出来事をまとめます。（※馬齢は旧表記にて記述します。）

歴史に残る名牝の誕生と偉業

この年の競馬界で最も輝いたのは、紛れもなくメジロラモーヌでした。同馬は桜花賞、優駿牝馬（オークス）、そしてエリザベス女王杯という牝馬三冠競走の全てを制覇し、史上初の牝馬三冠馬となる金字塔を打ち立てました。さらに特筆すべきは、これら三冠レースに至るトライアル競走、すなわち報知杯4歳牝馬特別、サンケイスポーツ賞4歳牝馬特別、ローズステークスも全て優勝していた点です。圧倒的な強さで牝馬路線の頂点に君臨したメジロラモーヌは、年末の有馬記念ではミホシンザンに次ぐ支持を集めて牡馬の強豪に挑みましたが、不利もあり9着に敗れました。このレースを最後にターフを去り、繁殖牝馬として新たな道を歩み始め、翌1987年には中央競馬の顕彰馬に選出されています。

生産牧場の悲願達成

クラシック戦線においては、主要生産牧場である社台ファームとメジロ牧場が大きな節目を迎えました。社台ファームは、これまで不思議なほど日本ダービーの勝利に恵まれていませんでしたが、この年、生産馬であるダイナガリバーが頂点に立ち、悲願のダービー初制覇を達成しました。一方、メジロ牧場も過去に2着はあったものの、クラシックレースでの優勝経験がありませんでした。しかし、メジロラモーヌが桜花賞を制したことで、メジロ牧場としても初のクラシックタイトルを獲得。この勢いは止まらず、メジロラモーヌは牝馬三冠を達成し、秋には吉田堅氏生産・メジロ商事所有のメジロデュレンが菊花賞を制覇。メジロ牧場ゆかりの馬が牡馬クラシックも手中に収めるという快挙を成し遂げました。

シンボリルドルフの海外挑戦と引退

七冠馬として一時代を築いたシンボリルドルフは、この年、海外遠征を決行します。初戦として選ばれたのは、アメリカのサンタアニタ競馬場で行われたサンルイレイステークス（3月29日）でした。しかし、レースでは7頭立ての6着と期待に応えられず、競走中に左前脚の繋靭帯炎を発症してしまいます。これにより、次に予定していたレースへの出走を取りやめて帰国。再起を目指したものの、残念ながらそのまま引退が決定し、12月7日に中山競馬場で盛大な引退式が執り行われました。

その他の主要な出来事

1986年には、これらビッグニュース以外にも、日本の競馬界に影響を与える様々な出来事がありました。

1月には日本中央競馬会（JRA）がレーシングプログラムの配布を開始。
3月には中山競馬場で降雪により重賞を含む一部レースが中止されるハプニングも発生しました。
6月1日に行われた宝塚記念では、イギリス産のパーシャンボーイが優勝。これは1984年のグレード制導入以降、日本国内で外国産馬が初めてGIタイトルを獲得した瞬間でした。
7月31日、地方競馬において歴史的な試みが開始されます。大井競馬場にて日本初となるナイター競馬が開催され、「トゥインクルレース」や「TOKYO CITY KEIBA」といった呼称もこの時に誕生しました。
8月には、川崎競馬場で3頭が1位同着となる稀な記録が生まれました。
9月からは、中央競馬の産経賞オールカマーが地方競馬招待競走として実施されるようになりました。
10月には、韓国ソウルで開催されたアジア大会の馬術競技で、JRA職員が参加した日本チームが総合馬術団体での金メダルを含むメダルを獲得しました。
競馬場では、東京競馬場を皮切りに大型映像ディスプレイと連動した場内ミニFM放送が開始され、観戦スタイルにも変化が見られました。
情報化の波も押し寄せ、11月にはパソコンによる競馬情報提供システム「PCIS」の試験運用が始まりました。
地方競馬では、12月7日に水沢競馬場で第1回ダービーグランプリが開催され、新たなダート三冠競走への布石が打たれました。

騎手部門では、河内洋騎手が年間重賞12勝を挙げ、福永洋一氏の記録を抜いて当時の年間重賞最多勝記録を更新する活躍を見せました。また、中山競馬場ではすぎやまこういち氏作曲のファンファーレが採用され、レース前の高揚感を演出しました。

この年に生まれた競走馬の中には、後の歴史に名を刻むことになるサンデーサイレンス（アメリカ生まれ）も含まれており、日本の競馬の未来にとっても重要な一年となりました。

1986年は、メジロラモーヌの不滅の記録、社台ファームとメジロ牧場のクラシック制覇、シンボリルドルフの挑戦、そしてナイター競馬の開始など、中央・地方ともに多くの話題と歴史的な出来事に彩られた年であったと言えるでしょう。

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