1991年アメリカ空軍KC-135エンジン脱落事故

1991年アメリカ空軍KC-135エンジン脱落事故

1991年2月6日、サウジアラビアのキング・アブドゥルアズィーズ国際空港を離陸したアメリカ空軍のボーイングKC-135E空中給油機が、離陸直後に後方乱気流に遭遇し、左主翼の2基のエンジンを脱落させるという航空事故が発生しました。この事故は、砂漠の嵐作戦に参加していた機体「Whale 05」に起こり、乗員4名は奇跡的に全員無事でした。

事故機「Whale 05」について

事故を起こしたKC-135E（機体番号58-0013）は、1959年に製造された機体で、プラット・アンド・ホイットニーTF33-PW-102エンジンを4基搭載していました。当時、第434空中給油航空団に所属し、「Whale 05」のコールサインで運用されていました。

乗員は4名で、カンザス空軍州兵第190空中給油航空団から派遣されており、機長をA中佐、副操縦士をB大尉、ナビゲーターをC大尉、ブーム・オペレーターをD曹長が務めていました。

事故発生の経緯

「Whale 05」は現地時間17時24分に離陸し、高度25,000フィート(7,600m)まで上昇後、空中給油を行う予定でした。ほぼ同時刻に離陸した別のKC-135と約1海里の間隔を保って飛行していました。離陸から約45分後、「Whale 05」は前方を飛行する機体の後方乱気流に巻き込まれました。

突然、機体は左に90度以上傾き、その直後には右にも90度以上傾きました。機長はスピードブレーキを展開し、なんとか機体を水平状態に戻そうとしました。この一連の出来事の中で、左主翼の第1エンジンと第2エンジンが脱落しました。脱落後、エンジン火災警報が作動しましたが、実際には火災はなく、エンジンが完全に脱落していることをブーム・オペレーターが確認しました。

離陸直後で機体には約31,000ガロンの燃料が満載されており、エンジンの脱落によって油圧系統や燃料ポンプ、着陸装置などが損傷を受け、左主翼の燃料は全て失われました。機長は燃料投棄を行い、メーデーを宣言して空港への帰還を決断しました。

「Whale 05」は高度16,000フィート(4,900m)で水平飛行に戻り、機体の状態を確認しながら、1時間15分かけてキング・アブドゥルアズィーズ国際空港へ帰還しました。油圧系統の損傷のため、着陸装置は手動で展開されました。パイロットは最も長い滑走路34Lへの着陸を要求し、ILSによる進入を行いました。着陸時、右エンジンの逆噴射装置を使用しましたが、機体のバランスが崩れるためすぐに中断しました。複数のタイヤが破損しましたが、機体はなんとか滑走路上で停止しました。

事故後の状況

事故原因は激しい後方乱気流によるものと断定されました。2基のエンジンを失った状態でKC-135を着陸させたパイロットは過去におらず、その功績を称えて、4名の乗員全員に殊勲飛行十字章が授与されました。事故後、乗員達はシミュレーターで飛行を再現しようと試みましたが、いずれも成功しませんでした。

「Whale 05」の機長は、この出来事について自著「Pressure Cooker Confidence: ….How to LEAD When the Heat is On!」で詳細に記述しています。

驚くべきことに、事故機はその後修復され、軍務に復帰しました。

類似の事故

1987年3月13日、フェアチャイルド空軍基地でも、KC-135がB-52の後方乱気流に巻き込まれ、機体が左に大きく傾く事故が発生しました。この事故では、左主翼のエンジンがコンプレッサーストールを起こし、機体は墜落、乗員6名全員と地上の1名が死亡しました。

映像化

この事故は、ドキュメンタリー番組「メーデー!:航空機事故の真実と真相」シーズン19の第7話「Mission Disaster」で映像化されています。

参考資料

Sweeney, Kevin (2008), Pressure Cooker Confidence: ….How to LEAD When the Heat is On!, BookSurge Publishing, ISBN 1419695029 

関連項目

日本航空46E便エンジン脱落事故
トランスエア・サービス671便エンジン脱落事故
エル・アル航空1862便墜落事故

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