2006 RH120

2006 RH120とは

「2006 RH120」は、アポロ群またはアモール群に属する、ごく小さな地球近傍小惑星の一つで、その直径は約3メートルから6メートルと推定されています。この天体の最も特異な点は、2006年9月から翌年6月までの約1年間、地球の重力に捕らわれ、一時的に地球の自然衛星として周回していたことです。これにより、「第2の月」とも称される特異な存在として、天文学界で注目を集めました。

軌道の特性

2006 RH120の太陽を周回する軌道は、軌道長半径が1.03天文単位、公転周期は1.05年です。特筆すべきはその形状で、軌道傾斜角は0.59度と地球の公転面とほとんど差がなく、離心率は0.024と非常に真円に近い形をしています。

このような軌道特性は、地球の公転軌道と非常に似通っていることを意味します。そのため、2006 RH120はしばしば地球に比較的遅い速度で接近します。例えば、2007年 6月14日の接近時には、地球から約27万7000キロメートル（0.00185天文単位）の距離まで近づき、これは月の平均公転半径（約38万4400キロメートル）よりも内側に入り込むほどの接近でした。

物理的性質

物理的な特徴としては、その絶対等級は29.5と極めて暗く、先に述べた直径3メートルから6メートルという微小なサイズと一致します。地球から観測された視等級も、発見時の19.3等級から最も明るい時で18.7等級と、非常に暗い天体でした。また、2分45秒という比較的速い周期で自転していることが確認されています。

「第2の月」として

2006 RH120が持つ地球と類似した軌道は、地球に接近した際にその重力によって一時的に捕捉され、衛星となる可能性を秘めています。実際に、天然の天体として地球の一時的な衛星となった事例として初めて確認されたのが2006 RH120です。その後、2020年2月15日に2020 CD3が発見されるまでは、この種の現象で確認された唯一の天然天体でした。

過去にも同様に地球を周回しているように見える天体として、J002E3（2002年発見）や6Q0B44E（2006年発見）が存在しましたが、これらは後の調査で、J002E3はアポロ12号のロケットの一部であること、6Q0B44Eも高い蓋然性で人工物である可能性が指摘されており、天然の天体ではありませんでした。そのため、2006 RH120も、カタリナ・スカイサーベイによって発見された当初は人工物ではないかとの疑念を持たれ、仮称として6R10DB9と呼ばれていました。

しかし、観測データに基づき太陽からの光の圧力（太陽輻射圧）が軌道に与える影響を計算した結果、中身が空洞で軽いロケットブースターのような人工物であると仮定した場合と比べて、実際の観測された軌道の変化に大きな違いがあることが判明しました。この分析により、2006 RH120は人工物ではなく、自然に存在する天体であることが確認されたのです。こうした経緯を経て、この天体に小惑星としての正式な仮符号「2006 RH120」が付与されたのは、発見から約1年半後の2008年2月18日のことでした。

その起源については、月面に他の小惑星が衝突した際に飛び散った物質の一部である可能性が指摘されています。

理論的なシミュレーションによると、2006 RH120のような一時的に地球の重力圏に捕捉される天体は、常時50個ほど地球の周りを回っている可能性が示唆されています。しかし、これらの多くは直径が50センチメートル程度と、2006 RH120よりもさらに小さいため、実際に観測することは非常に困難です。2020年に発見された2020 CD3以前には、このような微小な天然の一時的衛星は観測によって確認されていませんでした。

一時的な衛星期間（2006年-2007年）

2006 RH120が実際に地球の衛星軌道に乗っている様子が観測されたのは、前述の通り2006年9月から2007年6月にかけての期間です。この間、天体は地球の周りを約3回公転しました。この一時的な衛星軌道は、軌道長半径がおよそ9万キロメートルから20万キロメートルの範囲で変動し、離心率も約0.41から0.75と楕円率が高い軌道でした。軌道傾斜角は、周回開始当初は約40度でしたが、その後は地球の公転面に対してほぼ垂直に近い軌道をとるようになりました。この衛星期間中、2006 RH120は地球や月に頻繁に接近しており、現在利用可能な観測データの大部分がこの時期に取得されたものです。

今後の動向

今後の予測としては、2006 RH120が次に地球に大きく接近するのは2028年8月18日と見られており、その際の距離は地球から約401万8200キロメートル（0.02686天文単位）と推定されています。この接近時に再び一時的な地球の衛星となる可能性もゼロではありませんが、現在のところ詳細は明らかになっていません。さらに、その後の軌道や将来の接近については、現在の観測値に含まれる不確実性に加え、小惑星が太陽の熱を放射する際に生じるわずかな力の反作用（ヤルコフスキー効果）が軌道に与える影響の度合いが十分に解明されていないため、正確な予測は困難です。

ちなみに、2017年頃には、太陽から見てちょうど地球の反対側にあたる位置、地球から約3億キロメートル（2天文単位）離れた場所を公転していたと考えられています。