2019年の文学

2019年の文学

2019年は、文学界において、重要な文学賞の発表が注目を集めるとともに、長年にわたり文化に貢献してきた多くの作家や研究者が惜しまれつつこの世を去った、記念すべきと同時に寂しさも伴う一年でした。

主要な文学賞の動向

年間を通じて、日本の文学界で最も権威ある賞の一つである芥川龍之介賞と直木三十五賞の選考が例年通り実施されました。

年の始まり、1月16日には第160回（2018年下半期）の選考会が行われ、芥川賞には、上田岳弘氏の『ニムロッド』（「群像」掲載）と、町屋良平氏の『1R1分34秒』（「新潮」掲載）が選ばれ、現代社会の断面を描いた二つの作品が同時に受賞を果たしました。直木賞は、真藤順丈氏が沖縄を舞台にした壮大な物語『宝島』（講談社）で受賞し、読者の間で大きな話題となりました。

夏の訪れとともに、7月17日には第161回（2019年上半期）の選考会が開催されました。芥川賞は、独特で不思議な世界観を持つ今村夏子氏の『むらさきのスカートの女』（「小説トリッパー」掲載）が受賞。直木賞は、大島真寿美氏が浄瑠璃の世界を題材にした歴史小説『渦　妹背山婦女庭訓 魂結び』（文芸春秋）で受賞し、その深い洞察力が高く評価されました。

また、全国の書店員が最も「売りたい本」を選ぶ賞として広く認知されている本屋大賞の第16回が、4月9日に発表されました。この年の大賞に輝いたのは、瀬尾まいこ氏の心温まる長編小説『そして、バトンは渡された』（文藝春秋）で、幅広い層の読者から支持を受け、大ベストセラーとなりました。

惜しまれつつ逝去された方々

2019年は、国内外の文学界において、多大な功績を残された方々の訃報が相次いだ年でもあります。長年にわたり多くの読者や研究者に影響を与えてきた方々が鬼籍に入りました。

年の初めには、SF作家の横田順彌氏（享年73）、フランス文学者の市川慎一氏（享年82）、アメリカ文学者の利沢行夫氏（享年87）が逝去。1月後半には、小説家で文芸評論家の高橋昌男氏（享年83）、そして、現代日本文学に独自の足跡を残した小説家の橋本治氏（享年70）が亡くなられました。2月には、ロシア文学者の安井侑子氏（享年80）の訃報が伝えられました。

春には、ラテンアメリカ文学の研究・翻訳に尽力した鼓直氏（享年89）、米国の著名な作家ジーン・ウルフ氏（享年87）、漫画史にも名を刻む漫画原作者・小説家の小池一夫氏（享年82）が逝去。5月には、小説家の阿部牧郎氏（享年85）、フランスの小説家ユベール・モンテイエ氏（享年90）、気鋭の文芸評論家として活躍した加藤典洋氏（享年71）が亡くなりました。6月には、詩人の菊田守氏（享年83）、そして、ユーモアとペーソス溢れる小説で広く愛された作家の田辺聖子氏（享年91）の訃報に多くの人々が悲しみました。

夏には、中国の小説家 李心田氏（享年90）、劇作家・舞台演出家の柴田侑宏氏（享年87）、小説家の佐藤雅美氏（享年78）、英文学者の出口保夫氏（享年89）が逝去されました。特に8月には、1993年にノーベル文学賞を受賞し、世界文学に大きな影響を与えた米国の作家トニ・モリスン氏（享年88）が亡くなり、その功績が改めて讃えられました。この時期には他にも、小説家の加納一朗氏（享年91）、俳人の伊丹三樹彦氏（享年99）の訃報がありました。

秋から年末にかけても、スウェーデンの文学者サラ・ダニウス氏（享年57）、米国の著名な文学者ハロルド・ブルーム氏（享年89）、カナダの劇作家・脚本家バーナード・スレード氏（享年89）がこの世を去りました。11月には、SFや幻想文学の分野で多大な貢献をした小説家の眉村卓氏（享年85）が逝去。年の瀬、12月には、イギリスの人気推理作家M・C・ビートン氏（享年83）、日本の英文学者 大塚野百合氏（享年95）が亡くなりました。

このように、2019年は、新たな才能の登場と既存の作家たちの活躍が見られた一方で、文学界に深い功績を残した多くの先駆者たちを見送る一年となりました。彼らの残した作品は、時を超えて読まれ続け、後世に影響を与えていくことでしょう。

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