2020年アメリカ空軍E-11A墜落事故

2020年アメリカ空軍E-11A墜落事故の概要

2020年 1月27日、アフガニスタンにおいて、アメリカ空軍のノースロップ・グラマン E-11A（機体番号11-9358）が墜落する航空事故が発生しました。この事故により、搭乗していた2名の乗員と、地上にいた2名のアフガニスタン人が犠牲となりました。

事故機

事故を起こしたE-11Aは、2009年に初飛行を行った機体で、BACN（戦域通信中継機）として第430遠征電子戦飛行隊に所属していました。アメリカ空軍が保有するE-11Aは、事故機を含めてわずか4機のみでした。

乗員

事故機には2名の乗員が搭乗していました。

機長: 46歳男性、中佐。KC-10、RQ-4、MC-12、T-1、E-11の飛行資格を持ち、E-11では教官も務めていました。総飛行時間は4,736時間で、E-11では1,053時間の飛行経験があり、教官としては504時間の経験がありました。
副操縦士: 30歳男性、大尉。T-6、B-1、E-11の飛行資格を持ち、T-6の教官でもありました。総飛行時間は1,343時間で、E-11での飛行経験は27時間でした。

事故の経緯

このフライトは、アフガニスタンの治安部隊を支援するFREEDOM’S SENTINEL作戦の支援と、副操縦士の任務資格訓練を目的としていました。

離陸から事故発生までの経過は以下の通りです。

AFT11時05分：E-11はカンダハール国際空港を離陸。
12時50分：パイロットは42,000フィートから43,000フィートへの上昇を要求し、許可されました。機長は自動操縦で上昇を開始し、E-11は300フィートほど高度を上げました。
12時50分52秒：左エンジンのファンブレードが脱落し、エンジンが大きく損傷したため、自動的に左エンジンが停止しました。この時点でコックピットボイスレコーダー（CVR）の記録が停止しました。オートスロットルは解除されたものの自動操縦は作動したままで、機体は42,300フィートから41,000フィートまで旋回しながら降下しました。
異常発生から10秒後：パイロットは両エンジンのスロットルを半分以下まで引き戻し、右エンジンをアイドル状態にした後、左エンジンのスロットルを上げました。最終的にパイロットは右エンジンを手動で停止しました。
12時51分23秒：パイロットは左エンジンのスロットルを最大位置まで上げ、その後アイドル位置まで引き下げた後、両エンジンのスロットルを最大位置まで上げました。
6秒後：両エンジンが停止したため、デジタルフライトデータレコーダー（DFDR）の記録が停止しました。

両エンジンを喪失したパイロットは、カブール管制に状況を連絡し、滑空可能な距離外のカンダハールへ向かうことを伝えました。パイロットはエンジン再始動のチェックリストに従い30,000フィートで待機しましたが、左エンジンは損傷により再始動不能でした。右エンジンはウィンドミルか補助動力装置を用いれば再始動可能でした。

13時03分30秒、パイロットはシャラナ前線基地へ向かうと管制官に伝えました。その後、エンジン出力が無い状態で滑空を続け、シャラナから39km地点のデヤク地区に墜落しました。墜落時、フラップとスラットは展開された状態であり、パイロットが不時着を試みていたことがうかがえます。現場はほぼ平坦な地形でしたが、小さな犬走りや溝があり、不時着直後にこれらに接触したため機体が分解しました。事故現場付近の雲低は1,000フィートほどであり、パイロットが雲を抜けてから不時着を行うまでに1分もなかったと推測されています。

事故調査

アメリカ軍当局による事故調査の結果、左エンジンのファンブレードが飛行中に脱落したことが判明しました。この脱落により左エンジンが大きく損傷し、自動的に停止しました。その後、パイロットは誤って右エンジンが故障したと判断し、右エンジンも停止させたことが明らかになりました。異常発生から右エンジンの停止までわずか24秒であり、パイロットが驚愕反応や切迫感により誤った判断をしてしまったと推測されています。

両エンジンを喪失した後、パイロットは滑空可能な距離外のカンダハールへ向かうことを決定しましたが、このことから、2人がエンジンの再始動に自信を持っていた可能性が示唆されています。事故機の飛行記録によると、異常発生から3-5分以内であればカーブル国際空港やバグラム空軍基地に、8分以内であればシャンク前線基地に着陸可能でした。また、緊急事態を宣言した12時54分55秒の時点で、事故機はカブールまで2分、シャンクまで5分の位置を飛行していました。

両エンジン喪失時のチェックリストには両方のエンジンの再始動が指示されていましたが、右エンジンが故障したと思い込んだパイロットは左エンジンのみの再始動を試みた可能性があります。故障したエンジンを再始動しないことは、エンジン1基で飛行する際のチェックリストに記載されている規定でした。両エンジンが停止したため、CVRとDFDRの記録が途中で終了しており、パイロットがどのようにエンジンの再始動を試みたかは明らかにされていません。

事故原因

2020年1月21日、調査委員会は最終報告書を発表し、事故原因としてパイロットが正常なエンジンを誤って停止させたことを挙げました。また、パイロットが正常なエンジンを再起動できなかったこと、滑空可能な距離外のカンダハールへ向かうことを決断したことも事故の一因とされました。

事故後

当初、墜落したのはアリアナ・アフガン航空のボーイング737型機であると報道されましたが、同社はこれを否定しました。その後、アメリカ軍が墜落したのは空軍機であることを確認しました。ターリバーンはアメリカ空軍機を撃墜したと主張しましたが、アメリカ空軍はこれを否定しました。

1月29日、国防総省は死亡した2人の乗員の身元を特定しました。

2023年2月には、新型のE-11Aが1機追加納入されました。

脚注

出典

参考文献

* 航空戦闘軍団 (2021) (English) (PDF), UNITED STATES AIR FORCE AIRCRAFT ACCIDENT INVESTIGATION BOARD REPORT - E-11A, T/N 11-9358 430TH EXPEDITIONARY ELECTRONIC COMBAT SQUADRON 455TH AIR EXPEDITIONARY WING BAGRAM AIRFIELD, AFGHANISTAN, http://www.acc.af.mil/Portals/92/AIB/27%20Jan%202020%20-%20ACC%20-%20Bagram%20Airfield%20-%20E-11%20-%20AIB%20Narrative.pdf?ver=JTtqv010mUgW_zSaqrJjnw%3d%3d

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