3C 273

3C 273とは

おとめ座に位置する天体、3C 273は、広大な宇宙に存在する活動的な銀河核、「クエーサー」の中でも特に歴史的に重要な存在です。この天体は、クエーサーとして初めてその正体が確認されたことで知られ、その後の天文学研究に大きな影響を与えました。

物理的特徴

3C 273は、見かけの等級が12.9等と、可視光で観測できるクエーサーの中では全天で最も明るく輝いています。また、赤方偏移が0.158と比較的値が小さいため、地球から最も近いクエーサーの一つとしても位置づけられます。この赤方偏移から計算される光度距離は、およそ749メガパーセク（約24億光年）です。絶対等級は-26.7等にも達し、宇宙に存在する最も明るい天体の一つであることを示しています。もし、仮にこの天体が太陽系からわずか10パーセク（約32.6光年）の距離にある恒星ポルックスと同じ距離にあったとすれば、その見かけの明るさは太陽と同程度になる計算です。中心にある超大質量ブラックホールの質量は、観測された輝線の幅から、約8.86億太陽質量と推定されています。

大規模ジェット

3C 273の際立った特徴として、可視光で観測される巨大なジェットの存在が挙げられます。このジェットは、長さが約20万光年（60kpc）に達し、地球からは空に23秒角の広がりを持って見えます。1995年にハッブル宇宙望遠鏡が行った精密な観測によって、このジェット内部には、明るい部分と暗い部分が交互に並ぶ複雑な構造が存在することが明らかになりました。

発見の歴史

3C 273という名称は、1959年に発表されたケンブリッジの第三次電波源カタログ（3Cカタログ）に、赤緯順で273番目に記載されたことに由来しています。その正確な天体位置は、オーストラリアのパークス天文台でシリル・ハザードが行った月の掩蔽（天体が月によって隠される現象）を利用した観測によって高精度に測定されました。この精密な位置情報に基づいて、後続の可視光観測で対応する天体が発見されました。

1963年、天文学者のマーテン・シュミットとべバリー・オークは、3C 273のスペクトルを詳しく分析し、それが非常に大きな赤方偏移を示していることを発見しました。この発見は、この天体が数億光年ではなく、数十億光年という、それまで考えられていたよりはるかに遠方に存在することを決定的に示しました。この重要な発見は、科学誌ネイチャーに発表されました。

3C 273の発見より以前にも、いくつかの電波源が可視光で見える天体と結びつけられて報告されており、特に3C 48はその最初の例でした。また、とかげ座BL型天体やりょうけん座AU星など、多くの活動銀河核は当初、スペクトルが奇妙な変光星として誤って分類されていました。これらの天体は恒星とは明らかに異なるスペクトルを持っていましたが、その正体は長らく不明なままでした。3C 273は、そのような「奇妙なスペクトルを持つ電波源」の中で、初めて「遠方の宇宙にある、信じられないほど明るい活動的な銀河核」であること、すなわち現在のクエーサーという概念に合致する天体であることが明確に識別された画期的な事例です。このため、厳密には3C 48が最初の電波源対応天体ですが、クエーサーという正体が初めて確認されたのは3C 273であるとされています。

放射特性とジェットの起源

3C 273は、特に強い電波を放出するタイプ（電波クエーサー）であり、1970年には銀河系の外部にあるX線源としても初めて同定された天体でもあります。ただし、21世紀初頭の時点においても、このX線が具体的にどのような物理過程で放射されているのかについては、天文学者の間で議論が続いています。

この天体の明るさは、電波からガンマ線に至るほぼすべての電磁波の波長域で変動を見せており、その明るさの変化周期は数日から数十年と非常に幅広い範囲に及びます。特に電波、赤外線、可視光といった波長で観測される放射には、大規模ジェットからのものと考えられる強い偏光が検出されています。この偏光の存在は、これらの放射が、光速に近い速度で運動する電子などの荷電粒子が磁場中を通過する際に放出されるシンクロトロン放射によって生じている可能性が高いことを示唆しています。

このような極めて強力なジェットは、3C 273の中心に存在する巨大な超大質量ブラックホールと、その周囲を高速で回転しながらブラックホールに落ち込んでいくガスや塵の円盤（降着円盤）との複雑な相互作用によって生成されると考えられています。超長基線電波干渉法（VLBI）を用いた3C 273の詳細な観測によって、電波を強く放射する領域が時間とともに外側へ移動している様子が捉えられており、これは中心から超高速で物質が噴出するジェットが存在することを強く裏付ける証拠となっています。

観測について

3C 273は、毎年5月頃に観測に最も適した時期を迎えます。この時期には、北半球、南半球のどちらからでも観測が可能です。クエーサーとしては非常に明るいため、都市部を離れて空が暗く、肉眼で6.3等級程度の星まで見えるような良好な観測条件であれば、口径15cmクラスのアマチュア向けの比較的大きな望遠鏡でもその姿を捉えることが期待できます。また、3C 273は、アマチュア向けの望遠鏡で観測可能な天体としては、最も遠方に位置するものの一つとしても知られており、宇宙の広大さを実感させてくれる対象と言えます。

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