55年組 (将棋)

55年組（将棋棋士）

将棋界において「55年組」とは、昭和55年度（1980年度）にプロ棋士（四段）となった男性棋士8名の総称です。具体的には、棋士番号142番から149番にあたる、高橋道雄、中村修、泉正樹、依田有司、島朗、南芳一、塚田泰明、神谷広志の各棋士を指します。同一年度内にこれほど多くの棋士が同時にプロ入りしたのは将棋界史上初の出来事であり、以降も類例がない極めて稀なケースでした。このため、彼らは「花の55年組」とも呼ばれ、その存在は特に注目されました。

活躍と棋歴

55年組の棋士たちは、プロ入り後間もなくその才能を開花させました。彼らは順位戦をはじめとする数々の棋戦でめざましい活躍を見せ、当時のトップ棋士であった中原誠、米長邦雄、加藤一二三、谷川浩司、桐山清澄、福崎文吾といった錚々たる顔ぶれと熾烈なタイトル争いを繰り広げました。彼らの中から、高橋道雄が1983年に内藤國雄から王位のタイトルを奪取したのを皮切りに、次々とタイトル獲得者が誕生しました。

一時期には、55年組全体で将棋界の過半数のタイトルを保持するなど、まさに全盛期を迎えました。タイトル獲得には至らなかったものの、神谷広志は1987年に当時の新記録となる公式戦28連勝を達成し、泉正樹も難関とされていた十段戦のリーグ入りを果たすなど、それぞれが確かな実力を示しました。

世代交代とその後

しかし、1980年代の終わりが近づくと、将棋界には新たな世代が台頭し始めます。谷川浩司が更なる強さを発揮し、「チャイルドブランド」と呼ばれた若手精鋭、特に羽生善治らの突き上げが激しくなりました。これにより、55年組は徐々にタイトル戦線の主役の座を譲っていくことになります。南芳一が1991年度後期の棋聖戦でタイトルを失冠し、島朗が1997年度の王座戦挑戦者決定戦で敗退したのを最後に、彼らがタイトル戦の舞台に立つ機会は減少していきました。時代は谷川や羽生善治といった新世代による覇権争いへと移行していったのです。

プロ棋士としてのキャリアを見ると、55年組の多くが引退せず長期間活躍しています。依田有司は2010年に現役を引退しましたが、他の7名はプロ入りから40年以上が経過した現在もなお現役棋士として活動を続けています（泉正樹、南芳一、塚田泰明、神谷広志の4名はフリークラス宣言者）。

昇段についても目覚ましい実績を残しています。南芳一と高橋道雄はタイトルを3期獲得し、早期に九段へ昇段しました。中村修（王将2期）、塚田泰明（王座1期）、島朗（竜王1期）の3名はタイトル獲得期数は3期に届きませんでしたが、勝ち星を積み重ねて八段昇段から約10年強かけて規定勝数（八段昇段後250勝）を満たし九段に昇段しています。また、泉正樹は2013年に、神谷広志は2014年にそれぞれ八段へ昇段しています。依田を除く7名が八段以上の高段者となりました。

同時代の棋士と女流棋士の「55年組」

55年組と同年代には、谷川浩司を筆頭に、福崎文吾、井上慶太、小林健二、田中寅彦といった実力派棋士が多数存在しました。彼らもまた、当時の将棋界を盛り上げる上で重要な役割を果たしました。年齢で見ると、福崎、谷川、井上は55年組のメンバーとほぼ同年齢であり、小林や田中は依田と同い年です（谷川は十七世名人資格者、福崎、井上、小林、田中は九段）。

なお、女流棋士の世界でも「55年組」という表現が使われることがありますが、これは男性棋士の場合とは異なり、昭和55年（1980年）生まれの女流棋士を指します。具体的には、矢内理絵子、千葉涼子、石橋幸緒といった、1997年頃からタイトル戦線で活躍を始めた世代の女流棋士たちを指すことが多いです。「（若手）三羽ガラス」とも呼ばれました。男性棋士の「プロ入り年度」と、女流棋士の「生まれ年」という定義の違いには注意が必要です。

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