6つのトリオ・ソナタ

ヨハン・ゼバスティアン・バッハ：6つのトリオ・ソナタ BWV 525-530

「6つのトリオ・ソナタ BWV 525-530」は、ドイツの作曲家ヨハン・ゼバスティアン・バッハがオルガンのために作曲した全6曲からなる楽曲集です。「6つのオルガン・ソナタ」とも称されます。

概要と特徴

これらのソナタは、概ね1727年から1732年にかけて作曲されたと考えられています。この曲集の最も特徴的な点は、バロック音楽における室内楽の重要な形式の一つであるトリオ・ソナタの構成を、一台のオルガンで実現しようとする、極めて革新的な試みがなされていることです。通常のトリオ・ソナタが、2つの旋律楽器と通奏低音という独立した3つのパートで演奏されるように、このオルガン・ソナタ集では、奏者の右手、左手、そして足鍵盤によるパートが、それぞれ完全に独立した3つの声部を形成しています。これにより、オルガン一台でありながら、まるで複数の楽器が対話しているかのような立体的な音楽が生まれます。

この曲集は、バッハが息子のヴィルヘルム・フリーデマン・バッハの音楽教育のために作曲されたものとする説が有力です。オルガン演奏に必要な高度な技巧、特に両手と足による独立した声部を同時にコントロールする能力を磨く上で、これらのソナタは理想的な練習曲として機能します。技術的な課題に加え、音楽的な完成度も非常に高く、教育的な側面だけでなく、純粋な芸術作品としても優れた価値を持っています。

各ソナタは通常、急-緩-急の3つの楽章で構成されています。ただし、第4番のみ、第1楽章の冒頭にゆったりとしたアダージョの序奏が付加されています。

これらのソナタは、オルガン曲としてだけでなく、室内楽曲としても豊かな魅力を持っています。そのため、オリジナルのオルガン演奏に加え、意図的にヴァイオリン、フルートといった2つの旋律楽器とチェンバロやチェロによる通奏低音を用いた通常のトリオ・ソナタ編成に編曲し直して演奏される機会も少なくありません。このような編曲による演奏の録音も存在し、この曲集の多様な楽しみ方を示しています。

各ソナタの詳細

第1番 変ホ長調 BWV 525

全3楽章で構成されます。第1楽章は活発な_Allegro_（変ホ長調、2分の2拍子）、続く第2楽章は抒情的な_Adagio_（ハ短調、8分の12拍子）、そして終楽章は再び快活な_Allegro_（変ホ長調、4分の3拍子）です。最近の研究では、このソナタはもともとリコーダーとオーボエ、通奏低音のために作曲されたヘ長調のトリオ・ソナタが原曲となっている可能性が指摘されています。

第2番 ハ短調 BWV 526

こちらも3楽章構成です。第1楽章は生気あふれる_Vivace_（ハ短調、2分の2拍子）、中間楽章は荘重な_Largo_（変ホ長調、4分の3拍子）、終楽章は再び速度を上げて_Allegro_（ハ短調、2分の2拍子）となります。ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトは、後にこのソナタの第2楽章と第3楽章を取り上げ、弦楽三重奏のために編曲しています（『6つの前奏曲とフーガ』K. 404aに含まれます）。

第3番 ニ短調 BWV 527

3楽章形式をとります。第1楽章は歩くような速さの_Andante_（ニ短調、4分の2拍子）、第2楽章はアダージョでかつ優しく歌われる_Adagio e dolce_（ヘ長調、8分の6拍子）、終楽章は生き生きとした_Vivace_（ニ短調、8分の3拍子）です。このソナタの第2楽章は、後にバッハ自身によって、フルート、ヴァイオリン、チェンバロのための三重協奏曲 イ短調 BWV 1044の第2楽章に転用されました。また、モーツァルトも第2番と同様に、この第3番の第2楽章を弦楽三重奏用に編曲しています。

第4番 ホ短調 BWV 528

このソナタは3楽章構成ですが、例外的に第1楽章にアダージョの序奏部が付きます。第1楽章は_Adagio_（ホ短調、4分の4拍子）で始まり、すぐに活発な_Vivace_（ホ短調、4分の3拍子）へと移行します。第2楽章は穏やかな_Andante_（ロ短調、4分の4拍子）、終楽章は少しアレグロの速さで_Un poco Allegro_（ホ短調、8分の3拍子）です。第1楽章のヴィヴァーチェ部分は、バッハのカンタータ第76番「天は神の栄光を語る」BWV 76の第2部冒頭に置かれたシンフォニアから転用されたものです。

第5番 ハ長調 BWV 529

全3楽章で構成されます。第1楽章は快活な_Allegro_（ハ長調、4分の3拍子）、中間楽章は緩やかな_Largo_（イ短調、8分の6拍子）、終楽章は再びアレグロの速度で_Allegro_（ハ長調、4分の2拍子）となります。

第6番 ト長調 BWV 530

この曲集を締めくくるソナタも3楽章構成です。第1楽章は生き生きとした_Vivace_（ト長調、4分の2拍子）、第2楽章は遅く静かな_Lento_（ホ短調、8分の6拍子）、終楽章は速やかな_Allegro_（ト長調、2分の2拍子）です。

これらのソナタは、技術的な習熟を目指すオルガニストにとって不可欠なレパートリーであると同時に、バッハの器楽作品の中でも特に精緻で美しい響きを持つものとして、広く愛され続けています。

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