DARTライトレール

ダラス高速運輸公社ライトレール

テキサス州ダラスとその周辺地域における主要な公共交通機関であるダラス高速運輸公社（Dallas Area Rapid Transit、通称DART）は、広範なライトレール網を運営しています。このネットワークは、1996年の開業以来、継続的に拡大し、現在では約150キロメートルに迫る総延長を誇り、アメリカ合衆国において最大のライトレールシステムへと発展しました。その運行には、日本の鉄道車両メーカーが製造した独特な形状の部分超低床電車が用いられています。

概要と発展の経緯

1970年代のダラスは、自家用車の過度な利用による交通渋滞の深刻化や大気汚染といった都市問題に直面していました。これに対応するため、公共交通システムの抜本的な再編が求められるようになります。こうした背景のもと、1983年にテキサス州の法律に基づき、ダラス市を中心とした広域の公共交通を担う機関としてDARTが設立されました。ライトレールの建設計画が具体的に動き出したのは、DART設立の翌年、1984年12月のことです。

実際の建設工事は1990年に始まり、特に中心部の地下区間のトンネルは1994年に完成しました。そして、1996年6月14日、最初の区間として約32キロメートル（20マイル）が試験的に運賃無料での運行を開始。その10日後の6月24日には、有料での本格的な営業運転へと移行しました。開業当初は1日の平均利用者数を15,000人と見込んでいましたが、7月の時点ですでにそれを上回る18,000人を記録するなど、住民からの関心と期待の高さが示されました。

開業後も路線の延伸や車両の増備が積極的に行われましたが、2010年にはDART全体の財政状況悪化に伴い、一部の延伸計画が一時凍結の危機に瀕しました。しかし、徹底したコスト削減努力と連邦政府からの資金援助を得られたことで建設は再開され、ネットワークはさらに拡大。2014年以降は、ダラス・フォートワース国際空港への直通運転を開始し、空港アクセス鉄道としての重要な役割も担うようになりました。

2020年1月現在のデータによれば、DARTライトレールの総延長は約149.6キロメートル（93マイル）、営業キロは約293.5キロメートル（182.4マイル）に達し、これはアメリカ国内のライトレールシステムの中で最大規模です。利用状況も好調で、2018年度には年間約2,887万人の利用者があり、平日（月曜日から金曜日）の平均利用者数も93,400人を記録しています。

運行システムと運賃

DARTライトレールは、現在4つの主要な系統（ライン）で運行されています（2020年1月現在）。基本的には各系統の全区間を走行する列車が中心ですが、混雑緩和や特定の需要に対応するため、一部区間のみを運行する列車や、異なる系統間を直通する列車も設定されています。運転間隔は、通勤・通学時間帯のラッシュ時には約15分おき、それ以外の時間帯（日中や夜間）は約20分から30分おきとなっています。

運賃収受については、乗客が自ら乗車券を用意する信用乗車方式が採用されています。利用者は駅に設置された自動券売機で乗車券を購入するか、またはスマートフォン用の公式アプリ「GoPass」を利用して乗車券を取得します。列車内では、抜き打ちで検査官による検札が行われる場合があり、その際には有効な乗車券やアプリ画面を提示する必要があります。

2019年時点の運賃体系では、午前・午後の区分で利用できる「AM/PMパス」が大人3ドル、終日利用可能な「1日券」が6ドルでした。さらに、午前9時30分から午後2時30分までの日中に限定して利用できる「ミッドデイ・パス」も設定されており、こちらは2ドルという比較的安価な料金で提供されていました。

特徴的な車両

DARTライトレールが開業した1996年から、運行を支えているのは日本の鉄道車両メーカー、近畿車輛が製造した電車です。これらの車両は「Futuristic（未来的）」をテーマにした流線型の外観が特徴です。アメリカ国内の公共事業における国産品の使用を奨励するバイ・アメリカン法に対応するため、多くの米国製部品が使用されているほか、アメリカ独自の厳しい安全基準にも適合するよう特別に設計されています。

当初導入されたのは2車体連接車でしたが、バリアフリー化の推進や増加する乗客への対応として、2008年以降は床上高さが406.4ミリメートルの部分低床構造を持つ3車体連接車が導入され、既存の車両も3車体化改造が行われています。これらの車両は「SLRV」（Super Light Rail Vehicle）と呼ばれており、2020年1月現在、合計163両が在籍しています。

今後の展望

DARTライトレールは、既存路線の改良とネットワークのさらなる拡充に向けた複数の計画が進行中です（2020年1月現在）。

その一つに「D2サブウェイ」計画があります。これは、ダラス中心部のダウンタウン地区を通過するパール/アーツ高架橋駅とウエストエンド駅の間が、ライトレールの全系統が集中する区間であり、線路容量の面でボトルネックとなっている現状を解消するためのものです。2007年から検討が始まり、2017年にダラス市議会およびDART理事会から承認を得ています。既存線に並行して地下に建設される新たな路線で、ディープエルム駅から分岐し、地下区間を経てビクトリー駅に至るルートが計画されています。ディープエルム駅付近の分岐点はデルタ線構造となっており、万一の際にも柔軟な列車運行が可能になる設計です。地下に3箇所、地上に1箇所の駅が新設される予定です。D2サブウェイが完成すれば、特にグリーンラインとオレンジラインがこの新線を経由することになり、ダウンタウン地区における列車本数の増加や、運行の信頼性向上が期待されています。

また、ラッシュ時の混雑緩和を目指し、レッドラインとブルーラインの主要な28駅において、2019年から2022年にかけてプラットホームの延伸工事が実施されています。これにより、これらの系統で3両編成での運行が可能となり、1列車あたりの輸送量が約33%増加する見込みです。

さらに、オレンジラインでは、新たに「ループ12駅」と「ヒドゥンリッジ駅」の建設が進められており、特にヒドゥンリッジ駅については2020年中の開業が予定されていました。これらの新駅開業により、沿線地域の利便性向上に寄与することが期待されています。

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