EBR装甲車

EBR装甲車：フランスが生んだ多用途偵察戦闘車

EBR装甲車（Engin Blindé de Reconnaissance）は、フランスのパナール社が開発・製造した、独特な設計思想を持つ偵察戦闘車です。75mm砲を搭載したEBR 75と、90mm砲を搭載したEBR 90の二種類が存在します。

概要：変幻自在の走行性能とユニークな構造

EBR装甲車の最大の特徴は、八輪ある車輪のうち、中央寄りの四輪を状況に応じて上げ下げできる点です。これにより、整地された市街地などでは四輪駆動で高速走行、不整地では八輪駆動で接地圧を下げ、安定した走行が可能となります。この機構は、同じパナール社が開発したERC 90や、ソ連のBRDM-1/BRDM-2装甲偵察車にも見られます。

また、前後対称の車体にそれぞれ運転席を備えているのも特徴的です。低全高の水平対向エンジンを砲塔下部に配置し、前後の運転席にそれぞれ1名（後部操縦士は無線手を兼任）、砲塔に車長と砲手という配置で運用されます。前後端側の車輪は四輪操舵方式で、高い操縦性を実現しています。同様の前後運転席配置は、西ドイツのルクス装甲車にも見られますが、こちらはエンジンが後端部に配置されており、完全な前後対称ではありません。

武装は、主砲の他に3挺の機関銃を搭載しています。主砲同軸機銃に加え、車体前後の運転席下部に固定式の機関銃が1挺ずつ装備されており、それぞれ前後の操縦士が射撃を担当します。

ただし、本車にはNBC防御能力、浮航能力、暗視装置といった特殊機能は搭載されていません。

開発：大戦の遅延と再始動

EBR装甲車の開発は、第二次世界大戦前の1937年に遡ります。パナール モデル201型装甲車として試作車が製造され、1940年からの生産が予定されていました。しかし、試作車がアルジェリアでの試験中に消息を絶ち、計画は頓挫。大戦終結後の1951年に改めて計画が再開され、火力を大幅に強化したEBR装甲車として、ようやく生産が開始されました。

当初はFL-11 揺動砲塔に砲口初速600m/sのCN-75-49 75mm砲を搭載していましたが、1954年にはAMX-13 軽戦車と同型の、自動装填装置付きFL-10 揺動砲塔に砲口初速1,000m/sのCN-75-50 75mm砲を搭載した型が登場します。しかし、EBRの車体にはFL-10砲塔は重すぎたため、1960年代にはFL-11 砲塔型のみが運用されるようになりました。1963年には、一部の車両が75mmライフル砲をボアアップしたCN-90-F2 90mm滑腔砲に換装され、EBR-90として改修されました。なお、車体前後の固定機関銃は1950年代中盤から順次撤去され、EBR-90は砲同軸機銃のみを装備しています。

EBR装甲車は1954年までに1,200両が生産され、ポルトガル、モロッコ、チュニジア、モーリタニア、インドネシアなどへ輸出されました。フランスでは、より小型軽量なAML 60/90などと共に使用されましたが、1978年以降は新型のAMX-10RCに更新され、順次退役しました。

派生型：装甲兵員輸送車 EBR ETT

1957年には、砲塔を搭載せず、AMX-13 VCIに倣った兵員室を設けた装甲兵員輸送車型が開発され、“EBR ETT”と命名されました。

エンジンや駆動系の配置は偵察戦闘車型と同一ですが、車体中央部から後部にかけて拡張された戦闘室を持ち、ここに兵員を収容します。後方操縦席もそのまま備えられています。車体中央部には7.5mm機関銃を装備したCAFL 38機関銃塔が装備されています。

フランス軍には採用されませんでしたが、ポルトガル軍が少数を装備しました。

実戦投入：独立戦争から国葬まで

フランス軍に配備されたEBR装甲車は、アルジェリア独立戦争に投入され、その後も北／西アフリカ地域で発生した紛争に、フランスが停戦監視や自国民保護のために介入した際に用いられました。

また、1970年11月にシャルル・ド・ゴールが死去した際には、砲塔を外したEBR装甲車が葬送車として用いられ、ド・ゴールの棺を載せてパリを行進しました。この車両はその後、記念品として保存・展示されています。

ポルトガル軍に配備されたEBR装甲車は、1960年代に活発化したアンゴラ、モザンビーク、ギニアビサウの独立戦争に投入されています。

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