EM-2

EM-2 アサルトライフル：幻に終わったイギリスの先進的設計

EM-2、またはNo.9 Mk1小銃は、イギリスで試作されたアサルトライフルです。その革新的な設計は、ブルパップ式レイアウトと光学照準器の採用に表れていました。第二次世界大戦の戦訓と、ナチス・ドイツの先進的な突撃銃の設計を参考に、中間弾薬を採用したことも特徴です。

概要

1951年、EM-2は一時的にイギリス軍の標準小銃として正式採用されました。しかし、その直後、第三次ウィンストン・チャーチル政権によって採用は撤回されました。この背景には、北大西洋条約機構（NATO）における小火器と銃弾の標準化を巡る、アメリカの強硬な姿勢がありました。

EM-2は、過渡期の実験的な小銃として、様々な中間弾薬の仕様が検討されました。特に注目されたのは、.280ブリティッシュ弾です。この弾薬は、イギリス軍が長年使用してきた.303ブリティッシュ弾と各種リー・エンフィールド小銃を置き換えることが期待されていました。しかし、アメリカは.280ブリティッシュ弾を小銃や機関銃の実包として非力と主張し、より強力な7.62x51mm弾の採用を強く要求したのです。

最終的に、EM-2は7.62x51mm弾に対応できず、採用は中止されました。しかし、ブルパップ式レイアウトは後の制式小銃L85へと受け継がれています。

開発の背景

第二次世界大戦終結後、各国軍は戦訓に基づき、突撃銃の開発を始めました。イギリス軍も、第一次世界大戦前から.303ブリティッシュ弾の更新を計画していましたが、財政的な制約から30年もの遅れが生じていました。第二次大戦終結により、その制約から解放されたイギリスは、新型の.280インチ（7mm）口径の中間威力弾を開発しました。また、この.280弾を使用する自動小銃として、タデンガンも開発されました。この弾薬には、FN社とカナダ陸軍も関心を示し、FN社は.280弾を使用する新型小銃を設計し、カナダ陸軍はイギリス軍との共同での近代化を進めていました。

エンフィールド造兵廠（RSAF）では、4つの新型小銃設計案を検討しました。そのうち、スタンレー・ソープのEM-1小銃と、ステファン・ケネス・ジャンソンのEM-2小銃の2種類の類似した小銃が本格的な設計に進みました。エリック・ホールのEM-3小銃とデニス・バーニーのEM-4小銃は、図面段階で却下されました。1948年1月6日には、これらの小銃に正式な名称が与えられ、それぞれソープ・ライフル、ジャンソン・ライフルと名付けられました。ただし、ステファン・ケネス・ジャンソンはポーランド人銃器技師、カジミェシュ・ヤヌシェヴスキ大尉の偽名でした。

これらの小銃は、いずれもブルパップ式レイアウトを採用していました。ブルパップ式は、弾倉と薬室をピストルグリップより後方に配置することで、全長を約20%短縮しつつ、銃身長を維持できるという利点があります。事実、EM-2はM14よりも9.5インチ短く、銃身は2.5インチ長かったのです。両小銃とも、20発の着脱式弾倉、光学照準器、キャリングハンドル、セレクティブファイア機能を備えていました。両者は非常に似通っていましたが、内部設計には差異がありました。EM-1は生産効率を上げるため鋼板プレスを使用しており、そのため重量がやや増加していました。その後、BSA社は第5の7mm小銃設計案として、BSA 28Pを提出しました。

最終的に、EM-2が最も優れた設計とされ、1951年4月25日に「No9 .280口径自動小銃」としてイギリス陸軍に採用されました。陸軍省内では、1950年にアメリカで行われたトライアルの頃からこの名称を使用していたといわれています。

EM-2は、英陸軍が20世紀に採用した他の小銃と同様、射撃精度を特に重視した設計でした。

NATO標準化問題

1949年、北大西洋条約に基づき北大西洋条約機構（NATO）が結成され、加盟国間の火器や弾薬の共通化が重要な課題となりました。最初にこれに応じたのはアメリカで、7.62x51mm弾を使用する試作小銃T25とT44を提案しました。

1951年、アバディーン性能試験場で、EM-2を含む各種新形小銃のトライアルが行われました。アメリカ側はイギリス製弾薬の威力が不足していると批判し、イギリス側はアメリカ製弾薬が強力すぎてフルオート射撃の制御が難しいと反論しました。トライアルには、ベルギーのファブリックナショナル（FN）が設計した.280弾仕様のFN FALも登場しました。

標準化に関する議論は、カナダが「アメリカが共同歩調を取る場合のみ、イギリスの.280弾を採用する」と宣言したことで決着しました。このような事態が発生する可能性は低く、イギリスは7.62x51mm弾を受け入れざるを得ない状況に追い込まれました。ウィンストン・チャーチルは、NATO標準化を銃の性能よりも重要と考え、.280弾とEM-2の採用を撤回しました。

その後、EM-2の使用弾を変更したいくつかの派生型が試作されました。シャンボンスでは7x49mm弾と7.62x51mm弾のモデルを試作しました。7.62x51mm弾の試作型の一つは、後に.30-06弾仕様に改造されました。RSAFエンフィールドでは10丁、BSAでは15丁の7.62x51mm弾仕様のEM-2が製造されました。カナディアン・アーセナルでは、7x51mm弾仕様のものが10丁製造されました。

最終的に、EM-2を7.62x51mm弾に対応させることは不可能と判断され、ライセンス生産されたFN FAL、すなわちL1A1自動小銃が採用されました。FALも.280弾仕様から再設計された小銃でしたが、より大きく重いため、7.62x51mm弾への適応が比較的容易でした。

チャーチルは、イギリス連邦各国、NATO諸国、そしてアメリカ陸軍がFN FALを採用することを期待していましたが、アメリカは試作小銃T44をM14として採用しました。

その後、実戦において、イギリスの中間威力弾に対する考え方が正しかったことが証明されました。強力すぎる7.62x51mm弾はフルオート射撃には不向きで、より小口径の弾薬が必要とされるようになったのです。1960年代半ば、アメリカ軍はアーマライト社のAR-15をM16として採用しました。これは5.56x45mm弾を使用する小型自動小銃で、M14を更新していきました。その数年後には、NATO各国も小口径銃弾を採用し、5.56x45mm弾が新たなNATO標準弾となりました。

イギリス軍は、この決定の直前に、別の中間威力弾の開発に着手していました。1970年頃、EM-2のうち2丁が6.25x43mm弾仕様に改造されましたが、より小口径の4.85mm弾が試作されると、L64/65小銃が新たに設計されたため、EM-2の復活は短期間で終わりました。L64/65小銃は、現在のイギリス制式小銃であるSA80シリーズの原型です。ブルパップ型レイアウトによる外観上の類似にもかかわらず、SA80の構造はEM-2とは大きく異なり、むしろAR-18やSAR-87のブルパップ改良型とみなされます。ただし、EM-2開発時の歩兵用個人装備に関するアイデアは、SA80にも反映されています。

脚注

EM-2は、ブルパップ式レイアウトの先駆的な例として、後の小銃設計に大きな影響を与えた。
.280ブリティッシュ弾は、中間威力弾の有効性を示す例として、歴史的に重要な意義を持つ。

参考文献

Dugelby, Thomas B. (1980). EM-2: Concept and Design. Toronto: Collector Grade Publications.
Hogg, Ian V.; Weeks, John (1977). Military Small Arms of the 20th Century. Arms & Armour Press / Hippocrene.
Hobart, Major F. W. A. (1972). Guns Review Vol. 12 Number 3 - The British 7mm (.280 in) Rifles. London: Ravenhill Publishing Company Limited

関連項目

7.62x51mm弾
L1A1

外部リンク

Enfield EM2 at securityarms.com
Enfield EM2 at world.guns.ru
Enfield EM2 info
Stefan Janson's FN FAL derivative
Mid powered British cartridges in the 20th Century, focussed on .256 but including .280 and the EM2 rifle
EM2 specifications
British Pathé newsreel of the EM-2
Canadian Arsenal Limited variant with winter trigger
EM-2 fired with one hand
"New British Rifle Outfires U.S. Garand" , October 1951, Popular Science
The EM-2 (Rifle No. 9, Mk 1): Britain's Original Bullpup Rifle

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