L1A1

L1A1 セルフローディングライフル：英連邦の主力小銃

L1A1セルフローディングライフル（SLR）は、ベルギーのFN FAL自動小銃を基に、イギリス連邦諸国でライセンス生産された小銃です。FALの設計をベースに、各国の軍事情勢や運用思想に合わせて独自に改良が施されました。その結果、多くの派生型が生まれ、各国の主力小銃として長きにわたり活躍しました。

概要

L1A1は、イギリス本国をはじめ、オーストラリア、カナダ、ジャマイカ、マレーシア、ニュージーランド、ローデシア、インドなど、多くの英連邦諸国で採用されました。これらの国々で生産されたFALの多くは、フルオート射撃機能が取り除かれ、セミオート射撃専用となっています。しかし、軽機関銃型であるL2A1やC2A1などでは、フルオート射撃が可能で、重銃身や二脚が装備されています。弾倉は20発の箱型弾倉が標準ですが、軽機関銃型には30発の箱型弾倉も使用可能です。

これらの軽機関銃型を積極的に採用したのは、オーストラリアとカナダのみで、イギリスやニュージーランドではブレン軽機関銃を改良したL4軽機関銃が用いられていました。また、カナダ海軍向けに調達された一部のC1小銃には、フルオート射撃機能が追加されたモデルも存在します。

1980年代半ばになると、イギリス軍は5.56mmNATO弾を使用するL85 小銃を採用し、L1A1の更新を開始しました。オーストラリア軍もステアーAUGを基にしたF88オーステアーを採用し、ニュージーランド軍もそれに続きました。カナダ軍はC1小銃をAR-15を基にしたC7小銃シリーズで更新しました。また、オーストラリア軍とカナダ軍では、軽機関銃型であるL2A1とC2も、それぞれミニミ軽機関銃を基にしたF89軽機関銃とC9軽機関銃に更新されました。

開発

L1A1の開発は、1950年代に設立された連合軍ライフル委員会に遡ります。この委員会は、NATO加盟国全体で単一の小銃と弾薬を標準化することを目標としていました。イギリスは、独自の.280ブリティッシュ弾とNo.9小銃を提案しましたが、7.62x51mm弾を推すアメリカとの対立により、最終的にNo.9小銃の採用は見送られ、1954年にL1A1がイギリス軍の主力小銃として採用されました。これにより、NATO標準弾は7.62x51mm弾に決定したものの、NATO標準小銃は決定されませんでした。

FALは元々メートル法で設計されていましたが、英連邦諸国ではヤード・ポンド法（帝国単位）が用いられていたため、ライセンス生産の際にヤード・ポンド法に基づいて再設計されました。この結果、インチパターンと呼ばれる派生型が生まれました。ただし、部品の互換性はほとんど失われていません。

運用

L1A1は、冷戦期から現代に至るまで、数々の紛争で使用されました。イギリス陸軍では、マレー危機、北アイルランド紛争、フォークランド紛争、湾岸戦争などで使用されました。オーストラリア軍とニュージーランド軍はベトナム戦争で使用し、ローデシア軍はローデシア紛争で使用しました。

イギリス

イギリスでは、連合軍ライフル委員会の決定に基づいた変更を加えたFALを、L1A1セルフローディングライフルとして再設計・生産しました。エンフィールド造兵廠、バーミンガム小火器社、王立造兵廠、ファザカーリー小銃廠が生産を担当し、その後はパーカー・ヘイル社が交換部品を製造しました。1954年に採用されてから、1985年にL85 小銃に更新され始めるまで、長期間にわたり使用されました。

L1A1は、ヤード・ポンド法に基づいて再設計されたことや、イギリスの運用思想を取り入れた改良が施されたため、標準的なFALとはいくつかの違いがあります。最も大きな変更点は、オリジナルのFALがセミオート/フルオート射撃の切り替えが可能であるのに対し、L1A1はセミオート射撃のみ可能とされた点です。その他にも、コッキングハンドル、消炎器、照門、機関部、ボルト、トリガーガード、銃床、セレクターレバー、マガジンキャッチレバー、分解レバー、自動ホールドオープン機能、照準器など、様々な部分が改良されました。

初期生産型はクルミ材の木製部品を使用していましたが、後期生産型ではナイロン6,6とガラス繊維を組み合わせたマラニール製の合成繊維に置き換えられました。また、体格に合わせて調整可能な台尻も用意されました。木製部品とマラニール製部品が混在した状態の小銃も多く存在しました。

L1A1のセレクターは、2点式で、「安全(S)」と「連発(R)」が刻印されています。弾倉はL4軽機関銃のものも使用可能でしたが、装填の信頼性に問題がありました。また、弾倉の形状も、オリジナルFALとは異なっていました。英連邦製のL1A1はインチ単位で設計されていますが、基本的な寸法はオリジナルFALと変わりません。ただし、ネジなどの細かい部品の互換性は失われています。

L1A1には、ハイス・サイトと呼ばれる近距離用の照準器と、SUITと呼ばれるプリズム式のオフセット型照準器が用意されていました。1985年にL85 小銃が採用された後、L1A1は段階的に退役し、一部は売却・破棄されました。また、一部はアメリカへ輸出され、部品として販売されたり、ルクセンブルクの企業によって改修され、欧州を中心に流通しています。

オーストラリア

オーストラリアは、イギリスやカナダと共に、FALの改良型を採用しました。オーストラリア軍が採用したL1A1は、SLR（セルフローディングライフル）と呼ばれ、フルオート射撃機能が追加されたモデルはAR（オートマチックライフル）と呼ばれました。オーストラリア製のL1A1は、イギリス製とほぼ同じ機能でしたが、軽量化のために機関部が切り詰められており、カナダ製のC1小銃に似た形状をしています。

1988年にF88オーステアーに更新されましたが、一部は1990年頃まで予備装備として残されていました。オーストラリア陸軍は、1990年代初頭のナミビアでのPKO活動で、M16A1小銃と共にL1A1小銃を使用していました。

オーストラリアは、カナダと共同でL1A1を基にした軽機関銃型L2A1を開発しました。L2A1は、オリジナルFALのFAL 50.41/42に似ていますが、二脚や機関部の覆いに独自の特徴があります。L2A1は、ブローニングM1918自動小銃やブレンガンと同じような役割を求められましたが、ブレンガンの方が優れていました。L2A1用の30発弾倉も開発されました。

オーストラリア製のL1A1は、リズゴー小火器工廠で製造され、1959年から1986年までに約22万丁が製造されました。L2A1は1962年から1982年にかけて約1万丁が製造されました。また、ニュージーランドやシンガポール、パプアニューギニアなどへ輸出もされました。

ベトナム戦争中、SLRはオーストラリア軍歩兵の標準装備であり、多くの兵士がその性能と7.62mm弾の殺傷力に信頼を寄せていました。また、特殊空挺部隊連隊（SASR）では、L2A1を基に銃身を切り詰め、アメリカ製XM148擲弾銃を取り付けた「ビッチ」と呼ばれる改造L1A1が使用されていました。また、身長の低い兵士向けに銃身を短縮したL1A1-F1も開発されました。

1970年にはL1A1の部品を利用したブルパップ型小銃も試作されました。

カナダ

カナダ軍は、イギリスのL1A1に相当する標準モデルとしてC1A1小銃を採用しました。C1A1は、特徴的な回転盤式照門と2分割式の撃針を採用し、寒冷地での使用を想定してトリガーガードが折り畳めるようになっています。また、ストリッパー・クリップでの装填を考慮して、機関部の覆いが他の英連邦製L1A1よりも短くなっています。製造はカナディアン・アーセナルズ社が担当しました。カナダは、FALを最初に標準歩兵銃として採用した国の一つです。C1A1は1950年代から1984年まで使用され、その後はC7小銃に更新されました。

オーストラリア製L2A1に類似した軽機関銃モデルとして、C2A1が開発されました。C2A1は、FN FAL 50.41/42に似ていますが、二脚が木製部品で覆われています。また、機関部覆いの上には照準距離200-1,000mのタンジェント・サイトが設けられています。カナダ海軍向けには、C1およびC1A1にフルオート射撃機能を追加したC1DおよびC1A1D小銃も設計されました。

インド

インドでは、イギリスのL1A1小銃をリバースエンジニアリングして、7.62mm 1A1小銃を開発しました。1A1は、インドのティルチラーパッリ兵器廠で製造されています。イギリス製L1A1との大きな違いは、銃床の形状です。1A1の銃床は、リー・エンフィールド小銃のような肩当て板が取り付けられており、オイルボトルやクリーニングキットを収納できるスペースがあります。インド陸軍では、INSAS小銃を補完する形で配備されており、輸出も行われています。また、フルオート射撃が可能な1Cというモデルも設計されています。

ジャマイカ

ジャマイカでは、英連邦構成国としてイギリス製のSLRをジャマイカ国防軍の主力小銃として採用しました。1980年代にはイギリスでL85A1が開発されましたが、ジャマイカでは支援兵科向け装備としてのみ採用し、主力歩兵銃としてはSLRが使用され続けました。

マレーシア

マレーシア陸軍は、1969年頃にL1A1小銃を採用しました。マレーシア海軍では、陸軍に先駆けて1965年から1966年頃にL1A1小銃を導入しました。マレーシア警察でも、準軍事組織である汎用作戦部隊で使用されています。反政府活動を行っていたマラヤ共産党も、鹵獲したL1A1を使用しました。1990年代にHK33、ベレッタAR70、M16A1小銃などが採用されたことで第一線を退きましたが、現在でも国土防衛後備軍団などで使用されています。

ニュージーランド

ニュージーランド陸軍は、L1A1小銃を標準的な軍用小銃として30年以上使用しました。1958年に、オーストラリアのリズゴー兵器廠に15,000丁のL1A1小銃を発注し、1965年までに納入されました。ニュージーランド海軍と空軍も、陸軍に続いてL1A1小銃を採用しました。ニュージーランドのL1A1は、イギリス製と同様の黒いプラスチック製部品が使用され、木製部品と混在している小銃も多く見られました。キャリングハンドルは取り外されることが多く、一部の部隊にはSUIT型照準器が支給されました。重銃身型のL2A1も採用されましたが、広く普及はしませんでした。1988年にステアーAUGへの更新が始まり、現在ではほとんどの部隊でAUG小銃に更新が完了していますが、海軍では少数のL1A1が艦艇搭載用として運用されています。

ローデシア

南ローデシア植民地の軍部隊は、イギリス製L1A1小銃を採用しました。1965年のローデシアによる一方的な独立宣言後も、L1A1の使用は続きましたが、新規の供給は途絶えました。これを補うため、南アフリカから同国がライセンス生産したR1小銃を3万丁以上購入しました。1965年から1980年までのローデシア紛争では、これら2種類の小銃がローデシア治安軍の主力小銃として使用されました。

主な運用国一覧

オーストラリア：ライセンス生産
カナダ：ライセンス生産
ブルネイ
ジャマイカ：イギリス製およびオーストラリア製を使用
クウェート
マレーシア
ニュージーランド：1960年よりオーストラリア製を使用
パプアニューギニア：オーストラリア製を使用
ローデシア/ローデシア
シエラレオネ
イギリス

参考文献

Bishop, Chris. Guns in Combat. Chartwell Books, Inc (1998). ISBN 0-7858-0844-2.
Jones, Richard D. Jane's Infantry Weapons 2009/2010. Jane's Information Group; 35th edition (27 January 2009). ISBN 978-0-7106-2869-5
Palazzo, Albert. Australian Military Operations in Vietnam, Australian Army Campaigns Series # 3, 2nd edition, Canberra: Army History Unit. (2011) [2009]. ISBN 978-0-9804753-8-8.