F-22 (航空機)

F-22 ラプター：世界最高峰のステルス戦闘機

F-22ラプターは、ロッキード・マーティンとボーイングが共同開発した、第5世代ジェット戦闘機です。その愛称である「ラプター」は猛禽類を意味し、開発元はこれを「航空支配戦闘機（Air Dominance Fighter）」と位置付けています。

概要

F-15C/Dの後継機として、先進戦術戦闘機計画（ATF）に基づき開発されたF-22は、世界で初めて実用化されたステルス戦闘機です。ミサイルや爆弾を機体内部に搭載することで高いステルス性を確保し、アフターバーナーを使用しない超音速巡航（スーパークルーズ）能力も有しています。これらにより、世界最高クラスの戦闘能力を持つと評価されています。

多用途戦術戦闘機に分類されますが、ステルス性能の優先により対地攻撃能力は限定的です。その能力は、敵対勢力の対空装備を効果的に無力化し、空戦能力を最大限に活かすことに重点が置かれています。先行世代のF-15が目指した航空優勢（制空権）を超え、戦域全体の支配を目指す点が大きな特徴です。

冷戦時代に開発が始まり、当初は750機の配備が計画されましたが、開発遅延や冷戦終結、予算削減などの影響を受け、最終的には187機（試作機を含むと197機）の生産にとどまりました。高額な開発費と生産数の減少により、1機あたりのコストは約1億5,000万ドルに達しています。当初計画されていた複座型（F-22B）の生産は、予算縮小と地上シミュレータによる代替可能性から中止されました。

開発経緯

1985年、アメリカ空軍は7社の航空機メーカーに先進戦術戦闘機（ATF）のコンセプトデザインを要求。1986年にはロッキードとノースロップの2案が選定され、それぞれYF-22とYF-23の試作機が製造されました。エンジンについてもプラット・アンド・ホイットニーとGEの2種類が競争開発されました。

1991年、YF-22とプラット・アンド・ホイットニーのYF119-PW-100エンジンの組み合わせが正式採用されました。YF-22とYF-23の開発には約38億ドルの費用が投じられました。

F-22選定後、量産型開発が開始されましたが、冷戦終結による国防費削減の影響を受け、生産数は段階的に削減されていきました。開発過程においては、レーダー反射断面積（RCS）に関する問題や、複座型開発の中止など、数々の課題がありました。最終的に、2009年度の調達分をもって生産が終了し、2012年に最終号機が引き渡されました。

設計と性能

F-22は、「高いステルス性」「アフターバーナー不要の超音速巡航（スーパークルーズ）」「短距離離着陸（STOL）」という3つのSを満たす性能を備えています。

高いステルス性により、敵のレーダー探知を回避し、先制攻撃を可能とする「先制発見・先制攻撃・先制撃破（First Look・First Shoot・First Kill）」戦法が有効です。

機体構造はセミモノコック構造で、チタニウム、複合材、アルミニウムなどを用いた高度なステルス設計が施されています。レーダー波吸収素材（RAM）とレーダー波吸収構造（RAS）を組み合わせ、レーダー反射断面積を0.001～0.01m²程度に抑えています。

複雑な形状の主翼と、外側に傾いた垂直尾翼など、ステルス性を高めるための工夫が随所に凝らされています。

エンジン

プラット・アンド・ホイットニー製のF119-PW-100エンジンを2基搭載。ミリタリー出力でのスーパークルーズを実現するため、バイパス比を小さくしています。アフターバーナー使用時の最大推力は35,000lbですが、ミリタリー最大推力は非公開です。

スーパークルーズ能力により、アフターバーナーを使用せず最大マッハ1.58（発表によってはマッハ1.7）の巡航が可能。赤外線放射量の低減にも寄与しています。推力偏向ノズルにより、超音速域や高高度での運動性を確保しています。

アビオニクス

アクティブ・フェーズドアレイ（APA）方式のAN/APG-77|AN_APG-77レーダーを搭載。低被探知（LPI）レーダーであり、約250km先の目標を探知できます。電子戦システム、ESM（Electronic Support Measures）なども搭載し、高い情報収集・対抗能力を備えています。

機体の電子機器は複数搭載され、リスク分散と整備性の向上が図られています。冷却システムは環境制御システム（ECS）による内部循環方式を採用。

飛行制御システムは3重のフライ・バイ・ワイヤ（FBW）を使用し、安全性と安定性を高めています。

高性能なネットワーク機能（CNIシステム）を備え、他のF-22や早期警戒管制機、地上基地などとのデータリンクによる連携戦闘を可能にしています。ただし、MADLなどの双方向データリンクは搭載されていません。

コックピットはグラスコックピットを採用。アビオニクスソフトウェアはAda言語で開発されており、膨大なコード量（220万行）となっています。

武装

固定武装として、M61A2 20mm機関砲（480発）を搭載。

兵装は機体下面と側面のウェポンベイに搭載されます。ステルス性を維持するため、兵装搭載量は犠牲となっています。

空対空ミサイルとしてAIM-120 AMRAAM、AIM-9 サイドワインダーなどを搭載可能です。

空対地攻撃用にはJDAM、SDBなどの誘導爆弾を搭載できます。

ステルス性を考慮しない運用では、翼下に燃料タンクや追加のミサイルを搭載することも可能です。

戦闘能力

高いステルス性と先制攻撃能力から、世界最高水準の戦闘能力を有すると評価されています。「ノーザン・エッジ演習」では、高い戦果を挙げました。

2014年には、シリアにおけるISIL施設への空爆作戦に初の実戦投入されましたが、対空戦闘は発生していません。

高い機動性から、有視界戦闘でも優位性を発揮します。ただし、電子戦術機や一部機種に対しては撃墜されるケースもあり、パイロットの技量も戦闘能力に影響します。

名称と愛称

当初は「F/A-22」という名称でしたが、後に「F-22」に戻されています。「ラプター」という愛称は、1997年のロールアウト時に付けられました。

生産数

冷戦終結後の国防予算削減、開発費の高騰、生産数の減少という悪循環により、当初計画から大幅に生産数を減らしています。当初750機が計画されていましたが、最終的には187機にとどまりました。

輸出

F-22の軍事機密の流出を懸念し、1998年の国防予算法には輸出禁止条項（オビー修正条項）が盛り込まれました。このため、日本やイスラエルへの輸出は実現していません。

運用コスト

F-22の運用コストは非常に高額です。整備費用も既存の戦闘機よりも高くなっています。レーダー波吸収皮膜の維持にも高いコストがかかります。

アップグレード

F-22は、ソフトウェアやハードウェアのアップグレードが継続的に行われています。ミッドライフ・アップグレード（MLU）も計画されています。

アメリカ空軍での運用

F-22は、F-15、F-16、そしてF-35と連携した運用を予定しています。「ハイ・ロー・ミックス」戦略の後継として、「フォース・ミックス」という概念が提唱されています。

F-22は、ティンダル空軍基地、ラングレー空軍基地、エルメンドルフ空軍基地など、アメリカ国内の複数の空軍基地に配備されています。また、沖縄の嘉手納空軍基地など、海外への一時的な展開も行われています。

事故と損失

F-22は、これまで幾つかの墜落事故や運用上の問題を抱えています。一酸化炭素中毒事故なども発生しており、安全性の向上に課題が残されています。

日本への一時配備

F-22は、2007年と2009年、2010年、2011年、2012年、2016年と数回に渡り、沖縄の嘉手納空軍基地に一時配備されました。また、2009年には横田空軍基地にも一時配備されています。これらの配備は、地域安全保障パッケージ（Theater Security Package）の一環として行われています。

実戦

F-22は2014年、シリア空爆作戦で実戦投入されましたが、対空戦闘は発生しませんでした。2023年2月には、アメリカ上空を飛行していた中国の偵察気球を撃墜したと発表されました。

型式と派生型

F-22には、試作機であるYF-22や複座型を計画されたF-22Bなどがあります。輸出向けに計画されたF-22J-Exや、戦闘爆撃機型であるFB-22なども提案されています。

まとめ

F-22ラプターは、高いステルス性能と戦闘能力を備えた世界最高峰の戦闘機です。しかし、その高コストと輸出制限は、運用に大きな制約を与えています。将来は、より高度な第6世代戦闘機に役割を譲る可能性があります。

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