RD-180

RD-180は、ロシアで開発された高性能な液体燃料ロケットエンジンです。先行する大型エンジンRD-170から派生しており、RD-170が1基のターボポンプで4つの燃焼室を駆動するのに対し、RD-180は同じく1基のターボポンプで2つの燃焼室を動かす設計となっています。外見からは独立した2基のエンジンのように見えますが、実際にはこれ全体が一つのRD-180エンジンです。

推進剤にはケロシンと液体酸素を使用し、燃焼効率を最大限に高める高圧二段燃焼サイクルを採用しています。特に、酸化剤である液体酸素を燃料よりも過剰にして予燃焼器で燃焼させる「酸素リッチ」な方式を採用している点が特徴です。これは、重量あたりの出力（推力）を最大化するために有利な設計ですが、同時にエンジン内部を高圧かつ酸化性の強いガスが流れるため、高い耐熱性・耐食性を持つ特殊な材質が要求されます。ノズルはチャンネルウォール構造を備え、4基の油圧アクチュエータによってノズル方向を制御します。また、出力を40%から100%の間で自在に調整できる機能も持ち合わせており、そのパワフルさと同時に高い信頼性・頑丈さも評価されています。

RD-180は、1990年代初頭にアメリカのジェネラル・ダイナミクス社（後に航空宇宙部門はロッキード・マーティン社に統合）によって、当時の最新ロケットであったアトラス（アトラスIIA-R、後にアトラスIIIと改称）への採用が決まりました。さらに、アトラスVロケットの第1段コモン・コア・ブースター用として追加開発が行われ、2000年のアトラスIII以降、アトラスロケットの主力エンジンとして長らく使用されてきました。商業打ち上げだけでなく、アメリカ政府の重要な衛星打ち上げにも用いられたため、当初はアメリカ国内での並行生産計画も存在しましたが、現在までの製造は全てロシア国内で行われています。エンジンの販売は、ロシアの開発・製造元であるNPOエネゴマシュとアメリカのプラット&ホイットニー社との合弁事業であるRD AMROSSが行っています。

長年にわたり米ロの宇宙協力の象徴とも言える存在でしたが、2014年3月にロシアがウクライナへの軍事侵攻を開始したことで状況は一変します。これに対しアメリカがロシアへの経済制裁を発動したことを受け、同年5月にはロシアの副首相がRD-180の将来的な供給停止を示唆する発言を行いました。同時期には、国家安全保障に直結するロケット基幹部品をロシアに過度に依存している状況に対し、アメリカ国内でも強い懸念の声が高まりました。この事態を受け、2014年8月にはアメリカ政府主導でRD-180の代替となる国産エンジンの開発が本格的に着手されました。現在、ブルーオリジン社のBE-4エンジンやエアロジェット・ロケットダイン社のAR-1エンジンが代替候補として開発が進められており、アトラスVの後継となるヴァルカンロケットにはBE-4が搭載される計画です。

このような政治的背景がある一方で、2015年1月にはオービタルサイエンシズ社がエネゴマシュ社からのRD-180購入に必要な政府許可を取得するなど、一部での供給は続けられました。また、ロシアはRD-180の中国への輸出可能性についても協議したと報じられています。ただし、この協力は完成品の供給に限定され、技術移転やライセンス生産は含まれないとされています。

アメリカ国内でのRD-180ライセンス生産については、必要な書類や法的な権利が入手可能であるにも関わらず、NASAは独自の高性能大推力エンジン開発に注力する方針を示しています。かつてプリンストン大学の教授が、NASAの財政支援があれば数年以内にアメリカ国内でのRD-180生産が可能であると指摘したこともありましたが、結果としてアメリカは自国での代替エンジン開発を選びました。

過去には、2010年10月に韓国への不正輸出未遂事件も発生しています。ある韓国系アメリカ人が韓国のロケット開発のためにRD-180とその関連技術を不正輸出しようとして逮捕され、有罪判決を受けました。

RD-180の主な仕様


主な搭載機

アトラス V
GXロケット

関連エンジン

RD-170: エネルギアのエンジン
RD-171: ゼニットのエンジン
RD-191: アンガラ・ロケットのエンジン
RD-0124: ソユーズ2のエンジン
RD-107: R-7ミサイルおよびソユーズFGのエンジン
RD-253: プロトンロケットの第1段エンジン

関連技術

* 二段燃焼サイクル

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