H部隊

H部隊：地中海と大西洋を駆け抜けたイギリス海軍の精鋭部隊

第二次世界大戦中、イギリス海軍は数々の任務部隊を編成しました。その中でも、H部隊は地中海と大西洋の両戦線で活躍した、特異な存在でした。本稿では、H部隊の概要、主な戦歴、そしてその歴史的意義について解説します。

H部隊の概要

H部隊は、正式には「任務部隊」とは呼ばれていませんでしたが、第二次世界大戦下のイギリス海軍において、ジブラルタルを拠点に活動した重要な艦隊でした。その編成は時代とともに変化しましたが、常に主要艦艇として空母や戦艦、巡洋艦などが含まれていました。

当初は、ドイツ海軍のポケット戦艦に対抗するために編成されました。その後、イタリアの参戦やフランス降伏といった地政学的変化に伴い、地中海西部におけるイギリス海軍の戦力を強化する役割を担うようになります。地中海艦隊と連携し、地中海攻防戦と大西洋攻防戦の双方に貢献しました。

H部隊は、イギリス海軍の指揮系統において特異な地位を占めていました。通常、ジブラルタルを拠点とする部隊は、ジブラルタル司令官を経由して第一海軍卿の指揮を受けるはずですが、H部隊は第一海軍卿の直轄部隊として活動しました。このことは、H部隊の重要性と、その機動性を重視したイギリス海軍の戦略を反映していると言えるでしょう。

主要な戦歴

ポケット戦艦狩り

1939年、ドイツ海軍のポケット戦艦「アドミラル・グラーフ・シュペー」が大西洋で通商破壊活動を開始しました。この脅威に対抗するため、イギリス海軍は複数の狩猟部隊を編成し、H部隊もその一つとして喜望峰周辺に展開しました。ロンドン級重巡洋艦のサセックスとシュロップシャーで編成されたH部隊は、シュペーの捕捉に努めましたが、直接戦闘には至りませんでした。

カタパルト作戦とメルス・エル・ケビール襲撃

1940年、フランスの降伏後、イギリスはヴィシーフランス海軍の戦力掌握を図りました。この目的のため、H部隊は「カタパルト作戦」に参加し、アルジェリアのメルス・エル・ケビールに停泊中のフランス艦隊を攻撃しました。この作戦はフランス艦隊の戦力を大きく削ぐことに成功しましたが、国際的な非難も招きました。

マルタ輸送船団護衛とクラブラン作戦

H部隊は、地中海におけるイギリスの重要な拠点であるマルタ島への輸送船団護衛任務にも従事しました。マルタは、枢軸国の攻撃を受け、補給が困難な状況にありました。H部隊は、危険な航路を輸送船団を護衛し、マルタの維持に貢献しました。同時に、空母を活用した「クラブラン」作戦を行い、マルタへ航空機を輸送しました。

ビスマルクの撃沈

1941年、ドイツ戦艦ビスマルクが大西洋に進出しました。H部隊は、ビスマルク追撃戦において重要な役割を果たしました。アーク・ロイヤル艦載機の攻撃がビスマルクの舵機を破壊、航行能力を低下させました。そして、最終的には他のイギリス艦艇によってビスマルクは撃沈されました。H部隊はビスマルクの撃沈に貢献したものの、直接の決定打を与えたわけではありませんでした。

トーチ作戦と北アフリカ上陸

1942年11月、連合国軍は北アフリカに上陸する「トーチ作戦」を実行しました。H部隊は、この上陸作戦を支援し、ヴィシーフランス海軍の抵抗に対処しました。カサブランカ沖海戦では、ヴィシーフランス海軍と交戦し、上陸作戦の成功に貢献しました。

シチリア島上陸作戦とイタリア本土侵攻

1943年には、シチリア島攻略作戦（ハスキー作戦）とイタリア本土への上陸作戦（アヴァランチ作戦）を支援しました。これらの作戦において、H部隊は上陸部隊の護衛任務にあたりました。

H部隊の終焉

イタリアの降伏と地中海の情勢変化により、H部隊は解体されました。その艦艇は他の艦隊に配属され、司令部も解散しました。地中海における海軍作戦は、より小型の艦艇による部隊に引き継がれました。

歴史的意義

H部隊は、第二次世界大戦において、地中海と大西洋の両戦線で重要な役割を果たしました。その活動は、イギリス海軍の戦略と戦術、そして連合国全体の戦争遂行に大きな影響を与えました。特に、ビスマルク追撃戦やマルタ輸送船団護衛、北アフリカ上陸作戦における活躍は、H部隊の戦功を象徴するものです。

参考文献

ルードヴィック・ケネディ『戦艦ビスマルクの最期』
酒井三千生『ラプラタ沖海戦　グラフ・シュペー号の最期』
V.E.タラント『戦艦ウォースパイト　第二次大戦で最も活躍した戦艦』
その他多数の書籍、文献

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