HD 189733 b

HD 189733 b：青く輝く過酷な太陽系外惑星

HD 189733 bは、地球から約64.5光年離れたこぎつね座の方向に位置する太陽系外惑星です。2005年10月5日、フランスの天文学者グループによって、恒星HD 189733 Aの手前を通過するトランジットが観測され、その存在が公表されました。この惑星は、木星よりもわずかに大きい質量を持ち、約2.2日という非常に短い周期で恒星を公転するホット・ジュピターに分類されます。

発見の経緯

HD 189733 bの発見は、恒星の前を通過するトランジット現象を捉えたことによってなされました。このトランジットは、ドップラー分光法による観測でも確認されています。興味深いことに、この惑星がトランジットを起こすことによって発生するロシター・マクローリン効果が、測光測定によるトランジットの確認に先立って検出されました。これは、惑星の存在を早期に示唆する重要な手がかりとなりました。

物理的特性

HD 189733 bは、ホット・ジュピターの中でも特に詳細な観測が行われており、様々な研究によってその特性が明らかになっています。質量と半径は木星の約1.1倍と推定され、主星から約460万km離れた軌道を約2.22日の周期で公転しています。平衡温度は約1200K前後と高温です。この惑星は、トランジット時に主星の光を約3％も遮るため、トランジットが観測された太陽系外惑星の中で、最も大きな光度低下を示すことで知られています。また、HD 209458 bと共に、初めて直接的な分光観測に成功した太陽系外惑星でもあります。

主星との潮汐力によって、自転と公転が同期していると考えられています。これは多くのホット・ジュピターに共通する特徴です。さらに、偏光観測によって、散逸した大気がトランジット中に確認される不透明な惑星の形状よりもかなり大きく広がっていることが明らかになっています。

大気の組成と特徴

HD 189733 bの大気は、地上と宇宙の両方から詳細に研究されています。当初は、チタンやバナジウムの酸化物が欠如したL型褐色矮星のような、温度逆転層を持たない惑星と考えられていました。しかし、その後の研究では、大気中にナトリウムとカリウムが存在すること、また二酸化炭素が初めて確認された太陽系外惑星であることが明らかになっています。2024年には、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡による観測で、大気中から硫化水素が検出されました。これは太陽系外惑星としては初の事例です。

赤外線観測では、大気中の凝縮物が、トランジット時に観測される惑星半径のさらに約1000km上空に霞を形成していることが示されています。また、HD 189733 bは、X線スペクトル観測によって、その大気が可視光線の3倍以上のX線を遮断することが判明しており、X線を吸収する外層大気の存在が示唆されています。

青い外観と溶けたガラスの雨

HD 189733 bは、偏光観測によって、青い光をより強く反射する、つまり全体として深い青色をしていることが確認されました。これは、大気中に含まれるケイ酸塩の粒子が青い光を散乱させていることが原因と考えられます。また、この惑星では、ケイ酸塩粒子を含む強風が吹き荒れており、その風速は最大で8700km/hに達すると考えられています。この過酷な環境下では、溶けたガラスの雨が降るとも言われています。

大気の蒸発と惑星の地図

水素ライマンα線を用いた観測から、HD 189733 bは大気の蒸発によって、毎秒1〜100Ggの質量を失っていることが判明しました。これは、膨張した大気圏を検出することによって確認されました。また、スピッツァー宇宙望遠鏡による観測では、HD 189733 bの表面温度に対応する熱放射の地図が作成されました。この地図から、表面温度は973〜1212Kの範囲であることがわかりました。最も温度の高い領域は、恒星直下点から東へ30度ずれていることも判明しています。

水蒸気、酸素、有機化合物の存在

スピッツァー宇宙望遠鏡やハッブル宇宙望遠鏡による観測では、HD 189733 bの大気中に水蒸気、中性酸素、メタンなどの有機化合物が存在することが確認されています。さらに、超大型望遠鏡VLTによる観測では、一酸化炭素の存在も確認されました。しかし、メタンがどのようにして大気中に存在し続けているかは、謎のままです。また、後の研究では、水蒸気の量が予測よりも少ないことが明らかになっています。

恒星との相互作用に関する論争

過去には、HD 189733 bの軌道上の位置が主星のフレア活動に影響を与えるという説がありましたが、近年の研究によって、惑星の軌道上の位置とは関係なくフレアは発生することが示され、この説は否定されています。また、かつては、恒星が惑星からガスを降着させているという説もありましたが、これも否定されています。

衛星の可能性

HD 189733 bには、炭素イオンを補給する太陽系外衛星が存在する可能性が示唆されています。この衛星は、HD 189733 bのヒル球の外側に位置し、外部から捕獲されたものと考えられています。また、大気中に検出されたナトリウムやカリウムは、活発な火山活動を起こしている衛星、いわゆるエクソ・イオから放出されたものである可能性も指摘されています。

HD 189733 bは、その過酷な環境、独特な大気組成、そして青い外観など、多くの興味深い特徴を持つ太陽系外惑星です。今後の観測によって、この惑星の謎がさらに解明されることが期待されます。

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