HIRES

HIRES（高分解能エシェル分光器）について

HIRES（High Resolution Echelle Spectrometer）は、ハワイのマウナケア山頂にあるW・M・ケック天文台のケックI望遠鏡に設置されている、天体観測用の高精度分光器です。1994年の稼働開始以来、天文学における重要な発見に貢献してきました。名前が似ているため混同されがちですが、ヨーロッパ南天天文台（ESO）が開発中の欧州超大型望遠鏡（E-ELT）向け高分散分光器HIRESとは別の装置です。E-ELTのHIRESは、後にANDES（ArmazoNes high Dispersion Echelle Spectrograph）と改名されました。

HIRESの主な特徴

HIRESは、紫外線、可視光、そして赤外線領域の電磁スペクトルを、300nmから1000nmの波長範囲で観測できます。その最大波長分解能はR=110,000に達し、非常に細かいスペクトル線の分析を可能にします。この高い分解能を実現するために、エシェル回折格子とクロス分散素子を組み合わせたクロス分散エシェル分光器の設計が採用されています。

具体的には、エシェル回折格子が光を主分散させ、クロス分散素子が垂直方向に二次的な分散を行います。これにより、電磁スペクトルはCCDセンサー上に二次元的な配列として投影され、記録されます。装置はケックI望遠鏡のナスミス焦点に恒久的に設置され、望遠鏡からの光束を直接受け入れるよう設計されています。

エシェル回折格子は、長さ41cmの回折格子を3つ連結して、全長120cmの長大なものを使用しています。この3枚の回折格子は、精密に研磨された花崗岩製の土台に組み付けられており、安定した観測環境を確保しています。

検出器については、当初は4000x4000画素、画素ピッチ22μmのCCDが使用されていました。しかし、2000年代のアップグレードにより、4000x2000画素、画素ピッチ15μmのCCDを3枚使用するユニットに交換されました。これにより、より高精細な観測が可能になりました。

HIRESによる観測成果

HIRESは、2～3m/sの精度で視線速度を測定できる能力を持っています。この高精度な視線速度測定をさらに高めるために、ヨウ素セルを観測セッティングのオプションとして利用することも可能です。

HIRESは、その高い性能により、以下のような重要な科学的成果を挙げています。

恒星のベリリウム存在量の測定: 宇宙初期における元素合成過程の理解に貢献。
ライマンαの森の観測: 遠方宇宙におけるガス雲の分布や構造の研究。
* 視線速度法による太陽系外惑星の発見: 太陽系外惑星の存在を初めて明らかにした。

特に、HIRESを用いて発見された太陽系外惑星の一つに、赤色矮星グリーゼ876を公転する木星型惑星グリーゼ876bがあります。この発見は、HIRESだけでなくリック天文台のハミルトン分光器のデータも併用して行われました。また、同時期にヨーロッパの研究チームがELODIE分光器を用いて、同じ惑星の発見を独立して報告しています。

HIRESの主任研究者は、カリフォルニア大学サンタクルーズ校のスティーブン・ボーグト氏です。彼のリーダーシップのもと、HIRESは数々の重要な発見に貢献し、天文学研究の発展に大きく寄与しています。

このようにHIRESは、高分解能分光器としての優れた性能を発揮し、天文学の様々な分野において、重要な役割を果たしていると言えるでしょう。

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