HR 858

HR 858

HR 858は、ろ座の方向におよそ104光年離れて輝く恒星です。見かけの明るさを示す視等級は6.4等級であり、暗い場所でも肉眼で確認することは困難ですが、双眼鏡や小型の望遠鏡を使えば観測可能です。その光は黄色がかった白色に見えます。現在、地球からは秒速約10キロメートルで遠ざかっていることが観測で明らかになっています。恒星自体の真の明るさを示す絶対等級は3.82等級です。

この恒星は、スペクトル分類がF6Vに属するF型主系列星です。F型主系列星は、中心部で水素をヘリウムに変換する核融合反応によってエネルギーを生み出し、太陽よりもわずかに高温で明るい恒星のグループです。HR 858は誕生から約20億年が経過していると推定されています。物理的な特徴としては、質量が太陽の約1.1倍、半径は約1.3倍と、太陽よりやや大きく、表面温度（有効温度）は約6201ケルビンです。この温度に対応して、光度は太陽のおよそ2.3倍に達します。また、恒星は約8.3km/sの速度で自転しています。

HR 858は単独の恒星ではなく、伴星を持っています。主星から約270天文単位という非常に離れた位置には、赤色矮星であるHR 858 Bが存在し、主星の重力に束縛されて公転しています。

この恒星系が特に注目されるのは、太陽系外惑星を持つことが確認されているためです。2019年5月、NASAのトランジット系外惑星探索衛星TESSによる観測データが分析され、少なくとも3つの惑星がHR 858の周囲を公転していることが発表されました。これらの惑星は、主星の手前を通過する際に恒星の光をわずかに遮る「トランジット法」と呼ばれる手法で発見されました。発見された惑星はいずれも主星から比較的近い軌道を回っており、サイズは地球の約2倍程度の「スーパー・アース」に分類される天体です。特に、惑星bと惑星cの間には、軌道の周期が3対5という比率に近い、いわゆる軌道共鳴の関係が存在する可能性が指摘されており、惑星系の力学的な進化を理解する上で興味深い対象となっています。これらの惑星系の存在は、HR 858が単なる遠い恒星ではなく、生命の存在可能性を探る上でも重要な、多様な惑星系を持つ宇宙の隣人であることを示しています。

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