IRAS・荒貴・オルコック彗星

IRAS・荒貴・オルコック彗星（Comet IRAS-Araki-Alcock）は、1983年に発見された長周期彗星です。仮符号はC/1983 H1が付与されました。この彗星は、地球への記録的な大接近と、その発見に三者が関わった特異な経緯で知られています。

発見の経緯

この彗星は、赤外線天文衛星IRAS、日本の荒貴源一氏、そしてイギリスのジョージ・オルコック氏の三者が、それぞれ独立して発見しました。発見は1983年 4月25日に始まり、IRASが赤外線観測で初めて動く天体を捉えました。その数日後の5月3日には、荒貴氏とオルコック氏が別々にこの天体を光学観測で発見しました。発見時の明るさは7等級でした。IRASの検出した天体が、荒貴氏とオルコック氏が発見した彗星と同一であることが確認されたため、彗星には三者の名が連ねられることになりました。これは赤外線天文衛星IRASにとって、初めての彗星発見でもありました。

地球への大接近

発見後の精密な軌道計算により、IRAS・荒貴・オルコック彗星がまもなく地球へ極めて接近することが判明しました。最接近は協定世界時で1983年 5月11日12時2分頃。地球からの距離は、わずか466万km（約0.03117天文単位）でした。この距離は、一見遠いように思えますが、これまでに確認されている彗星による地球への接近記録としては、1770年のレクセル彗星（約226万km）と1366年のテンペル・タットル彗星（約343万km）に次ぐ、観測史上3番目の近さです。特に、レクセル彗星やテンペル・タットル彗星の記録は過去の観測データからの軌道計算によるものですが、このIRAS・荒貴・オルコック彗星の接近は、近現代において実際に観測されたものとしては史上最も地球に近づいた例となりました。これに匹敵するような大接近は、次に1999年 6月12日に約144万kmから217万kmまで接近したP/1999 J6（SOHO彗星の一つ）までありませんでした。

接近時の観測された姿

地球への最接近時には、IRAS・荒貴・オルコック彗星の明るさは最大で3等級から4等級に達し、肉眼での観測も報告されました。しかし、最も印象的だったのは、その見かけの速さでした。彗星は夜空をものすごい速度で移動し、わずか1日で約30度も位置を変えるほどでした。尾の長さは推定20万kmに達していましたが、この彗星は明るく輝くダストの尾をほとんど放出せず、一般的にイメージされるような「ほうき星」の姿とは異なりました。望遠鏡で観察すると、長い尾を引く姿ではなく、中心部が特に明るい、ぼんやりとした球状の光に見えました。

軌道の性質

IRAS・荒貴・オルコック彗星の軌道は、太陽系の惑星の公転面に対して比較的大きく傾いており、その軌道傾斜角は約73.3度です。近日点距離は0.991天文単位で、太陽に比較的近い軌道を通ります。近日点通過日は1983年 5月21日でした。軌道離心率は0.9899と非常に大きく、これは長い楕円軌道を描いていることを示しています。計算によると、この彗星が太陽の周りを一周する公転周期は約968年という長い年月を要します。そのため、次に再び太陽の近く（近日点）に戻ってくるのは、およそ西暦2951年頃になると予測されています。

その他

発見者の一人である日本の荒貴源一氏は、この歴史的な[彗星]]の発見の功績が称えられ、後に小惑星にその名が付けられました。1997年1月2日に佐藤直人氏によって発見された小惑星] 1997 AC1は、[[2009年6月7日に「Genichiaraki」（荒貴源一）と正式に命名されています。また、この彗星が発見された場所の一つとされる新潟県湯沢町には、この出来事を記念して2016年 8月27日に記念碑が建立されています。

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