LP 890-9

LP 890-9

LP 890-9は、地球から見てエリダヌス座の方向へ約105光年の距離に位置する恒星です。スペクトル分類は赤色矮星であり、太陽と比較するとそのサイズや明るさは著しく小さくなっています。具体的には、質量と半径はいずれも太陽の約1割強程度しかなく、その光度も太陽の約0.1%と非常に暗いため、肉眼で観測することはできません。また、表面温度が非常に低いため、発せられる光の大部分は人間の目に見えない近赤外線として観測されます。

惑星系

2022年9月、ベルギーや日本など複数の国の研究者からなる国際研究グループは、このLP 890-9の周囲を公転する二つの太陽系外惑星の発見を公表しました。これらの惑星は、内側から順にLP 890-9 b および LP 890-9 c と命名されています。

惑星の発見と名称

LP 890-9 b: この内側の惑星は、アメリカ航空宇宙局（NASA）が打ち上げたトランジット系外惑星探索衛星TESSによる観測データの分析から発見されました。TESSは、惑星が主星の手前を通過（トランジット）する際に生じる主星のわずかな減光を捉えることで惑星を検出します。TESSによる観測対象であることから、主星LP 890-9には TOI-4306、惑星LP 890-9 bには TOI-4306 b という別の名称も与えられています。
LP 890-9 c: 外側を公転するこの惑星の存在は、LP 890-9 bの検出を受けて行われた、国際観測プロジェクトSPECULOOS（Search for habitable Planets EClipsing ULtra-cool Stars）によるフォローアップ観測によって確認されました。SPECULOOSチームは、LP 890-9 bのトランジットを確認するために600時間以上に及ぶ詳細な観測を実施した結果、予想外にも別の惑星のトランジット信号を捉えることに成功しました。SPECULOOSによる観測で太陽系外惑星が確認されたのはこれが二例目であったことから、主星には SPECULOOS-2、惑星にはそれぞれ SPECULOOS-2b および SPECULOOS-2c という呼称も用いられています。

恒星の特異性

LP 890-9は、惑星を持つ恒星としては、7個の惑星を持つTRAPPIST-1（表面温度約2,566 K）に次いで、知られている中で二番目に有効温度が低い恒星です。このような低温の赤色矮星の周囲に惑星が存在することは、惑星系の形成や進化を理解する上で重要な情報を提供します。

惑星の特徴と環境

発見された二つの惑星、LP 890-9 bとLP 890-9 cは、いずれも地球より半径が約3割余り大きいと推定されており、「スーパーアース」に分類されます。内側のLP 890-9 bは約2.7日の短い周期で、外側のLP 890-9 cは約8.5日の周期でそれぞれの軌道を公転しています。主星に非常に近いため、両惑星とも潮汐固定（Tidal Locking）が起きている可能性が高いと考えられています。これは、常に同じ面を主星に向けて公転している状態で、惑星の一方の半球は永遠に昼、もう一方の半球は永遠に夜となります。

特に注目されているのは外側の惑星LP 890-9 cです。この惑星は、主星LP 890-9の保守的なハビタブルゾーン（液体の水が表面に存在しうる領域）の内縁付近を公転していると推定されています。大気の影響を考慮しない場合の惑星の表面の推定温度は272 K（摂氏マイナス1度）と計算されており、条件次第で液体の水が存在できる可能性を示唆しています。

LP 890-9 c の観測的重要性

LP 890-9 cは、現在までに発見されている潜在的に居住可能とみられる太陽系外惑星の中でも、有名なTRAPPIST-1系の惑星に次いで、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡（JWST）による観測が比較的容易であると考えられています。そのため、JWSTによる今後の主要な観測ターゲットの一つに定められています。JWSTを用いることで、LP 890-9 cの詳細な大気組成や構造を調べ、水の有無などを探査することが期待されています。

しかし、ハビタブルゾーンの内縁付近という軌道の位置から、大気中に多量の水蒸気が存在し、金星のように気温が極端に上昇する「暴走温室効果」が発生している可能性も指摘されています。このシナリオの場合、LP 890-9 cの環境は地球型惑星とは大きく異なる、灼熱の世界であることも考えられます。今後の詳細な観測によって、この惑星の真の姿が明らかになることが待たれています。

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