M.U.G.E.N

M.U.G.E.N（日本では一般的に「ムゲン」「MUGEN」と呼ばれる）は、Elecbyteによって開発された、フリーのパーソナルコンピュータ用2D格闘ゲームエンジンです。

概要

このゲームエンジンの特徴は、その自由度の高さにあります。ユーザーは、様々なキャラクターやステージを追加できるだけでなく、体力ゲージ、キャラクター選択画面、タイトル画面などの見た目も自由に変更できます。登録できるキャラクターの種類に制限がないため、ゲームやアニメなどの既存の枠組みを超えた、夢の対戦を実現できます。また、M.U.G.E.Nオリジナルのキャラクターも多数存在しており、中には既存のゲームに匹敵するほどの完成度を誇るキャラクターもいます。

インターネット上で公開されているキャラクターやステージ、BGMなどのデータには、既存のゲームやアニメ作品などのグラフィックデータや音声データから抽出して製作されたものが多く見られます。多くのサイトでは、これらのデータの著作権について明確に言及しておらず、ユーザーもそれらを意識せずにプレイしているのが現状です（キャラクターデータの構成および法的見地の節も参照）。

M.U.G.E.N本体には、カンフーを使うオリジナルキャラクター「Kung Fu Man」が付属しており、このキャラクターをベースに改変されたキャラクターも数多く存在します。

2007年には、ハック版によってステージとキャラクター選択画面の高解像度表示がサポートされました。また、同年半ばにはElecbyte公式サイトが復活し、最初はGoogle AdSenseのみが表示されていましたが、7月26日にFAQが追加され、次期メジャーリリースの前にWindows版の修正版を公開する予定であることが発表されました。しかし、2009年 9月21日に7年ぶりの新バージョンが公開されたものの、最終的には2013年 7月28日のVersion 1.1 Beta 1で更新が止まり、公式サイトも再度消滅しています。

各バージョンの違い

Elecbyteから正式な新バージョン（以下、新版）がリリースされる以前には、Linux版、旧Windows版（以下、旧版）、MS-DOS上で動作する初期版が存在していました。インターネット上で広く公開されていた旧版は、Elecbyteがかつて公開していた未完成バージョンを改造し、登録可能キャラクター数の無制限化や、初期状態から全てのゲームモードを選択可能にするなどの変更を施したもので、公式のものではありませんでした。これについては、当時のElecbyteのM.U.G.E.N利用規約に違反する点がありましたが、後述のライセンス関係などから黙認されているようです。

旧版は機能的に初期版を大きく上回っています。しかし、機能拡張に伴うエラーチェックの厳密化により、互換性が失われたデータも多く存在します。また、旧版は初期版に比べて負荷が高く、快適に動作させるには、当時としてはそれなりのスペックが必要でした。

新版では、ファイル仕様が大幅に変更されたものもあります。キャラクターに関しては互換モードが搭載されているため、概ね互換性は保たれています。初期版では、キャラクターの色に最大256色しか使用できず、BGMに利用できる形式もMP3、MIDI、MODに限られていました。これに対し、旧版では256色以上のカラーに対応し、BGMの対応形式もプラグインにより拡張可能になりました。新版では、BGMのループや効果音の音量調整が可能になり、OGG用のプラグインも同梱されています。初期版ではフルスクリーンでのみ使用可能でしたが、旧版以降はウィンドウでのプレイも可能になりました。しかし、そのためにフルスクリーン化にはDirectX8.0以上が必須となり、コンフィグファイルで設定を行う必要が生じました。

クローンプロジェクト

公式のM.U.G.E.Nが長らく更新されなかったこともあり、クローンエンジンを作成するプロジェクトがいくつか存在します。

I.K.E.M.E.N
Ikemen GO - I.K.E.M.E.Nの後継プロジェクト。MIT Licenseを採用しており、商用利用が可能です。
MUGENext (開発中) - virtualltekが開発しているM.U.G.E.Nの後継プロジェクト。商用利用と更新の保証をサポートする予定です。
xnaMugen
jMugen
Paintown

これらのクローンエンジンは、オンライン対戦機能やクロスプラットフォーム性の高さが期待されています。

キャラクターエディタ

M.U.G.E.Nのキャラクターは、公式に配布されたM.U.G.E.N専用のキャラクターエディタや、Windows付属のメモ帳などのエディタ、画像編集ソフト、音声編集ソフトなどを使って作成します。しかし、公式のエディタは本体と同様に更新がされておらず、途中で終了してしまうといったバグが残っています。そのため、ユーザーが作成した非公式のキャラクターエディタがいくつか存在します。これらの理由から、キャラクター制作の際は複数のツールを併用するのが一般的です。また、後述するcnsファイルなどを編集する際も、Windows標準のNOTEPAD.EXEでは見やすさに欠けるため、フリーのスクリプティングエディタにラッパーモジュールを適用して制作する場合があります。

キャラクターデータの構成

M.U.G.E.Nのキャラクターやステージのデータは、主に以下のようなファイル群で構成されています。

defファイル: キャラクターやステージの基本設定を示すファイル。キャラクターの基本情報や、どのファイルが使われるかを記した目次のような役割を果たします。キャラクターを登録する際には、このファイルを指定します。
cmdファイル: キャラクターの技のコマンドや発動条件を制御するファイル。
cnsファイル: キャラクターの動作を制御するファイル。定数やステート定義によって細かく挙動を指定でき、格闘ゲームの枠にとらわれない自由なキャラクターを作成できます。M.U.G.E.Nにおける「キャラクター制作」とは、主にこのファイルの製作を意味すると言えます。
sffファイル: キャラクターの画像を複数まとめて格納したファイル。ゲーム中のグラフィックだけでなく、選択画面や体力ゲージで表示されるポートレイト、攻撃のエフェクトなども含まれます。
airファイル: sffに格納された画像をアニメーションさせたり、攻撃判定、当たり判定などを指定・制御するためのファイル。
sndファイル: キャラクターの音声や効果音を格納したファイル。

ただし、sff・sndを除いて、拡張子の制限はなく、テキストファイルで開けるファイルであれば使用できます。cmdにcnsファイル、cnsにstファイルを使用する例が代表的です。現在のM.U.G.E.Nでは、sff（グラフィックファイル）やsnd（音声ファイル）に、既存のゲームやアニメ作品など（企業・同人問わず）一般的に著作権保護の対象である他者の著作物を無断で流用や改変、または描き起こしなどを行ったキャラクターが多く存在しており、問題視されています。中には、画像や音声を製作者自身やその知人、ネット声優などに拠って独自に製作された著作権的に問題のないキャラクターも存在しますが、現状では権利物の流用・改変が多いのが実情です。グラフィック自体は作成者オリジナルの描き下ろしでも、エフェクトやボイスなどは既存作品からの流用というケースも散見されます。

cns（定数とステート定義によるキャラクターのメインファイル）や、cmd（コマンドファイル）、air（アニメーションファイル）などは、作成者に著作権のあるプログラムソースに類するものですが、これらの独自プログラムに既存作品から流用したグラフィックや音声を組み合わせ、既存作品のキャラクターの動作を真似た「再現」や、既存作品では使用できない技を付け加えた「アレンジ」として作られているケースが多く見られます。M.U.G.E.N本体には「M.U.G.E.Nに対応して製作されたキャラクターデータ」を動作させる機能しかないため、原作のプログラムデータをそのまま流用することは当然ながら不可能です。したがって、M.U.G.E.Nにおける「再現」キャラクターの実態は、単に「グラフィックを流用して原作風の動作や性能に似せたエディットキャラクター」に過ぎません。そのため、cnsなどのプログラム本体の記述は独自に作られたものであり、記述形式は作成者によってバラバラです。一部では著作物の使用を避けるため、既存の技などの動作や性能のみをモチーフとし、Elecbyteから改変が自由に許可されているKung Fu Manのグラフィックや音声、または独自のグラフィックを使用した別キャラクターとして作られているものもあります。

法的見地

本体

Elecbyteは新バージョンのリリースに伴い、M.U.G.E.Nの使用に関するライセンスを明示しており、非営利目的に限り、M.U.G.E.N本体のファイルの再配布が許可されています。2009年11月には、M.U.G.E.Nがアバンダンウェアであると誤って主張し、ライセンスに違反して本体を無許可で改変したグループに対し、Elecbyteは法的手段を講じました。

キャラクターやステージのデータ

配布されているキャラクターやステージのほとんどは、スプライト・音声・音楽が著作権で保護されたゲームやアニメなどからのコピーが多く使われています。このため、最近のゲームを元に作られたキャラクターへのハイパーリンクを控える「タイムリリース」ルールを主張するグループも存在します。

Elecbyteは、M.U.G.E.N環境で動作するキャラクターやステージ、アドオンなどの配布には一切の制限を設けておらず、sffなどのファイル形式もオープンフォーマットとして公開しています。そのため、データを自作するなどして著作権に問題がない状態にし、本体にElecbyteのM.U.G.E.Nではなく商業目的の利用が認められている別の互換エンジンを採用することで、一つのゲームとして販売を行った事例が存在します。Elecbyteが配布に制限をかけているのは本体のみであるため、この形式での販売は合法とされています。

このような状況を踏まえ、現在、エンジンその他の創作物の利用は個人のモラルに委ねられているのが現状です。