M10 (駆逐戦車)

M10 GMC：アメリカの対戦車 自走砲

M10 GMC（M10 Gun Motor Carriage）は、第二次世界大戦中にアメリカ軍が開発・運用した対戦車自走砲（戦車駆逐車）です。この車両は、戦車駆逐大隊という独立部隊の装備として、敵戦車を待ち伏せ攻撃で撃破することを目的として設計されました。M4中戦車の車体をベースに、オープントップの砲塔に強力な3インチ（76.2mm）砲を搭載しているのが特徴です。

開発の背景

アメリカ陸軍は、第二次世界大戦前に実施した演習の結果、対戦車戦闘を専門とする独立部隊が必要だと判断し、戦車駆逐大隊を編成しました。当初、M6 GMCやM3 GMCといった自走砲が配備されましたが、より強力な対戦車能力を持つ車両が求められるようになりました。そこで開発されたのが、M4A2中戦車の車体をベースにしたT35試作車でした。このT35試作車は、3インチ高射砲を改造したT12戦車砲を搭載しており、後のM10 GMCの原型となりました。

M10 GMCの特徴

M10 GMCは、T35試作車を基に、傾斜装甲を取り入れた新しい車体上部と、五角形の平面形をした砲塔が採用されました。オープントップの砲塔は、軽量化と乗員全員による周囲の監視を可能にし、待ち伏せ攻撃に適した設計でした。また、緊急脱出や弾薬補給が容易であるという利点もありました。しかし、一方で、迫撃砲弾などの曲射兵器や空中炸裂砲弾、さらに上方からの小火器攻撃には弱く、一部の車両では現地改造で装甲天井が追加されました。さらに、敵兵の手榴弾攻撃を防ぐために、ネットで開放部を覆う工夫も行われていました。

機動力を優先したため、装甲はM4中戦車よりも薄くなっており、増加装甲を取り付けるための止め具はありましたが、ほとんど使用されませんでした。

武装

M10の主砲である3インチM7戦車砲は、同時期のM4中戦車に搭載されていた75mm砲よりも対戦車戦闘能力に優れていました。後の新型M4が搭載する76mm M1戦車砲と弾頭は共通でしたが、薬莢が異なり、装薬が多かったため、より高い貫通力を発揮しました。特に、タングステン芯入りの高速徹甲弾（HVAP）を使用すると、ドイツの88mm砲並みの貫通力を持ちました。

しかし、この砲は前方に重く、初期型では砲塔後部に砲弾や機銃などを集めてバランスを取っていましたが、不十分でした。そのため、中期型以降は後部にカウンターウェイトが搭載され、後期型ではウェイトが後方に延長され、雑具箱が追加されました。

また、M10の砲塔は手動旋回のみで、動力は付いていませんでした。油圧旋回装置を搭載した試作車も開発されましたが、量産化はされませんでした。

生産と派生型

M10は、フィッシャー・ボディ戦車部門で4,993両、M10A1はフォードで1,038両、フィッシャーで375両が生産されました。M10A1はM4A3の車体をベースにしており、主に本国での訓練用に使用されました。後に、M3 90mm砲を搭載した新型動力砲塔に換装され、M36 GMCに改造されました。また、一部のM10はM36B2 GMCに改造されました。さらに、M10A1の209両は砲塔を撤去され、重砲牽引用のM35砲牽引車に改造されました。

装甲を軽量化し、主砲をM1 76mm砲に換装したT72も試作されましたが、量産には至りませんでした。しかし、T72のために開発されたオープントップ式砲塔は、後のM36に搭載される砲塔のベースとなりました。

アメリカ軍以外での運用

M10は、連合国にも供与され、特にイギリス軍では1,748両が受領され、「ウルヴァリン」のニックネームが与えられました。さらに、イギリス軍はM10に17ポンド砲を搭載する改造を行い、「アキリーズ」と命名しました。アキリーズはカナダ軍でも使用されましたが、後にM4A2E8シャーマン戦車に更新されました。

ソ連赤軍にも52両のM10が供与され、1944年のバグラチオン作戦で活躍しました。中華民国軍は、武装を取り外した状態でM10を受領し、旧日本軍の九一式105mm榴弾砲を搭載した改造車両を製造し、共産党軍との戦いで使用しました。

イスラエル国防軍も1950年代に少数のM10を輸入し、一部にフランス製のCN-75-50 75mmライフル砲を搭載する改造を試験的に行っていました。

登場作品

M10は、以下のゲームに登場しています。

R.U.S.E.
War Thunder
World of Tanks
トータル・タンク・シミュレーター
バトルフィールド1942
パンツァーフロントbis.