M8 AGS

M8 AGS：冷戦の終焉と新たな可能性を秘めた軽戦車

M8装甲砲システム（M8 AGS）は、アメリカ合衆国のFMC社（後のBAEシステムズ・ランド・アンド・アーマメンツ）が開発した軽戦車、あるいは空挺戦車です。アメリカ陸軍は、M551シェリダンの後継としてM8 AGSの制式採用を目指しました。しかし、冷戦終結による国防予算の削減という逆風を受け、計画は最終的に中止という結末を迎えました。

開発の経緯：冷戦終盤の軍事的ニーズ

1970年代後半、アメリカ合衆国は、世界規模での迅速な軍事展開能力の構築を重視するようになりました。この動きは、第82空挺師団や第101空挺師団、そして海兵隊への迅速展開任務の付与という形で具体化されました。この政策転換は、イラン革命とそれに続く第2次石油危機といった国際情勢の変化と無関係ではありませんでした。カーター大統領が発表したカーター・ドクトリンは、湾岸地域への積極的な軍事介入を示唆しており、そのための緊急展開軍（RDF、のちのアメリカ中央軍）の創設が決定されました。

この緊急展開軍の構成要素として、優れた戦略機動性を有する部隊への機甲火力の付与が求められました。それが、当初「機動防護砲システム（MPGS）」と呼ばれた計画、のちの「装甲砲システム（AGS）」計画です。この計画は、空挺師団で使用されていたM551シェリダンと、装甲騎兵連隊で使用されていたTOWミサイル搭載ハンヴィーの両方を代替することを目指していました。

FMC社は、軽量近接戦闘車両（CCV-L）を開発し、これをAGS計画に応募しました。競争を勝ち抜いたCCV-Lは、XM8として採用され、後にM8 AGSとして制式化されました。

計画の中止とMPF計画への参加：新たな舞台へ

1995年10月、M8 AGSは制式化され、生産準備が完了したと宣言されました。しかし、翌年には計画の中止が発表されました。アメリカ陸軍への採用を逃したM8 AGSでしたが、その技術は活かされ続けました。例えば、M8 AGSの動力系を改良したUCVP（ユニバーサル戦闘車両プラットフォーム）は、シンガポールにおいて歩兵戦闘車や自走榴弾砲の開発に利用されています。

さらに、2018年、アメリカ陸軍は歩兵旅団戦闘団（IBCT）のために、機動防護火力（MPF）計画を発足させました。BAEシステムズは、M8 AGSの近代化バージョンをMPF計画に提案し、最終候補に残りました。しかし、競争相手のジェネラル・ダイナミクス・ランド・システムズ（GDLS）のグリフィンIIに敗れ、M10ブッカー戦闘車が制式採用されました。

M8 AGSの設計：空輸能力と火力

M8 AGSは、空輸能力を重視した設計が特徴です。アルミニウム合金製の車体に鋼鉄とチタン製の装甲を追加することで、防護能力を確保していました。防護レベルは3段階に設定され、レベルに応じて空輸手段が異なりました。

火力面では、105mmライフル砲M35を搭載しました。これはM1エイブラムスやM60パットンが採用したM68を改良したもので、自動装填装置によって3名の乗員で運用を可能にしています。副武装として、7.62mm機関銃M240と12.7mm重機関銃M2を搭載していました。

動力源には、デトロイトディーゼル社製の6V-92TAディーゼルエンジンを採用し、M2ブラッドレーやM270 MLRSと共通の変速機を使用することで整備性の向上を図っていました。

そして未来へ

M8 AGSは制式採用には至らなかったものの、その技術はその後も発展し、様々な派生型や後継計画へとつながっています。この戦車は、冷戦終結という時代の転換点と、それに伴う軍事的ニーズの変化を象徴する存在と言えるでしょう。その歴史は、軍事技術の進化と、予算や政治的決定が軍事計画に及ぼす影響を改めて認識させてくれます。

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