MGR-1 (ロケット)

MGR-1 オネスト・ジョン

MGR-1 オネスト・ジョンは、アメリカ合衆国が開発した初の核弾頭搭載可能な地対地ロケットです。当初はM31、後にM50として制式化され、戦術核攻撃を主な用途として設計されましたが、通常の高性炸薬弾頭も搭載可能でした。このロケットは、その運用開始から約30年にわたり、アメリカ軍の戦力の一翼を担いました。

開発経緯

オネスト・ジョンの開発は、1950年5月にアメリカ陸軍武器科長官房局がレッドストーン兵器廠に大型野戦ロケットの予備設計研究を指示したことから始まりました。コスト削減のため既存の資材を最大限に活用し、開発期間の短縮が図られました。1950年9月には陸軍省の最優先事項として計画が確立し、翌月には初期設計が完了しました。

ダグラス・エアクラフトは1950年10月に予備研究契約を結び、12月には技術監督がレッドストーン兵器廠司令官に移管されました。同時期に、レッドストーン兵器廠司令官オルガー・N・トフトイ准将によって「オネスト・ジョン」と命名されました。

1951年1月には、ダグラスとの正式契約が締結され、実用的な構成要素の設計、開発、製造、試験を通じて武器システムの実現可能性が検証されました。

基本型オネスト・ジョン (M31)

1951年6月から8月にかけて実施された5基の試作モデルによる飛行試験では、誤差が大きいものの、単純な無誘導ロケットとしては許容範囲内の精度で、約26.5kmの距離に1500lbのペイロードを到達させることができました。この結果を受け、陸軍は開発計画を加速させました。

1952年6月にはダグラスが50基の試作ロケットの製造契約を得て、同月には最初の限定生産契約を受領し、XM31として知られるモデルが1953年1月にアメリカ陸軍に納入されました。

1953年、2000基の大量調達が承認されましたが、技術的な進歩が不十分として追加の精度試験が要求され、調達数は200基に削減されました。追加試験の結果、初期の技術的な不足が修正されたことが示され、M31として制式化されました。1954年1月には、ダグラスが最初の量産型オネスト・ジョン・システムを納入しました。その後、エマーソン・エレクトリック・マニュファクチャリング社も加わり、量産体制が確立しました。

1954年1月28日から3月3日に実施された兵器システム試験により、オネスト・ジョン・システムは野戦砲兵の運用に適していると評価されましたが、更なる改善が必要とされました。同年7月には、基本型の不足を修正するための構成要素変更が完了しました。

1954年春には、オネスト・ジョンはアメリカ初の戦術核兵器としてヨーロッパに配備され、同年6月には最初の8個中隊の配備が完了しました。

改善型オネスト・ジョン (M50)

1954年11月、アメリカ陸軍はオネスト・ジョンの精度改善プログラムを開始しました。1955年前半からレッドストーン兵器廠とダグラスは共同で研究を開始し、ダグラスはレッドストーン兵器廠の下請けとして開発に携わりました。

1955年1月、ダグラスは改善型オネスト・ジョンの開発契約を提案しましたが、再生産権に関する交渉が難航し、一時中断されました。その後、1955年5月に交渉が再開され、6月には改善型オネスト・ジョンの研究開発契約が締結されました。

ダグラスは1956年6月から8月にかけて新型オネスト・ジョンの基礎構成を確立するための研究を行い、XM50として知られることになるModel DM-8Dと呼ばれるロケット設計提案が生まれました。1957年にはXM50ロケットの基本設計が完了しました。

1958年6月から1959年7月にかけてXM50は一連の飛行試験を受けました。当初は精度に問題がありましたが、1959年4月から5月に実施された試験で水平面精度は許容範囲内であることが示されました。同年7月には、XM50の改良型がM31基本型よりも優れていることが証明され、9月には限定生産が承認され、1962年12月にはM50として制式化されました。

特徴

M31 基本型オネスト・ジョンは、M6固体燃料ロケットモーターを動力とする無誘導ロケット弾で、スピン安定化ロケットでした。ロケットは弾頭、ロケットモーター、安定翼の3つの部分に分解され、発射地点で組み立てられました。

発射準備は、わずか6人の人員とクレーン1機で可能であり、1950年代のすべての核兵器の中で最も運用が容易でした。精度は高くありませんでしたが、その使いやすさからMGM-5 コーポラルやMGM-18 ラクロスといった誘導ミサイルよりも現場部隊に好まれました。

当初は最大20ktの核出力を持つW7核弾頭を装備していましたが、後に最大40ktの可変核出力を持つW31弾頭も搭載可能になりました。固体燃料ロケットモーターは取り扱いやすいものの、一度点火すると推力を調整できないため、近距離目標には使用できませんでした。最大射程は26.5kmです。

M50 改善型オネスト・ジョンは、推力が向上し軽量化された固体燃料ロケットモーターと新しいフィンを採用しており、射程が約2倍に伸び、精度も大幅に向上しました。最小射程は若干伸びましたが、時限信管と高度信管による起爆方式は基本型と同じです。

1963年6月、新しい命名規則により、すべてのオネスト・ジョンはMGR-1シリーズに改名されました。

名前の由来

開発当初、無誘導ロケット弾に巨額の開発費をかけることに疑問の声が上がっていました。トフトイ准将は、批判的な人物が「どういうわけか、みんな俺のことをオネスト・ジョンと呼ぶんだ」と言うのが口癖だったことから、この言葉をプロジェクト名にすることを思いつきました。

各型

XM31 - 基本型オネスト・ジョンの限定生産型
M31 - 基本型オネスト・ジョンの生産型
M31A1 - 基本型オネスト・ジョンのロケットモーター僅少改善型
M31A1C - 基本型オネスト・ジョンの発射環境温度を拡大した型
M31A2 - 基本型オネスト・ジョンの最終型
XM50 - 改善型オネスト・ジョンの限定生産型
M50 - 改善型オネスト・ジョンの生産型
M50A1 - 改善型オネスト・ジョンの生産性改善型
MGR-1A - 基本型オネスト・ジョン（M31から改称）
MGR-1B - 改善型オネスト・ジョン（M50から改称）
MGR-1C - 改善型オネスト・ジョン生産性改善型（M50A1から改称）

M31A1は、改良されたM6A1ロケットモーターを使用する基本システムで、M31をリミテッド・スタンダードに再指定し、M31A1をスタンダードに指定することでM31の基本設計が固まりました。さらにM31A1Cでは発射可能な温度範囲が拡張されました。

M31シリーズの最終版であるM31A2は、M31A1Cの生産性改善型であり、1962年12月中旬まで生産されました。1962年12月13日には、M31A1CとM31A2がスタンダードBに指定され、初期のM31モデルは旧式化しました。1952年から1960年の間に合計7,799基のM31基本型オネスト・ジョンが生産されました。

M50 改善型オネスト・ジョンは、1961年5月に最初の戦術ユニットが配備され、1962年内にはアメリカ国内および海外の陸軍砲兵大隊に装備されました。1973年からはMGM-29 サージェントと共にMGM-52 ランスに更新されましたが、NATO軍とアメリカ陸軍州兵では1982年まで配備されました。1960年から1965年の間に合計7,089基のM50改善型オネスト・ジョンが生産されました。

現存するMGR-1

現在、オネスト・ジョンは以下の博物館で展示されています。

カロライナ航空博物館（ノースカロライナ州シャーロット）
アメリカ空軍 宇宙とミサイルの博物館（フロリダ州ケープ・カナヴェラル空軍ステーション）
オクラホマ州フォート・シル
ヘンドン博物館（イギリス）

仕様

MGR-1A (M31)

全長：8.31m
翼幅：2.64m
直径：0.76m
発射重量：2,510kg
速度：M2.3
高度：9,430m
射程：5.5 - 26.5km
機関：ハーキュリーズM6 固体燃料ロケットモーター
推力：411kN
燃焼時間：4.3秒
弾頭：W7 核弾頭（核出力：20kt）、W31 核弾頭（核出力：2-40kt）、高性能炸薬弾頭（680kg）

MGR-1B (M50)

全長：7.57m
翼幅：1.42m
直径：0.76m
発射重量：1,980kg
速度：M2.9
高度：17,000m
射程：6.1 - 40km
機関：ハーキュリーズ 固体燃料ロケットモーター
推力：480kN
燃焼時間：3.38秒
弾頭：W7 核弾頭（核出力：20kt）、W31 核弾頭（核出力：2-40kt）、高性能炸薬弾頭（680kg）

登場作品

初期の東宝特撮映画には、M289発射機に搭載されたMGR-1Aが登場します。これは、当時オネスト・ジョンが在日米軍に配備されたことが社会問題となっていた背景を反映したものです。

『空の大怪獣ラドン』：阿蘇山のラドンの巣を攻撃するために出動。
『ウルトラQ』：第8話にモグラ怪獣モングラーへの攻撃に使用（映像は『空の大怪獣ラドン』の流用）。
『地球防衛軍』：ミステリアンドームに対する攻撃に使用。
『惑星大怪獣ネガドン』：ネガドンへの攻撃に使用。

これらの作品では、オネスト・ジョンは陸上自衛隊または防衛隊の装備として登場します。

脚注

注釈

出典

参考文献

“HONEST JOHN” (英語). Redstone Arsenal Historical Information. レッドストーン兵器廠.
『東宝特撮超兵器画報』監修 川北紘一 構成 岸川靖、大日本絵画、1993年3月。

関連項目

MGM-29 (ミサイル)
MGM-52 (ミサイル)
MGR-3 (ロケット)
アメリカ合衆国のミサイル一覧
キャンプ・ドレイク - 旧米軍朝霞基地。
M54 5tトラック - MGR-1オネスト・ジョンの発射機であるM289、M386の車台となった軍用5tトラック。
FROG (ロケット兵器) - ソビエト連邦の無誘導ロケット兵器。

外部リンク

* ウィキメディア・コモンズには、MGR-1 オネスト・ジョンに関するカテゴリがあります。

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