MINT JAMS

日本のフュージョンバンド、カシオペアが1982年に発表した7枚目のアルバム『MINT JAMS』は、彼らにとって2作目のライブ・アルバムでありながら、スタジオ作品に匹敵する完成度を誇り、バンドのキャリアを語る上で欠かせない代表作の一つとされています。

このアルバムの誕生は、所属レコード会社であるアルファレコードのヨーロッパ市場への展開が背景にありました。当初は既存曲からのベスト盤制作が検討されていましたが、ヨーロッパでの配給を担当することになったCBS-UKの担当者が、1981年12月の「CROSS POINT」ツアーにおける大阪でのパフォーマンスを耳にし、その圧倒的なライブ演奏に感銘を受けます。彼は「この素晴らしいライブの勢いと、スタジオレコーディングの持つ緻密さを併せ持った作品は作れないものか」とリクエストしたことで、既存楽曲をライブ形式で新たに録音するという異例のプロジェクトがスタートしました。

アルバム制作の素材として選ばれたのは、東京の中央会館（現在の銀座ブロッサム 中央会館）で行われた2日間の単独ライブでの演奏音源です。これらの音源に対し、実に10日以上にわたる徹底的なリミックス作業が施されました。収録曲の演奏は、事前にスタジオでの編集作業を意識したアレンジが施されており、「Time Limit」のアウトロ部分にはスタジオでの加工が加えられた箇所があるものの、原則として一切のダビングを行わずに制作されました。ライブ演奏につきものの観客によるノイズも、「Domino Line」と「Swear」の楽曲の一部を除いて巧みにカットされ、その仕上がりは一聴しただけではスタジオ録音と区別がつかないほどの高いクオリティを実現しています。

アルバムタイトルである『MINT JAMS』は、英語で「新品同様」や「極上のコンディション」を意味する「ミント・コンディション」と、即興演奏を指す「ジャム・セッション」を組み合わせた造語であり、「最高の演奏」という意味が込められています。発表当時は、その意味を「爽快な」という言葉で説明していた時期もありました。また、このタイトルはメンバーのイニシャルを並べ替えたアナグラムにもなっています。アルバムのジャケットには、タイトルの文字通りの意味を表現するかのように、「ハッカのジャム」の瓶が描かれています。

カシオペアが持つ純粋な演奏の躍動感と、この作品で試みられた入念なスタジオ編集作業が融合した『MINT JAMS』は、リリースから長い年月を経た今日においても、彼らのディスコグラフィーの中でも特に重要な作品として位置づけられ、高い評価を受けています。本作で採用された革新的なレコーディング手法は、その後の彼らの[アルバム]]制作にも大きな影響を与えました。次作『FOUR BY FOUR]』では海外ミュージシャンとのスタジオセッション音源、[[1984年の『DOWN UPBEAT』ではスタジオでの一発録音、1990年の『THE PARTY』ではスタジオライブの映像収録時の音源を使用するなど、様々な試みが行われました。近年においても、リハーサルライブでアレンジを徹底的に練り上げた上で短期間でスタジオ録音を行うという手法が用いられるなど、本作で確立されたコンセプトが受け継がれています。

参加ミュージシャンと使用楽器

ギター：野呂一生 (YAMAHA SG-2000)
キーボード：向谷実 (YAMAHA GS-1, CS-70M, CP-35, Moog Source, ROLAND Vocoder Plus) - この頃からYAMAHA GS1をメインに使用。
ベース：櫻井哲夫 (YAMAHA BB-2000)
ドラム、パーカッション：神保彰 (YAMAHA YD-9000R)

主な制作スタッフ

プロデューサー：宮住俊介
アソシエート・プロデューサー：Satoshi Nakao
エンジニア：吉沢典夫
アートディレクション：ツクイトシナオ
イラストレーション、デザイン：比留間雅夫

主な受賞歴

1982年アドリブ誌 フュージョンベストレコード
1982年ジャズライフ誌 ベストレコード
ハイレゾ音源大賞 HD-Music 2016年7月度推薦作品

海外展開

本作のヨーロッパ盤は日本と同時期に発売されました。1983年には、アルバム『JIVE JIVE』のレコーディングのためロンドンを訪れた際に、本作のプロモーションを兼ねたライブが開催されています。

『MINT JAMS』は、単なるライブ・アルバムの枠を超え、その緻密なサウンドプロダクションと情熱的なパフォーマンスによって、カシオペアの音楽性を高次元で表現した金字塔的作品と言えるでしょう。

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