Netscape Navigator (ネットスケープコミュニケーションズ)

Netscape Navigator (ネットスケープ ナビゲーター) の歴史

Netscape Navigatorは、かつてネットスケープコミュニケーションズが開発していたウェブブラウザです。1990年代、インターネットの黎明期において、その革新的な機能と使いやすさで圧倒的な人気を博しました。本稿では、バージョン1から4までのNetscape Navigatorの歴史、機能、そしてブラウザ戦争と呼ばれる激しい競争の中でどのように衰退していったのかを詳しく解説します。

バージョン1から4

1994年、Netscape Navigatorはベータ版として初めて公開されました。同年暮れには、改良版であるバージョン1.0がリリースされ、シェアウェアとして販売されました。当時のウェブブラウザ市場において、Netscape Navigatorは圧倒的な人気を誇り、ネットスケープコミュニケーションズのIPOを支える原動力となりました。

当初、このブラウザは「Mozilla」という名前でリリースされる予定でしたが、マーケティング戦略上の理由から「Netscape」に変更されました。しかし、開発コードネームは「Mozilla」のままであり、「Netscapeと書いてMozillaと読む」と揶揄されることもありました。

1995年には、バージョン2.0がリリースされ、クッキー、フレーム、JavaScriptといった画期的な拡張機能が導入されました。特にJavaScriptは、当初「LiveScript」という名称でしたが、サン・マイクロシステムズとの提携により「JavaScript」という名称に変更されました。

1996年には、バージョン3.0がリリースされ、「Standard Edition」と「Gold Edition」の2つのエディションが提供されました。「Gold Edition」には、電子メールクライアントとWYSIWYGのHTMLエディタが搭載されていました。この頃には、Netscape Navigatorの市場シェアは70%にまで達し、まさにウェブブラウザの代名詞とも言える存在でした。

しかし、その一方で、マイクロソフトのInternet Explorerが、Windows 95の普及とともに勢力を拡大し始め、ブラウザ市場は激しいシェア争奪戦である「ブラウザ戦争」へと突入しました。さらに、当時インターネットの将来性を見越したAOL（現在のタイム・ワーナー）がネットスケープコミュニケーションズを買収し、傘下に収めることとなりました。

1997年には、バージョン4.0がリリースされ、JavaScriptの大幅な機能強化が図られました。しかし、バグの多さや、当時普及し始めていたCSSの解釈ミスといった問題点が指摘されるようになり、Internet Explorerとの競争において徐々に劣勢に立たされていきます。1998年初頭には、Netscape Navigatorの市場シェアは57%にまで落ち込みました。

Internet Explorerがブラウザ戦争を制した要因としては、マイクロソフトがPCメーカーに対して不当な圧力をかけ、自社製のブラウザをOSに抱き合わせ販売したことや、Windows 98以降、Internet ExplorerがOSのシェルに統合されたことが挙げられます。これらの要因により、ユーザーはPCを購入した時点でInternet Explorerをすぐに利用できる状態になり、他のブラウザを導入する機会が大幅に減少しました。

さらに、1997年8月には、Appleがマイクロソフトと資本提携したことで、Mac OS 8.5以降ではInternet Explorerが標準ブラウザとして採用されることになりました（Mac OS X v10.2まで）。それ以前のMac OS 8.0や8.1では、Netscape Navigatorが標準ブラウザとしてバンドルされていました。

また、Netscape NavigatorとInternet Explorerとの間でウェブページのレンダリングに違いがあったことも、ウェブサイト制作者にとっては頭痛の種でした。ウェブサイトを制作する際に、両方のブラウザで意図通りに表示されるように調整する必要があり、制作コストが増加する要因となりました。このため、コストを重視するウェブマスターの中には、Netscape Navigatorでの表示を無視し、Internet Explorerでの表示にのみ対応するケースも見られるようになりました。このような状況が、Netscape Navigatorのシェア低下を加速させる一因となりました。

1998年1月22日、ネットスケープコミュニケーションズはNetscape NavigatorブラウザとNetscape Communicator Standard Editionを無償化しました。同年10月19日には、バージョン4.0を大幅に機能強化したバージョン4.5を発表しましたが、シェアの回復には至りませんでした。

同年、ネットスケープコミュニケーションズは大きな決断を下します。それは、Netscapeのバージョン5.0に相当するソースコードを公開し、オープンソースソフトウェアとして開発するというものでした。これは、当時勢力を拡大していたLinuxなどのオープンソースソフトウェアに影響を受けたものでした。プロジェクトは「Mozilla」と名付けられ、「Mozilla Organization」という非営利団体によって開発が進められることとなりました。その後、1998年暮れにネットスケープコミュニケーションズはAOLに買収されますが、Mozillaプロジェクトは継続されることになりました。

バージョン4.0は、バージョン6以降と並行して開発が続けられ、細かなバージョンアップが繰り返されましたが、2002年にバージョン4.8がリリースされたのを最後に、開発は終了しました。このバージョンには、オープンソース化されたコードは使用されていません。

リリース履歴

以下に、Netscape Navigatorの主なリリース履歴を示します。

Mosaic Netscape 0.9 – 1994年10月13日
Netscape Navigator 1.0 – 1994年12月15日
Netscape Navigator 1.1 – 1995年3月
Netscape Navigator 1.1N – 1995年4月
Netscape Navigator 1.22 – 1995年8月
Netscape Navigator 2.0 – 1996年3月
Netscape Navigator 2.01
Netscape Navigator 2.02
Netscape Navigator 3.0 – 1996年8月19日
Netscape Navigator 3.01
Netscape Navigator 3.02
Netscape Navigator 3.03
Netscape Navigator 3.04 – 1997年10月4日
Netscape Navigator 4.0 – 1997年6月
Netscape Navigator 4.01
Netscape Navigator 4.02
Netscape Navigator 4.03
Netscape Navigator 4.04
Netscape Navigator 4.05
Netscape Navigator 4.06 – 1998年8月17日
Netscape Navigator 4.07
Netscape Navigator 4.08 – 1998年11月9日 (16bit版Windowsと68k Macintoshの最終リリース)
Netscape Communicator 4.5
Netscape Communicator 4.51
Netscape Communicator 4.6 – 1999年5月18日
Netscape Communicator 4.7 – 1999年9月30日
Netscape Communicator 4.72
Netscape Communicator 4.73
Netscape Communicator 4.74
Netscape Communicator 4.75
Netscape Communicator 4.76
Netscape Communicator 4.77
Netscape Communicator 4.78
Netscape Communicator 4.79
* Netscape Communicator 4.8 – 2002年8月22日（4.x系統の最終版）



Netscape Navigatorは、その後のウェブブラウザの発展に大きな影響を与えたと言えるでしょう。その遺産は、Mozillaプロジェクト、そして今日のウェブブラウザにも受け継がれています。

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