OSAKA STADIUM on August 25th in 1985
『OSAKA STADIUM on August 25th in 1985』（おおさかスタジアム・オン・オーガスト・トゥウェンティーフィフス・イン・ナインティーンエイティファイブ）は、孤高のシンガーソングライター、尾崎豊の通算4作目となるライブアルバムです。1998年11月21日、ソニー・ミュージックレコーズより、『Volume 1.』と『Volume 2.』の2枚に分けて単独でリリースされました。
前作にあたるライブコンピレーションアルバム『MISSING BOY』（1997年）から約1年を経ての発売となり、プロデュースは尾崎の多くの作品を手がけた須藤晃が担当しています。
本作は、1985年に開催された尾崎のセカンドアルバム『回帰線』に伴う全国ツアー「TROPIC OF GRADUATION TOUR」の中から、その最終公演となった8月25日の大阪球場でのライブパフォーマンスを収録したものです。このツアーは約4ヶ月間にわたり、全39公演が行われましたが、ほとんどがホールでのコンサートでした。そのため、ファイナルとして予定されていた大阪球場公演は、尾崎にとって初のスタジアムでの単独ライブという大きな意味を持っていました。2万席が用意されたこの公演のチケットは、早々に完売しています。
公演前日には大阪入りし、ホテルに宿泊した尾崎とバンドメンバーは、当日昼過ぎに会場へ向かいました。この日の大阪は猛暑で、移動中のタクシーのラジオでは35度を超える気温が伝えられるほど。アスファルトとコンクリートに囲まれた大阪球場も高温地帯となり、すり鉢状のグラウンド内野からホームベースに向け設置されたステージ上の気温は、リハーサル開始頃には41度を記録したといいます。
午後1時過ぎから始まったリハーサルでは、バックバンド「Heart Of Klaxon」がサウンドチェックを進める中、ボーカルチェックの時間になっても尾崎の姿が見えませんでした。ステージからメンバーが呼びかけますが応答はなく、後に尾崎が公演前の腹ごしらえとしてステーキを食べに行っていたことが判明するという一幕もありました。遅れてステージに現れた尾崎は、歩幅や手の動きでステージの広さを確認する様子が見られました。
大阪球場公演には、当時としては驚異的な2万6000人が詰めかけました。1980年代中頃の日本の音楽シーンにおいて、球場で単独コンサートを開催できるミュージシャンは限られており、ロックアーティストとしては1978年の矢沢永吉などごくわずかでした。尾崎はデビューからわずか1年8ヶ月という短期間で、この偉業を達成したのです。
ライブは午後6時に開演。真昼のような明るさと暑さが残る中、1曲目「米軍キャンプ」のイントロが奏でられました。この曲はツアー開始当初から演奏されていましたが、当時はまだ未発表で、同年11月にリリースされる3rdアルバム『壊れた扉から』で初めて公式に音源化されるものでした。アップテンポな曲ではなく、感傷的なバラードで幕を開けたことについて、ギタリストの江口正祥は、尾崎が常に新しい表現を模索していたことに触れ、「ドラムのリズムだけで登場し、静かに歌い出す。素晴らしいオープニングだった」と語っています。また、この日は同じく未発表曲だった「Freeze Moon」がメンバー紹介を含め30分以上にわたって演奏されるなど、実験的な構成が色濃く反映されていました。尾崎はメンバーを「俺たち、ハート・オブ・クラクション」と呼び、彼らに向けた信頼や必要性を滲ませていました。
アンコールでの「Freeze Moon」演奏終盤、「バイバイ」と3回連呼する尾崎の声は、『Volume 2.』の終わりに収録されています。終演後、楽屋に戻った尾崎は放心状態だったといいます。スタッフから生ビールを手渡され、「ひと言!」と促された尾崎は、自らの頭からビールをかぶりながら「いつまで歌えば幸せになれるんだろうって……」と発言した後、困惑したような表情で笑ったというエピソードも残されています。聴衆が帰り、撤去作業が始まったグラウンドを横切る際、尾崎は何度もステージと客席を振り返り、清々しい表情を見せていたそうです。やがて車が発進する際、胸ポケットに入れていた『北斗の拳』の電子ゲームの音が鳴り、尾崎は吹き出すように笑い出したとも伝えられています。
本作の音源は、ライブコンピレーションアルバム『MISSING BOY』の制作過程で発見されたオリジナルテープを元に制作されました。ミキシングは尾崎の初期3作品を手がけたエンジニアの助川健が担当し、マスタリングはニューヨークで行われています。当時使用されていたアナログ録音用のテープは太く、収録時間も限られていたため、3時間を超える大阪球場公演の録音テープは膨大な量に上りました。プロデューサーの須藤晃は、テープの状態不良や録音時のアクシデントも重なり、全体の整理に長い時間と労力を要したと振り返っています。須藤氏は、大阪球場公演のマルチ録音テープが尾崎関連で残された最後のテープであると述べています。結果として、『MISSING BOY』にはこの大阪球場公演から3曲が収録されるに留まりました。
オリジナルテープにはいくつかの問題がありました。アンコール1曲目の「Freeze Moon」終了直後から音源が失われており、13年経過した時点でも当時のスタッフは理由を思い出せませんでした。アンコールの残り2曲「I LOVE YOU」と「シェリー」については、映像記録用のテープには残存していましたが、マルチトラックでの録音テープが存在しなかったため、本作への収録は見送られました。また、録音上のトラブルにより、本編で演奏された「ダンスホール」と「卒業」も未収録となっています。
このような制約がある中で、須藤プロデューサーは可能な限りライブ当日の体験を再現することを目指しました。オープニングから6曲目までは未編集で、曲間もそのまま収録されています。許容範囲内のノイズも削除せず、尾崎が歌っていない箇所やチューニング異常のギター音などもバランス調整せずに収録するなど、現場の生々しさを重視した編集がなされています。アンコールでの「Freeze Moon」（30分超）も同様に未編集で収録されました。なお、収録曲のうち「ドーナツ・ショップ」と「Freeze Moon」は、公式リリース前のバージョンであり、後に発表されたものとは一部歌詞が異なっています。
本作は1998年11月21日に『Volume 1.』（SRCL-4425）と『Volume 2.』（SRCL-4426）としてCDで発売されました。オリコンアルバムチャートでは、『Volume 1.』が最高位60位、登場週数2回で約0.5万枚、『Volume 2.』が最高位63位、登場週数2回で約0.5万枚の売り上げを記録しました。当初、『Volume 1.』のライナーノーツにはライブビデオのリリースを示唆する記述がありましたが、実現には至っていません。
2012年8月29日には、CD-BOX『LIVEBEAT BOX』の一部として1枚組で再収録されましたが、その際に「米軍キャンプ」「Bow!」「坂の下に見えたあの街に」「Scrambling Rock'n'Roll」「十七歳の地図」「Freeze Moon」の6曲がカットされ、「ダンスホール」がボーナストラックとして追加されています。
本作に対する音楽評論家たちの評価は分かれています。音楽情報サイト『CDジャーナル』では、『Volume 1.』について「（リアルタイム世代が）このライヴ盤を聴いて何を思うかにかかっている」とリスナーに問いかけ、『Volume 2.』については当時の尾崎の「骨までザックリ切れそうなほどのオーラ」を捉えており、「多くの人々の心を掴んでいったことが納得できる」と肯定的に評価しています。音楽誌『別冊宝島2559 尾崎豊 Forget Me Not』でライターの安部薫は、大阪球場ライブを尾崎の「全ライブにおいて究極のライブ」と位置づけ、「魂の奥底からロックンロールする剥き出しの衝動」「瑞々しくかつヒリヒリとした10代の尾崎豊をダイレクトに伝える」「大人にアップデートされる寸前の姿」として高く評価しました。一方、音楽誌『別冊宝島1009 音楽誌が書かないJポップ批評35 尾崎豊 FOREVER YOUNG』のライター宮城正樹は、前年にリリースされた『MISSING BOY』に大阪球場音源が3曲収録されていたにも関わらず、わずか1年で収録曲を含む本作がリリースされたことに対し、否定的な見解を示しています。
本作のレコーディングに参加した主なミュージシャンは、尾崎豊（ボーカル、ギター、ピアノ）、井上敦夫（キーボード）、鴇田靖（ギター）、江口正祥（ギター）、田口正人（ベース）、吉浦芳一（ドラムス）、阿部剛（サクソフォーン）からなる「Yutaka Ozaki & Heart Of Klaxon」です。スタッフとしては、プロデュースの須藤晃をはじめ、ミキシング・エンジニアの助川健、マスタリング・エンジニアのアンディー・ヴァンデッテ（ニューヨーク）、アート・ディレクションと写真の田島照久などがクレジットされています。
前作にあたるライブコンピレーションアルバム『MISSING BOY』（1997年）から約1年を経ての発売となり、プロデュースは尾崎の多くの作品を手がけた須藤晃が担当しています。
ライブ公演の背景と記録
本作は、1985年に開催された尾崎のセカンドアルバム『回帰線』に伴う全国ツアー「TROPIC OF GRADUATION TOUR」の中から、その最終公演となった8月25日の大阪球場でのライブパフォーマンスを収録したものです。このツアーは約4ヶ月間にわたり、全39公演が行われましたが、ほとんどがホールでのコンサートでした。そのため、ファイナルとして予定されていた大阪球場公演は、尾崎にとって初のスタジアムでの単独ライブという大きな意味を持っていました。2万席が用意されたこの公演のチケットは、早々に完売しています。
公演前日には大阪入りし、ホテルに宿泊した尾崎とバンドメンバーは、当日昼過ぎに会場へ向かいました。この日の大阪は猛暑で、移動中のタクシーのラジオでは35度を超える気温が伝えられるほど。アスファルトとコンクリートに囲まれた大阪球場も高温地帯となり、すり鉢状のグラウンド内野からホームベースに向け設置されたステージ上の気温は、リハーサル開始頃には41度を記録したといいます。
午後1時過ぎから始まったリハーサルでは、バックバンド「Heart Of Klaxon」がサウンドチェックを進める中、ボーカルチェックの時間になっても尾崎の姿が見えませんでした。ステージからメンバーが呼びかけますが応答はなく、後に尾崎が公演前の腹ごしらえとしてステーキを食べに行っていたことが判明するという一幕もありました。遅れてステージに現れた尾崎は、歩幅や手の動きでステージの広さを確認する様子が見られました。
歴史的なスタジアムライブ
大阪球場公演には、当時としては驚異的な2万6000人が詰めかけました。1980年代中頃の日本の音楽シーンにおいて、球場で単独コンサートを開催できるミュージシャンは限られており、ロックアーティストとしては1978年の矢沢永吉などごくわずかでした。尾崎はデビューからわずか1年8ヶ月という短期間で、この偉業を達成したのです。
ライブは午後6時に開演。真昼のような明るさと暑さが残る中、1曲目「米軍キャンプ」のイントロが奏でられました。この曲はツアー開始当初から演奏されていましたが、当時はまだ未発表で、同年11月にリリースされる3rdアルバム『壊れた扉から』で初めて公式に音源化されるものでした。アップテンポな曲ではなく、感傷的なバラードで幕を開けたことについて、ギタリストの江口正祥は、尾崎が常に新しい表現を模索していたことに触れ、「ドラムのリズムだけで登場し、静かに歌い出す。素晴らしいオープニングだった」と語っています。また、この日は同じく未発表曲だった「Freeze Moon」がメンバー紹介を含め30分以上にわたって演奏されるなど、実験的な構成が色濃く反映されていました。尾崎はメンバーを「俺たち、ハート・オブ・クラクション」と呼び、彼らに向けた信頼や必要性を滲ませていました。
アンコールでの「Freeze Moon」演奏終盤、「バイバイ」と3回連呼する尾崎の声は、『Volume 2.』の終わりに収録されています。終演後、楽屋に戻った尾崎は放心状態だったといいます。スタッフから生ビールを手渡され、「ひと言!」と促された尾崎は、自らの頭からビールをかぶりながら「いつまで歌えば幸せになれるんだろうって……」と発言した後、困惑したような表情で笑ったというエピソードも残されています。聴衆が帰り、撤去作業が始まったグラウンドを横切る際、尾崎は何度もステージと客席を振り返り、清々しい表情を見せていたそうです。やがて車が発進する際、胸ポケットに入れていた『北斗の拳』の電子ゲームの音が鳴り、尾崎は吹き出すように笑い出したとも伝えられています。
音源化と構成上の制約
本作の音源は、ライブコンピレーションアルバム『MISSING BOY』の制作過程で発見されたオリジナルテープを元に制作されました。ミキシングは尾崎の初期3作品を手がけたエンジニアの助川健が担当し、マスタリングはニューヨークで行われています。当時使用されていたアナログ録音用のテープは太く、収録時間も限られていたため、3時間を超える大阪球場公演の録音テープは膨大な量に上りました。プロデューサーの須藤晃は、テープの状態不良や録音時のアクシデントも重なり、全体の整理に長い時間と労力を要したと振り返っています。須藤氏は、大阪球場公演のマルチ録音テープが尾崎関連で残された最後のテープであると述べています。結果として、『MISSING BOY』にはこの大阪球場公演から3曲が収録されるに留まりました。
オリジナルテープにはいくつかの問題がありました。アンコール1曲目の「Freeze Moon」終了直後から音源が失われており、13年経過した時点でも当時のスタッフは理由を思い出せませんでした。アンコールの残り2曲「I LOVE YOU」と「シェリー」については、映像記録用のテープには残存していましたが、マルチトラックでの録音テープが存在しなかったため、本作への収録は見送られました。また、録音上のトラブルにより、本編で演奏された「ダンスホール」と「卒業」も未収録となっています。
このような制約がある中で、須藤プロデューサーは可能な限りライブ当日の体験を再現することを目指しました。オープニングから6曲目までは未編集で、曲間もそのまま収録されています。許容範囲内のノイズも削除せず、尾崎が歌っていない箇所やチューニング異常のギター音などもバランス調整せずに収録するなど、現場の生々しさを重視した編集がなされています。アンコールでの「Freeze Moon」（30分超）も同様に未編集で収録されました。なお、収録曲のうち「ドーナツ・ショップ」と「Freeze Moon」は、公式リリース前のバージョンであり、後に発表されたものとは一部歌詞が異なっています。
リリースと評価
本作は1998年11月21日に『Volume 1.』（SRCL-4425）と『Volume 2.』（SRCL-4426）としてCDで発売されました。オリコンアルバムチャートでは、『Volume 1.』が最高位60位、登場週数2回で約0.5万枚、『Volume 2.』が最高位63位、登場週数2回で約0.5万枚の売り上げを記録しました。当初、『Volume 1.』のライナーノーツにはライブビデオのリリースを示唆する記述がありましたが、実現には至っていません。
2012年8月29日には、CD-BOX『LIVEBEAT BOX』の一部として1枚組で再収録されましたが、その際に「米軍キャンプ」「Bow!」「坂の下に見えたあの街に」「Scrambling Rock'n'Roll」「十七歳の地図」「Freeze Moon」の6曲がカットされ、「ダンスホール」がボーナストラックとして追加されています。
本作に対する音楽評論家たちの評価は分かれています。音楽情報サイト『CDジャーナル』では、『Volume 1.』について「（リアルタイム世代が）このライヴ盤を聴いて何を思うかにかかっている」とリスナーに問いかけ、『Volume 2.』については当時の尾崎の「骨までザックリ切れそうなほどのオーラ」を捉えており、「多くの人々の心を掴んでいったことが納得できる」と肯定的に評価しています。音楽誌『別冊宝島2559 尾崎豊 Forget Me Not』でライターの安部薫は、大阪球場ライブを尾崎の「全ライブにおいて究極のライブ」と位置づけ、「魂の奥底からロックンロールする剥き出しの衝動」「瑞々しくかつヒリヒリとした10代の尾崎豊をダイレクトに伝える」「大人にアップデートされる寸前の姿」として高く評価しました。一方、音楽誌『別冊宝島1009 音楽誌が書かないJポップ批評35 尾崎豊 FOREVER YOUNG』のライター宮城正樹は、前年にリリースされた『MISSING BOY』に大阪球場音源が3曲収録されていたにも関わらず、わずか1年で収録曲を含む本作がリリースされたことに対し、否定的な見解を示しています。
参加ミュージシャン、スタッフ
本作のレコーディングに参加した主なミュージシャンは、尾崎豊（ボーカル、ギター、ピアノ）、井上敦夫（キーボード）、鴇田靖（ギター）、江口正祥（ギター）、田口正人（ベース）、吉浦芳一（ドラムス）、阿部剛（サクソフォーン）からなる「Yutaka Ozaki & Heart Of Klaxon」です。スタッフとしては、プロデュースの須藤晃をはじめ、ミキシング・エンジニアの助川健、マスタリング・エンジニアのアンディー・ヴァンデッテ（ニューヨーク）、アート・ディレクションと写真の田島照久などがクレジットされています。
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