RSTS/E

RSTS (Resource Sharing Time Sharing System) の概要

RSTSは、ディジタル・イクイップメント・コーポレーション (DEC) が16ビットミニコンピュータ PDP-11 シリーズ向けに開発した、マルチユーザー・タイムシェアリングオペレーティングシステムです。1970年に最初のバージョンRSTS-11がリリースされ、その後RSTS/Eへと進化しました。RSTS-11とRSTS/Eは一般的に「RSTS」と総称されます。

開発の歴史

1970年代

初期 (1970-1973)
RSTSのカーネルはアセンブリ言語 MACRO-11 で記述され、DOS-11上で動作するCILUSプログラムでインストール。
起動時にはBASIC言語の拡張版であるBASIC-PLUSが立ち上がります。
リソース管理やシステム管理などのシステムソフトウェアはBASIC-PLUSで記述。
56KBの磁気コアメモリで動作し、最大16端末、17ジョブを同時実行可能。

RSTS/E の登場 (1973)
PDP-11/40と/45向けにメモリ管理がサポートされたRSTS/Eがリリース。
メモリ容量が4倍（256KB）に拡大し、ユーザーモードプロセスとカーネルの分離が可能に。

機能拡張 (1975)
22ビットアドレスのPDP-11/70向けにメモリ管理が改良され、2MBのメモリと最大63ジョブに対応。
RTSとCCLの概念が導入され、マルチ端末サービスやプロセス間通信が強化。

インストール方法の変更 (1977)
RSTSカーネルがRT-11上でコンパイル可能になり、システムディスクへのコピーが容易に。
BASIC-PLUSのRTSが独立したユーザーモードプロセスとして動作。

メモリ管理の最終更新 (1978)
22ビットアドレスの全機種をサポートし、最大4MBのメモリに対応。
SUPERVISORYモードの導入やDECnetのサポート。

1980年代

メモリ保護の導入 (1981)
Unibusマシン向けにユーザー空間の命令とデータの分離をサポート。
DCL RTSやDECnet IIIをサポート。

MicroPDP-11への対応 (1983)
18ビットPDP-11 (MicroPDP-11)をサポート。
MicroRSTSとして低価格で販売。ファイルシステムが更新（RDS1）。

RSTSの円熟期 (1985-1989)
DCLが主要RTSとなり、ファイルシステムがRDS1.2に更新。
パスワードの暗号化、アカウント管理の柔軟化、LATプロトコルとDECnet IVのサポート。

1990年代

PDP-11ソフトウェア事業の売却 (1994)
DECがPDP-11のソフトウェア事業をMentecに売却。
Mentecにより、非営利の趣味的利用に限り無料ライセンスを提供。
PC向けPDP-11エミュレータの登場で、RSTSがパーソナルコンピュータ上で高速に動作。

機能と特徴 (RSTS/E version 10.1)

対話型タイムシェアリング：システムリソースの動的割り当て。
DCL (Digital Command Language)：コマンドファイル処理、コマンド行編集、履歴機能。
CCL：システムマネージャが定義したコマンドインタフェース。
論理名：デバイスやアカウントに対するユーザー論理名とシステム論理名。
システムセキュリティ：アカウント毎の特権とリソース割り当て。
バッチサービス：DCLコマンドファイルの集中化バックグラウンド実行。
プリントサービス：集中化バックグラウンド印刷。
オペレータ/メッセージサービス：ユーザーやプログラムからのメッセージの送受信。
各種ファイル処理：ファイル共有、保護機構、仮想（メモリ）ディスクサポート。
DCLを使用したシステムアカウント管理。
磁気テープ処理。
端末ハンドラ：対話型環境向け。
共通コードの共有：頻繁にアクセスするディスク上のデータのソフトウェアキャッシュ。
タスク間通信：プロセス間通信。
バックアップ/リストア：ディスク全体やファイルの磁気テープへのバックアップとリストア。
SCSIアダプターとSCSIデバイスの一部機種でのサポート。
異なるディスク間でのボリュームコピー。
信頼性と保守性機能。
DCL、RT-11、RSX、BASIC-PLUSのRTSをサポート。
プログラム開発ツールと通信機能を搭載。

運用

通信

オペレータとの通信には、シリアル接続（20mAカレントループ、RS-232インターフェース）、DECnet、LAT (Local Area Transport) を使用します。
最大128端末を接続し、最大63ジョブを同時実行可能です。

ログインとログアウト

ユーザーはLOGINまたはHELLOコマンドでシステムに接続します。ログインしていない端末でコマンドを入力すると、自動的にLOGINプログラムが起動されます。
ログインには、PPN (Project Programmer Number) とパスワードが必要です。PPNはプロジェクト番号とプログラマ番号で構成されます。

アカウント

各プロジェクトのプログラマ番号0はグループアカウントとして予約されています。
特別なプロジェクト番号として0（システムソフトウェア用）と1（特権アカウント用）があります。Version 9以降は任意のアカウントに特権を付与できるようになりました。

ディレクトリ構造

`DIR` コマンドでファイル一覧を表示します。ファイルには、サイズ、保護属性、日付などが表示されます。ファイル名の先頭に付く `SY:` はシステムアカウントを表します。

実行時環境 (RTS)

RSTSでは、プログラムを実行するための環境として、RTS（Run-Time System）があります。BASIC-PLUS、COBOL、FORTRANなどが利用可能です。各RTSにはKBM (Keyboard Monitor) というコマンドラインインタフェースが備わっています。
システム管理者は、CCLコマンド群をインストールすることで、KBMコマンド群に優先させることができます。

各プログラミング言語の実行環境

BASIC-PLUS

BASIC-PLUSで書かれたプログラムは、BASIC RTS上で実行されます。プログラムはバイトコード（PCODE）に変換され、SAVEコマンドで拡張子.BACで保存されます。メモリは64KB中、32KBをBASICプログラム用に利用可能です。

DCL (Digital Command Language)

バージョン9以降の主要RTSで、当時のDECのあらゆるOSと互換性があります。ドル記号 `$` がプロンプトです。

RSX (Realtime System eXecutive)

COBOL、マクロアセンブラ、BASIC-PLUS 2で書かれたプログラムは、機械語の実行ファイルとしてRSX RTSで実行されます。RSX RTSはカーネルに吸収されました。プロンプトは `>` です。

RT-11

RT-11のシングルジョブ版をエミュレートした環境です。CUSPS (Commonly Used System Programs)のために56KBのメモリが利用できます。プロンプトは `.` です。

TECO (Text Editor and COrrector)

テキストエディタTECOはRTSとして実装されています。独自のKBMは持たないため、プログラムのように起動します。

エミュレーション

RSTSは以下のエミュレータで動作可能です。

ROSS/V (RSTS/E Operating System Simulator for VAX): VAX上でRSTSのユーザーモードプロセスを実行。
Ersatz-11: WindowsやLinuxでPDP-11の命令セットをエミュレート。
SimH: 様々なプラットフォームでPDP-11を含む様々なコンピュータをエミュレート。

バージョン履歴

RSTS-11: PDP-11向けの最初のタイムシェアリングOS。BTSSからRSTSに改称。
RSTS/E: メモリ管理サポートを追加し、新機種に対応。

その他

ソビエト連邦ではRSTSのクローンとして DOS-KP というOSが存在しました。