SRTダークレッドライン

SRTダークレッドラインの概要

SRTダークレッドライン（濃赤線）は、タイの首都バンコクとその北部パトゥムターニー県を結ぶ鉄道路線です。正式名称はターニーラッタヤー線。この路線は、バンコク首都圏の老朽化した鉄道網を近代化する「都市鉄道マスタープラン」に基づいて建設されました。同じ計画で建設されたライトレッドラインと合わせて、通称「レッドライン」を構成します。

タイ国鉄（SRT）が施設を保有し、子会社のSRTエレクトリファイドトレイン（SRTET）が運営しています。これは開業当時のエアポート・レール・リンクと同様の体制です。レッドラインは、南北に延びるダークレッドラインと東西に延びるライトレッドラインが十字状に交差し、接続します。計画がすべて完了すると、全長約140kmに及ぶ複線電化路線網が完成する予定です。

この路線は、軌間1000mmの狭軌（メーターゲージ）で全線電化されています。国際入札の結果、三菱重工業、日立製作所、住友商事による共同事業体MHSCが、信号・電気設備や車両製造などを担当しました。車両は日立製作所が製造しています。

建設の背景

タイ国鉄は、バンコク中心部のフワランポーン駅を起点に、北、東北、東、南へと延びる本線を保有しています。これらの長距離列車はすべて同駅を発着しますが、非電化の単線であるため、運行遅延が頻発していました。また、地上を走る鉄道と道路の交差部が十分に立体交差化されておらず、踏切による交通渋滞が深刻な問題となっていました。

1970年代から公共交通網の見直しが進められ、1994年に最初のマスタープランであるMTMPが承認されました。この計画には、1990年代初頭に着工後頓挫した高架鉄道整備事業（ホープウェル計画）の一部が含まれており、バーンスー - マハーチャイ間（ダークレッドラインに相当）とスワンナプーム空港 - タリンチャン間（エアポート・レール・リンク、ライトレッドラインに相当）のレッドライン整備計画が正式に政府承認を得ました。

このマスタープランに基づき、バンコク・メトロ（MRT）やバンコク・スカイトレイン（BTS）が開業しましたが、タイ国鉄路線の整備事業は、ホープウェル計画のように何度も白紙に戻ることが繰り返されました。2010年になり、都市鉄道マスタープランが策定され、レッドラインも既存の計画を引き継ぐ形で盛り込まれました。

路線計画と建設

マスタープランでは、ダークレッドラインは7つの区間に分けられ、第1～3区については政府が建設を承認しています。具体的には、以下の通りです。

第1区：バーンスー - ランシット
第2区：ランシット - タマサート大学
第3区：バーンスー - フアランポーン
第4区：バーンスー - マハーチャイ
第5区：マハーチャイ - パークトー
第6区：タリンチャン - サムットソンクラーム
第7区：サムットソンクラーム - メークローン

このうち、第1～3区は現・タイ国鉄の北本線に、第4～5区はマハーチャイ線に、第6～7区はメークローン線にほぼ相当します。

さらに、タマサート大学から北方のバーンパーチー駅まで約50kmの延伸構想も存在します。

第1区の整備事業は3つのセクションに分かれ、国際入札で事業者が決定しました。

契約1：バーンスー新駅と車両メンテナンスセンター建設、ホープウェル計画の廃墟撤去など（S.U. Join Ventures）
契約2：バーンスー - ランシット間の高架橋・駅施設建設、ホープウェル計画の廃墟改修・撤去（Italian - Thai Development）
契約3：電気・信号施設工事、通信システム整備、車両調達など（MHSC）

郊外の第2区は比較的早期に完成が見込まれていますが、都心部の第3区は地下区間やライトレッドライン接続部、エアポート・レール・リンク延伸事業との連携があり、工期が長めに設定されています。

開業までの歴史

2007年5月22日：内閣がレッドラインの基本整備計画を承認。
2010年：バーンスー - ランシット間の建設が承認。施工業者の入札実施。
2013年：バーンスー駅改良工事着工。バーンスー - ランシット間が着工。
2014年6月：当初の三線式から複々線へ計画変更。
2016年7月26日：バーンスー - フアランポーン間の建設が承認。施工業者が再決定。
2019年：タマサート大学 - ランシット間の建設が承認。新型車両の出荷開始。
2021年3月26日：バーンスー - ランシット間で試運転。
2021年8月2日：無料運行開始。
2021年11月29日：バーンスー - ランシット間が正式開業。
2022年9月：国王ラーマ10世により正式名称が命名される。

運行形態

路線は複々線で容量に余裕がありますが、開業時は新型電車による各駅停車のみが運行されています。

2021年12月23日より、北本線、東北本線の長距離列車がバーンスー駅始発・終着となる予定でしたが、2023年1月に延期されました。

バーンスー駅、ランシット駅の始発は午前5時30分、終電は午前0時です。通常は20分間隔、ラッシュ時は最短12分間隔で運行されます。ダイヤは平日・休日に関わらず、1日69往復が設定されています。

COVID-19の影響により、今後の状況によって運行本数が変動する可能性があります。将来的には急行運転も計画されています。

車両

日立製作所笠戸事業所で製造されたA-trainを採用した1000系電車が使用されています。6両編成15本、合計90両が導入されました。2019年9月に最初の2編成が発送され、2020年10月に全編成の納入が完了しています。

車両のサイズは、長さ20,000mm、幅2,860mm、高さ3,700mmです。

路線と運賃

同一の駅名でも、既存の国鉄駅と新駅が離れている場合があります。例えば、ドンムアン駅は、国鉄駅と新駅で約700m離れています。

運賃は、在来線やMRTよりも高めに設定されており、最低12バーツから最大42バーツの従量制です。身長90cm以下の児童は無料、身長91～120cmで14歳未満の児童は小児料金として50%割引です。23歳以下でタイ国内の学生は、学生用カードを購入すると10%割引、60歳以上の高齢者は50%割引が適用されます。

ダークレッドラインとライトレッドラインは共通の運賃体系となっており、クルンテープ・アピワット中央駅での乗り換えは一枚の切符で可能です。国鉄在来線との乗り換えは別の切符が必要です。MRTやBMTAバスとの乗り継ぎ割引制度も検討されています。

プリペイドカードは、大人用、学生用、高齢者用の3種類があり、いずれも300バーツで200バーツ分のチャージが含まれています。学生用カードは購入時に在学証明が必要で、10%割引が適用されます。最大1000バーツまでチャージ可能です。最低料金の12バーツは入場券に相当し、駅構内への入場のみ可能で、90分を超えると最大料金が請求されます。マンスリーパスの導入も計画されていましたが、実現には至っていません。

今後の運営

開業時点ではSRTETが運営していますが、将来的には民間に運営委託する方針が発表されています。2023年頃から入札による業者選定が行われ、2024年頃には運営会社が交代する予定です。

アクシデント

本開業に際し、沿線の柵や金網が破壊されている事例が複数発見されました。不法駐車や屋台の設置、勝手踏切も作られており、当局が対応に追われています。2022年6月には、線路への侵入者が死亡する事故も発生しました。また、沿線設備のケーブル盗難も相次いでおり、安全確認のため運行を中止した事例もあります。

当局は防犯カメラ映像を公開するなど、対応に努めています。

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