北本線

タイ北本線の詳細解説

タイ北本線は、首都バンコクのフアランポーン駅から北部チェンマイ駅までを結ぶ、全長751.42kmに及ぶ重要な鉄道路線です。北部線、あるいは単に北線とも呼ばれ、タイ語では「ทางรถไฟสายเหนือ」と表記されます。正式名称はクルンテープ=チェンマイ線です。ここでは、本線だけでなく、バーンダーラー分岐駅からサワンカローク駅を結ぶ支線（28.83km）についても詳しく解説します。

概要

北本線の歴史は、1897年3月26日のフアランポーン駅 - クルンガオ（後のアユタヤ駅）間の開業から始まりました。これはタイにおける官営鉄道の最初の路線でした。開業時には、フアランポーン駅、クルンガオ（アユタヤ）駅に加え、7つの中間駅（バーンスー分岐駅、ラックシー駅、ラックホック駅、クローンランシット駅、チアンラック駅、チアンラックノーイ駅、バーンパイン駅）が開業しました。クローンランシット駅は2020年に廃止されましたが、近くには1994年に開業したランシット駅があります。

東北線の完成後、北線は北へ延伸し、1922年1月1日にチェンマイに到達しました。フアランポーン - チェンマイ間の営業開始は1933年4月11日でした。

南側の区間はタイ中部の広大な平野を南北に貫き、豊かな穀倉地帯が広がります。アユタヤ、ロッブリー、ナコンサワン、ピッサヌロークといった主要都市を通過するため、旅客・貨物輸送ともに需要が高いです。ピッサヌローク県より北はタイ北部とされていますが、ウタラディット付近までは平坦な地形が続きます。一方、北部区間は山岳地帯を走り、急勾配が連続します。ナーン川、ヨム川、ワン川、ピン川など、主要な河川と交差しながら東西に路線が伸びています。

終点のチェンマイはタイ北部を代表する観光都市であるため、北本線はタイ国鉄の最重要路線と位置づけられています。寝台特急「ウトラーウィティー号」をはじめとする多くの優等列車が運行され、豪華ツアー列車「イースタン＆オリエンタル・エクスプレス」も乗り入れます。また、かつてはJR西日本から譲渡された24系客車が使用されていましたが、現在は在来客車が中心です。ただし、時折24系客車が連結されることもあります。

信号設備についても、タイ国鉄の中では近代化が進んでいます。詳細は後述します。

複線化事業

2003年7月にはバーンパーチー - ロッブリー間が複線化されましたが、ロッブリー駅以北は長らく単線のままでした。その後、ピッサヌローク駅までの複線化が決定し、2016年末より工事が始まりました。2022年5月現在、既存路線に並行する形で複線が建設中です。ロッブリー駅周辺は遺跡が多いため、バイパス線が建設中で、バイパス線上にロッブリー新駅が開設される予定です。複線化事業は遅延しており、2023年7月時点で約8割の進捗状況です。

2022年5月には、パークナムポー - デンチャイ間280.5kmの複線化事業についても環境アセスメントが承認されました。

北部新線計画

デンチャイから分岐し、チェンライを経てラオス国境のチエンコーンに至る支線建設計画も進められています。総延長は323km、工期は6年間を予定しています。

西部新線計画

ナコーンサワンから分岐し、ミャンマー国境のターク県へ向かうターク=メーソート支線（仮称）も計画されています。過去にもターク方面への鉄道建設は検討されてきましたが、実現には至っていませんでした。2022年現在、住民との公聴会が重ねられています。

ターミナル駅移転

2021年にダークレッドラインが開業したことに伴い、北本線の長距離列車は、2023年1月19日よりクルンテープ・アピワット中央駅発着に変更されました。しかし、一部の列車はフアランポーン駅発着のまま残されています。

路線データ

路線距離：
フアランポーン駅 - チェンマイ駅：751.42 km
バーンダーラー分岐駅 - サワンカローク駅：28.83 km
軌間：1,000 mm
複線区間：
フアランポーン駅 - ランシット駅：29.75 km
バーンパーチー分岐駅 - ロッブリー駅：42.86 km
3線区間：
ランシット駅 - バーンパーチー分岐駅：60.20 km
単線区間：
ロッブリー駅 - チェンマイ駅：618.61 km
バーンダーラー分岐駅 - サワンカローク駅：28.83 km
電化区間：なし（全線非電化）
最高速度：120 km/h

開業の歴史

北本線の開業は、以下の通りです。

1897年3月26日：フアランポーン駅 - アユタヤ駅 (71.08 km)（アユタヤ駅は1917年までクルンガオ駅と称した）
1897年5月1日：アユタヤ駅 - バーンパーチー駅 (18.87 km)
1901年4月1日：バーンパーチー駅 - ロッブリー駅 (42.86 km)
1905年10月31日：ロッブリー駅 - パークナムポー駅 (117.75 km)
1908年1月24日：パークナムポー駅 - ピッサヌローク駅 (138.66km)
1908年11月11日：ピッサヌローク駅 - バーンダーラー分岐駅 (69.03 km)
1909年8月15日：バーンダーラー分岐駅 - パントンプン駅 (51.05 km)、バーンダーラー分岐駅 - サワンカローク駅 (28.83 km)
1911年6月1日：パントンプン駅 - メーファック停車場 (18.86 km)
1912年1[[1月1日]]：メーファック停車場 - パクパン駅 (10.21 km)
1913年5月1日：パクパン駅 - フアイメータ停車場 (15.99 km)
1914年6月15日：フアイメータ停車場 - バーンピン駅 (9.44 km)
1915年5月1日：バーンピン駅 - パーコー停車場 (17.36 km)
1915年12月15日：パーコー停車場 - メーチャン駅 (19.11 km)
1916年4月1日：メーチャン駅 - ナコーンラムパーン駅 (41.96 km)
1916年12月20日：ナコーンラムパーン駅 - メータンノイ駅 (29.51 km)
1918年7月1日：メータンノイ駅 - クンターン駅 (11.34 km)
1922年1月1日：クンターン駅 - チェンマイ駅 (68.28 km)

複線化の歴史

複線化の歴史は以下の通りです。

1932年1月1日：フアランポーン駅 - クローンランシット停車場 (28.48 km)
1936年10月15日：デルタ線（チットラッダー駅 - マッカサン駅）
1940年6月24日：クローンランシット停車場 - バーンパイン駅 (29.52 km)
1942年6月24日：バーンパイン駅 - バーンパーチー駅 (31.95 km)
2000年3月3日：ランシット駅 - バーンパーチー駅 (60.20 km)（3線化）
2003年7月25日：バーンパーチー駅 - ロッブリー駅 (42.86 km)

区間

フアランポーン駅 - チェンマイ駅間は、ランシット駅 - バーンパーチー分岐駅間が3線、バーンパーチー分岐駅 - ロッブリー駅間が複線（2線）となっていますが、それぞれ単線が3線、2線並んでいる状態です。各線が独立して上下両方向の列車を運行できます。

2020年頃には、貨物輸送能力を強化するため、東北本線とバーンパーチー以北を直通運転可能とするデルタ線が設置されました。これにより、レムチャバン港への貨物輸送ルートが確立しました。

バンコク都内では、ダークレッドラインの開業に伴い、旅客列車はランシット以南で同線経由に切り替えられました。新線区間は高架化され、複々線を利用した緩急分離運転が開始されています。長距離優等列車はクルンテープ・アピワット中央駅発着に変更されました。

一方、短距離の普通列車はフアランポーン駅発着を継続しており、在来線を北上し、バーンスー分岐駅の南本線専用ホームに入線します。

バーンダーラー分岐駅 - サワンカローク駅

Covid-19のパンデミックにより長期運休が続いていましたが、2023年7月に運転再開。現在、サワンカローク - (バーンダーラー分岐駅) - シラアット間の普通列車1往復のみ運行しています。かつてはバンコク - シラアット間の昼行特急も運行されていましたが、現在は廃止されています。

過去には、早朝のサワンカローク発ピッサヌローク行き、夕方のピッサヌローク発サワンカローク行きの普通列車も運行されていましたが、2007年頃に廃止されました。この普通列車廃止に伴い、支線内の4つの停車場が廃止され、現在、途中駅はクローンマップラップ駅のみです。

信号・閉塞方式

フアランポーン - ピッサヌローク間(389.28km)はタイ国鉄最長のCTC区間です。ピッサヌローク - シラアット間は連査閉塞式が採用されています。また、非自動閉塞区間では全ての交換可能駅が信号取扱駅です。

各区間の信号方式は以下の通りです。

フアランポーン - ランシット駅間：自動信号(CTC) 2線並列
ランシット - バーンパーチー分岐駅間：自動信号(CTC) 3線並列
バーンパーチー分岐駅 - ロッブリー間：自動信号(CTC) 2線並列
ロッブリー - ピッサヌローク間：自動信号(CTC) 単線
ピッサヌローク - シラアット間：非自動閉塞（連査閉塞方式）
シラアット - チェンマイ間：非自動閉塞（通票閉塞方式）
バーンダーラー分岐駅 - サワンカローク間：非自動閉塞（通票閉塞方式）

フアランポーン駅構内は手動で管理されており、構内北端の国鉄本庁前信号所がCTC区間の境界となっています。フアランポーン駅を発車する列車は、同信号所で一旦停止し、CTC区間に乗り入れるための交信と信号待ちを行います。

主な事件、事故

2012年5月26日には、チェンマイ発バンコク行きの回送列車が、ランプーン県内で脱線する事故が発生しました。

注釈

参考文献

岡本和之『タイ鉄道旅行』(めこん、1993年)
杉本聖一『魅惑のタイ鉄道』(玉川新聞社、2000年)
柿崎一郎『王国の鉄路 タイ鉄道の歴史』(京都大学学術出版会、2010年)
ฝ่ายการเดินรถ การรถไฟแห่งประเทศไทย. บัญชีรายชื่อสถานี/ที่หยุดรถ/ป้ายหยุดรถ/ระยะทาง/ชั้นสถานี/สังกัด. ม.ป.ท. (ไม่ปรากฏสถานที่พิมพ์), 2553
渡邉乙弘『タイ国鉄4000キロの旅』(文芸社、2013年)

関連項目

タイ国有鉄道
タイの鉄道駅一覧
タイ国有鉄道南本線
タイ国有鉄道東北本線
タイ国有鉄道東本線
タイ国有鉄道メークローン線
ホープウェル計画

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