STS-3xx

STS-3xx：スペースシャトル緊急救出ミッション

スペースシャトル計画において、スペースシャトルの機体が深刻な損傷を受け、大気圏再突入が不可能と判断された場合に、乗組員を救出するために計画されたミッションがSTS-3xxです。これは、Launch On Need (LON)ミッション、またはLaunch on Demand (LOD)、Contingency Shuttle Crew Support (CSCS)とも呼ばれていました。

2003年のコロンビア号空中分解事故を教訓に創設されましたが、実際に打ち上げられることはありませんでした。ここでは、その詳細な計画と背景について解説します。

ミッションの概要

このミッションでは、次に予定されていたミッションの機体と4人の乗組員が救出のために割り当てられます。NASAは、周到な計画と訓練によって、要請から40日以内にミッションを開始できる体制を整えていました。損傷したシャトルの乗組員は、その間、[国際宇宙ステーション]に避難し、酸素供給が限られる中で、2人の乗組員を約80日間サポートできるようになっていました。

もしスペースシャトルがISSの軌道に到達できず、大気圏再突入にも耐えられないと判断された場合は、ISSがスペースシャトルの軌道まで降下するjoint underspeed recoveryと呼ばれる手順も用意されていました。

遠隔操縦オービタ (RCO)

Autonomous Orbiter Rapid Prototype (AORP)とも呼ばれるRCOは、機上の乗組員の操作なしに、遠隔操縦によって大気圏再突入と着陸を行うことができるスペースシャトルです。NASAは、RCOの飛行中メンテナンス(IFM)ケーブルを開発し、スペースシャトルの既存の自動着陸機能を拡張することで、地上からの遠隔操縦を可能にしました。

RCO IFMケーブルは、地上管制インターフェースロジック(GCIL)とフライトデッキのパネルスイッチの間で電気信号を接続するために用いられます。約8.5mの長さで重さ2.3kg、16個のコネクタを備えており、ミッションコントロールセンターから無人のスペースシャトルに信号を送り、以下のシステムを制御することができます。

[補助動力装置]の起動
大気データプローブ(ADP)の展開
メイン着陸装置(MLG)の展開
減速用パラシュートの展開
* 燃料電池反応バルブの閉鎖

RCO IFMケーブルは、STS-121で初めて宇宙に持ち込まれ、ISSに保管されました。それまでは、損傷したスペースシャトルは放棄され、大気圏再突入で燃え尽きるのを待つしかありませんでした。

RCOオービタのメイン着陸予定地点は、カリフォルニア州のヴァンデンバーグ空軍基地です。通常のスペースシャトルの着陸で使用されるエドワーズ空軍基地も当初は候補でしたが、ヴァンデンバーグ空軍基地の方が沿岸に近く、太平洋への不時着に対応しやすいことから選ばれました。ニューメキシコ州のホワイトサンズ・ミサイル実験場も代替地として検討されました。着陸地点選定の重要な要素は、リスクの高い再突入を人口密集地から遠ざけることでした。

ISS以前の時代

STS-3xxミッションはコロンビア号の事故後に開発されましたが、NASAは以前から救出オプションを検討していました。ISSの打ち上げ前は、緊急時に乗組員がステーションに退避できず、スペースシャトル間を直接乗り換える必要がありました。

オービタ同士はドッキングできないため、2機は[シャトル・リモート・マニピュレータ・システム]でお互いを保持し、乗組員は宇宙遊泳(EVA)で移動します。この作業は、w:Extravehicular Mobility Unitを着用したEVA実施者が行い、他の乗組員は、加圧されたw:Personal Rescue Enclosureに乗って移動します。

STS-125のレスキュー計画：STS-400

STS-400は、スペースシャトル・エンデバーを用いて行われる予定だったSTS-125のLONミッションです。STS-125はスペースシャトル・アトランティスが用いられ、最後のハッブル宇宙望遠鏡ミッションでした。

ハッブル宇宙望遠鏡の軌道傾斜角がISSよりも低いため、乗組員はISSを退避場所として利用できませんでした。そのため、NASAはISS以前の時代に提案されていたシャトル間レスキューミッションを計画しました。STS-125の乗組員は約3週間分の消耗品しか持っていなかったため、このレスキューミッションは、要請からわずか3日で打ち上げられるように準備され、最速でSTS-125の打ち上げ7日後には打ち上げ可能な状態にされました。

STS-335：最後のLONミッション

STS-134がスペースシャトル計画で最後に予定されていたミッションであり、その後の予定がなかったため、この飛行のためにSTS-335という特殊な救出ミッションが開発されました。これは、アトランティスとハリケーン・カトリーナによる損傷から修復された外部燃料タンクET-122を用いるもので、ステーションの補給品を満載した多目的補給モジュールも輸送する予定でした。

しかし、STS-134が無事に帰還したため、STS-335は不要となり、そのままSTS-135として飛行することになりました。

STS-135の救出ミッションのためのスペースシャトルはなかったため、4人の乗組員がISSで待機し、翌年、ソユーズ宇宙船で帰還するという代替救出計画が立てられました。

まとめ

STS-3xxミッションは、スペースシャトル計画における緊急事態に備えた重要な計画でした。幸いにも実際に使用されることはありませんでしたが、その詳細な計画は、宇宙開発における安全への取り組みを示すものとして、今も記録されています。

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