Seraphic Blue

Seraphic Blue (セラフィックブルー) について

『Seraphic Blue』（通称『セラブル』）は、ゲームクリエイター天ぷら氏がRPGツクール2000を用いて制作した長編フリーゲームです。謎に満ちた物語、独自のシステム、そして長大なプレイ時間が特徴で、多くのユーザーから高い評価を得ています。

ゲーム概要

本作は、天ぷら氏が手がけた3作目の長編RPGであり、引退作とされています。2004年 5月15日に初公開され、同年の7月28日に最終アップデートが行われました。ゲーム中のクレジットには、天ぷら氏ではなく『榊』という名前が使われています。過去の作品は全て公開停止されているため、現在正式に入手できる唯一の天ぷら氏の作品となっています。

ゲームシステムは、RPGツクール2000のデフォルト素材を一切使用せず、マップ上にイベントを配置し、作者自身が全て構築しています。メニューや戦闘、アイテム管理などは全て独自の仕様となっています。

『Seraphic Blue』最大の特徴は、その徹底した暗いストーリーです。主人公の厭世的なモノローグから始まり、時折残酷な演出も見られます。物語は伏線が数多く張り巡らされ、終盤でそれらが回収される構成となっています。世界観はSF要素が強く、ファンタジー要素は控えめです。

クリアまでのプレイ時間は50時間を超えるとされており、ゲーム攻略だけでなく、会話や回想などのイベント部分も多く含まれています。サブイベントは少なく、行動範囲が制限される場面も多くあります。

演出面では、自動メッセージ送りの間隔やBGMの変更、キャラクターの細かい動作、画面の切り替えなど、細部まで丁寧に作り込まれています。テキストは漢字を多用しており、独特の雰囲気を醸し出しています。ゲーム難易度は高めに設定されており、RPG上級者も楽しめる内容となっています。

制作期間は2年以上と推測され、公開も何度か延期されています。

グラフィック・サウンド

グラフィックは、RPGツクール2000で制作されているため、低解像度（320×240ピクセル）の2DCGです。標準素材（RTP）の使用は控えめですが、マップチップやモンスターグラフィックは、フリー素材を多く使用しています。ただし、ストーリー上重要なモンスターやキャラクターは、オリジナルの素材が使用されています。会話シーンでは挿絵が用いられることもあります。タイトル画面やウィンドウには、グラデーションのかかった青色が使われ、統一感を演出しています。

BGMもフリー素材が中心で、MIDIファイルが多いですが、一部MP3形式の楽曲も使用されています。総数は100曲を超え、フィールドや戦闘シーンに合わせて変化します。Director's Cut版では、MP3形式の楽曲が大幅に増え、一部楽曲はRainy氏によるオリジナルとなっています。

ゲームプレイ

ゲーム進行は、コンシューマーRPGの一般的な形式と同様で、与えられた目的を達成することでストーリーが進みます。進行の条件は、シナリオやメニュー内のデスティネイション項目で確認できます。移動場面は、フィールドマップと通常のマップに分類され、見下ろし視点で描かれています。フィールドマップでは、ロケーション間の移動を地図で確認できます。街の機能は限定的で、必要最低限の施設しか用意されていないことが多いです。

エンカウントはランダム方式で、フィールドやダンジョンで戦闘が発生します。ダンジョン内には、セーブ可能なメモリーツリー、ダンジョン入口への移動を可能にするリターンツリー、HP・TPを回復できるリザレクトポイントが設置されています。これらは、ボス戦の直前やダンジョンの途中に配置されることが多いです。

戦闘システム

『Seraphic Blue』の戦闘システムは、RPGツクール2000のデフォルトのターン制とは大きく異なります。戦闘画面は上段、中段、下段に分かれており、上段には敵キャラクター、下段には味方キャラクターの情報が表示されます。中段には、戦闘に参加しているキャラクターの行動待ち状態がアイコンで表示されます。アイコンが左端に到達すると、そのキャラクターは行動可能になります。

プレイヤーが選択できるコマンドは、攻撃、防御、アイテム、アビリティ、エネミーデータ、パスです。「エネミーデータ」は敵の情報を閲覧できるコマンド、「パス」は行動をスキップするコマンドです。行動後、キャラクターは待機状態に入ります。攻撃、防御には強弱の2種類があり、それぞれメリットとデメリットがあります。アビリティはTPを消費して使用する技です。

キャラクターの行動順は、WT（ウェイトタイム）というパラメータによって決定されます。WTは、キャラクターごとに、AGLを含む関数によって常に減算されており、0以下になると行動可能になります。WTの残量は、セカンドコマンドから確認できます。セカンドコマンドでは、戦闘からの脱出も可能です。行動の速さに関係するパラメータは、AGLの他にMOV、ATKWTがあります。MOVは戦闘開始時のWTを決定し、ATKWTは攻撃後のWTを決定します。MOVは戦闘離脱の成否にも影響します。

戦闘は敵または味方が全滅することで終了します。敵を倒すと経験値や戦利品が得られ、味方が全滅するとゲームオーバーになります。経験値は平等に分配されます。HP・TP回復は、サプリメントという補給装置を使用します。サプリメントも経験値によってレベルアップし、貯蔵容量が増加します。

その他の要素

戦闘には、ステータス変化やフィールドエレメント（FE）といった要素があります。不利な状態は10種類、有利な状態は4種類あります。不利な状態には、HP減少（毒）や行動停止（麻痺）などがあります。上位の不利状態になると、有利な状態が解除されたり、有利状態に移行できなくなったりします。ステータス異常は、戦闘終了後に自動的に回復します。

FEは、属性攻撃を使用すると戦闘フィールドがその属性を帯びるシステムです。属性は8種類あり、火と水、風と土、光と闇は相反する属性です。高位のアビリティを使用する際には、対応するFEを消費する必要があります。

Director's Cut版では、戦闘を行う場所によって特別な攻撃が加わるアウターハザード、飛行中の戦闘時に飛行機の耐久力が加味される空中戦が追加されています。

バトルメンバー

本作には12人のプレイヤーキャラクターが登場します。一度に戦線に出られるのは4人までで、パーティーの最大人数は8人です。バトルメンバーはメニュー画面で変更できます。各キャラクターには特性があり、攻撃力が高かったり、強力な回復魔法を使えたりします。属性攻撃や不利状態への向き不向きもキャラクターによって異なります。アビリティは、キャラクター固有のものと、スフィアを装備することで覚えるものがあります。スフィアで覚えるアビリティは、複数のキャラクターが習得できますが、高レベルのスフィアは装備できるキャラクターが限られます。

アイテム

装備は、武器、スフィア、フレームの3種類があります。武器は攻撃力を高め、スフィアはアビリティの習得や能力値、耐性を強化し、フレームは防御力を高めます。フレームはスフィアを装備するための媒体としても機能します。装備の組み合わせによって、攻撃重視やスフィア重視など、幅広い戦略が可能です。

また、EXマテリアルを使用することで、ユーズアイテムの強化が可能です。アイテムを4つ合成すると全体回復Aアイテム、2つ合成すると回復量2倍のDアイテムが作成できます。

登場人物

『Seraphic Blue』の物語は群像劇であり、多くの人物がストーリーに関わっています。

パーティーメンバー

レイク・ランドヴェリー (22歳男性)：東部大陸でイーヴルスイーパーを生業とする青年。厭世的な性格で、自らの出自に葛藤している。旅の途中でセラフィックブルーの本体であることを知る。
ヴェーネ・アンスバッハ (22歳女性)：天使で、セラフィックブルーの第一片翼。レイクの母であるシリア・ローズバーグの生まれ変わり。幼少の頃から救世の道具として教育を受ける。
ニクソン・クロムウェル (33歳男性)：ホーイック教会の牧師。過去にバウンティハンターを生業としていた。天使の孤児を保護している。
ミネルヴァ・フェジテ (19歳女性)：フェジテの女王。政治の実権はまだない。反女王派から逃れるため旅に出る。
ハウゼン (138歳男性)：ミネルヴァの護衛をするマジックドール。主人に絶対の忠誠を誓う。
フォクシー (24歳女性)：エンヴィ・ケイオスの売春婦。過去に両親を失った経験を持つ。
ユアン・オースティン (43歳男性)：オーグのリーダーで、レイクの父親。セラフィックブルー第二片翼。強い正義感を持つ。
ケイン・クルスク (20歳男性)：オーグ構成員。火器の扱いに長けている。過去に妹を亡くした。
ヤンシー・ユティカ (23歳女性)：テンリンのモンク。友人をイーヴルに殺された過去を持つ。
ドリス・シュテンダル (16歳女性)：フェジテからグラウンドにやってきた少女。遅発性ディスピスで軽度の精神障害を持つ。
ランサード・シャイアン (30歳男性)：元バウンティハンター。過去に最強のイーヴルを倒した。
ヴィルジニー (1歳女性)：ゲオルクが密かに開発を進めていたシリアのクローン。感情に乏しい。ゲオルクに忠誠を誓っている。

その他の人物

ジークベルト・アンスバッハ (56歳男性)：ヴェーネの教育係。ヴェーネを救世の道具と見なしている。
フリッツ・アンスバッハ (24歳男性)：ジークベルトの息子。ヴェーネに深い思い入れを抱いている。
ゲオルク・ローズバーグ (62歳男性)：ローズバーググループの会長。娘シリアを溺愛している。
シリア・ローズバーグ (死亡時20歳女性)：レイクの母親。ゲオルクの娘。
イリエナ・カンパーニ (47歳女性)：孤児院の経営者で、レイクの育ての親。
ランゲル・ハルス (58歳男性)：医者。ローズバーグ製薬に所属していた。
ハイディ・バーミンガム (39歳女性)：ロビン開発部第一主任。
フョードル・ヴォロネシ (22歳男性)：ロビン開発部門第二主任。ハイディをライバル視している。
カーチス・ハミルトン (46歳男性): C.M.G.Cの兵器開発部門に所属。
デイジー・メイスン (46歳女性)：ミネルヴァの教育係で、フェジテの実質的な権力者。
オーウェン・バルチック (47歳男性)：元近衛兵隊長で、現C.M.G.C.委員長。
モーガン・ダグラス (36歳男性)：フェジテ内政部地上統治部門幹部。かつてC.M.G.C委員長を務めていた。
ジェラール・アランソン (29歳男性): フェジテ内政部地上統治部門の幹部。
ベネティクタ・フェジテ(死亡時45歳女性):「ガイア理論」を発表した高名な科学者
キャサリン・リオ (死亡時63歳女性): 魂に関する新説を発表した科学者。
黒衣の少女・黒衣の女性: レイクたちの前に現れる謎の人物たち。
エンデ (?歳男性)：ガイアキャンサーを操る謎の少年。
オーファ (?歳女性)：ヴェーネと瓜二つの容姿を持つ謎の女性。
エル (?歳女性)：ヴェーネの第二人格。
アイシャ・クルスク (死亡時6歳女性)：ケインの妹。ディスピスにより死亡。

ストーリー

『Seraphic Blue』のストーリーは全5章構成で、エピソード単位で細かく分けられています。複雑な世界設定のため、物語を理解しやすいように、キャラクタープロフィールやエピソード概要、用語解説がメニューの「Dictionary」に掲載されています。

物語は、序盤では主人公レイクの視点から始まり、謎が謎を呼ぶ形で展開します。中盤以降は、ヴェーネの過去がフラッシュバックされ、終盤まで謎が残るヴェーネの過去に対する伏線となります。

序章

レイクは依頼を受け、イーヴルを退治する中で、自分の生い立ちや性格について描かれます。章の終わりに、エンデとヴェーネが現れ、レイクは星の運命を巡る戦いに巻き込まれていきます。

第一章

ヴェーネの記憶を取り戻すため、レイクは旅に出ます。旅の途中で、ガイア理論などの世界の摂理を知り、ゲオルクに狙われていることを知ります。また、エンデがゲオルクと組んでいることも判明します。

第二章

フェジテを舞台に、世界の半分が明らかになります。レイクは、フェジテが空中に浮かぶ天使国家であること、ディスピスという病、そして自分がセラフィックブルーと呼ばれる存在であることを知ります。

第三章

ゲオルクがフェジテに蜂起し、地上とフェジテの間で戦争が起こります。レイクたちは戦争を収拾しようと奔走しますが、多くの犠牲が出ます。

最終章

物語の真相が明かされ、最後の戦いが始まります。エンデを倒した後、ケイン一家が黒幕であったことが判明し、彼らとの決戦を迎えます。ヴェーネはセラフィックブルーとして覚醒し、世界の終焉を防ぐために戦います。

Director's Cut

2006年 11月5日に、『Seraphic Blue -Director's Cut-』が公開されました。主な変更点は、戦闘時の不利状態の強化、アウターハザード、敵の能力値強化、ボスの思考ルーチンの強化などです。また、キャラクターの特技の変更・追加や、属性耐性の変更も行われています。イベントの追加・改変、BGMの変更、システム面の変更も行われています。

評価

ファミ通は、本作を過激な描写もある一方で、登場人物の絶望の中で希望を見出そうとする姿に感動できると評価し、Director's Cut版でのプレイを推奨しています。

ゲームクリエイターの斎藤成紀氏は、本作について「90年代風の重厚な世界観のストーリー」「メカニクスがシンプルなのに読みが深い」と評価し、作者の情熱に衝撃を受けたと語っています。

もぐらゲームスは、本作をゲームとしての面白さとともに、新しい価値観を持つような「一線を越えた物語体験」ができると評しています。