SoftBank 821T

ソフトバンク821T/832T：シニア向け携帯電話の黎明期と模倣問題

ソフトバンク821Tと832Tは、ソフトバンクモバイル（現ソフトバンク）が販売したW-CDMA方式の携帯電話端末です。東芝が開発を手掛け、特に821Tはソフトバンク初のシニア向け端末として登場しました。しかし、その外観とUIがNTTドコモの「らくらくホンIII」に酷似していると指摘され、販売差し止めを求める訴訟に発展したという、異例の経緯をたどった機種でもあります。

主な機能とサービス

両機種とも、S!アプリを利用したルートナビゲーションなどの高度なサービスは利用できませんでした。また、デコレメール機能についても、821Tは受信のみに対応し、832Tでは受信自体が非対応でした。これらの機能制限は、シニア層をターゲットとしたシンプルな操作性を重視したためと考えられます。

特徴

ソフトバンク初のシニア向け端末である821Tは、外観やUIがドコモの「らくらくホンIII」に酷似しており、これが後に大きな問題となりました。しかし、3キャリア（ドコモ、au、ソフトバンク）の中で、本格的なシニア向け携帯電話として唯一、着うたフルに対応している点は特筆すべき特徴です。

821Tと832Tの機能面での大きな違いは、デコレメールの受信可否程度です。外観では、サブディスプレイ周辺のデザインが異なるほか、メインディスプレイ下のワンタッチボタンの数が異なります。832Tには自宅専用ボタンが追加され、計4つのボタンが搭載されています。

販売差し止め申し立て

ドコモと「らくらくホンIII」の製造元である富士通は、2008年3月17日にソフトバンクモバイルと東芝に対し、不正競争防止法に基づき、821Tの製造、販売などの差し止めを求めて東京地方裁判所に仮処分命令を申し立てました。ドコモ側は、ディスプレイ側の3つのショートカットキーや十字型のカーソルキー、およびその組み合わせがらくらくホンと酷似している点を問題視しました。

しかし、このドコモの主張には以下のような問題点も指摘されました。

店頭でらくらくホンと821Tを混同するなどの混乱はなかった。
特許権や意匠権などの登録された権利に基づく申し立てではない。
* ドコモの主張はUIに集中しているが、盛り上がったテンキーや独自の機能など、模倣ではない部分も多い。

また、京セラが製造したauの簡単ケータイW32Kは、ショートカットキーに類似点があるものの、カーソルキーが円形である点が異なりました。さらに、富士通でらくらくホンを開発していた担当者が東芝に転職した後に821Tが製造されたことも、申し立ての一因とされています。

2009年4月15日、4社間で和解に至りましたが、その内容は非公開とされました。この訴訟は、携帯電話のデザインやUIに関する権利保護の難しさを浮き彫りにする出来事となりました。

携帯電話事業の変遷

和解の翌年、2010年6月17日に東芝の携帯電話事業は富士通の携帯電話事業と統合されました。東芝は子会社「FTモバイル」を設立し、富士通との合弁会社「富士通東芝モバイルコミュニケーションズ」を設立しましたが、その後2012年に富士通の完全子会社となり、東芝は携帯電話事業から完全撤退しました。

さらに、富士通の携帯電話事業を引き継いだ「富士通コネクテッドテクノロジーズ」も2021年にポラリス・キャピタル・グループに売却され、「FCNT」に社名変更しています。この訴訟が2010年の事業統合に影響したかどうかは不明ですが、業界再編の大きな転換期であったことは間違いありません。

その後、2024年11月7日には、ソフトバンクのY!mobileブランド向けにFCNTの「らくらくスマートフォン a（A401FC）」が発売され、皮肉にも本家筋の製品がソフトバンクから販売されることになりました。

まとめ

ソフトバンク821Tと832Tは、シニア向け携帯電話市場の黎明期に登場した機種でありながら、デザイン模倣問題という複雑な事情を抱えた端末でした。この一件は、携帯電話のデザインにおける権利保護の難しさ、そしてその後の業界再編へとつながる大きな転換点となりました。ソフトバンクのシニア向け端末は、その後も様々な機種が発売されていますが、この821Tと832Tの存在は、その歴史の中で特筆すべき出来事として記憶されるでしょう。

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