T-1 (練習機)

航空自衛隊 T-1 初鷹

航空自衛隊のT-1は、戦後の日本が初めて開発・実用化した記念すべきジェット機です。亜音速のジェット練習機として設計され、愛称は「初鷹（はつたか）」と呼ばれました。主に初等訓練を終えたパイロットが、ジェット機操縦に移行するための訓練（中等訓練）に用いられました。この機体は、単に戦後初の国産ジェット機というだけでなく、日本の航空技術が再び立ち上がる象徴でもありました。後継機であるT-4への更新に伴い、2006年3月をもって全ての機体が退役しました。

開発の背景

1954年に航空自衛隊が発足した当初、保有する航空機はアメリカからの供与品が中心でした。練習機についても、初等にはT-34A、中等にはT-6、高等にはT-33Aが使用されていました。しかし、第二次世界大戦中のレシプロ機であったT-6と、最新のジェット機であるT-33Aの間には性能に大きな隔たりがあり、特にT-6の旧式な尾輪式着陸装置は、ジェット機への移行を難しくしていました。この問題を解決するため、防衛庁は発足直後からT-6の後継となる国産中等練習機の開発を検討し始めました。

1956年に日本の航空活動に関する規制が全面解除されると、YS-11旅客機などと並行して、航空技術の国産化を目指す動きが活発化します。こうした機運の中、中等練習機の国産開発が正式に決定され、1955年11月には国内開発の方針が固まりました。航空自衛隊からの要求仕様は、タンデム（縦列）複座で、最大速度約780km/h、上昇限度12,000m以上、継続飛行時間2時間といった、当時の高等練習機T-33Aに一部匹敵、あるいは凌駕する高性能なものでした。

国内メーカー数社がこれに応募しましたが、最終的には富士重工業（旧中島飛行機）の提案した「T1F1」が採用されます。F-86戦闘機を参考にした鋭角な後退翼と機首に設けられた空気取り入れ口が特徴のT1F1は、高い機動性と運用性が評価されました。

開発と生産

富士重工業は、戦後の航空活動再開から日が浅く、ジェット機開発の経験も皆無に等しい状況での開発着手となりました。開発にあたっては、国内の研究機関やメーカーが協力し、当時ライセンス生産していたF-86FやT-33Aから得られた技術やノウハウが大いに活用されました。しかし、戦後解体された航空研究施設の不足に苦労し、アメリカの大学の風洞設備を借りて研究を進めるなど、困難を乗り越える必要がありました。

搭載するエンジンには、当初、国内で開発中の国産ターボジェットエンジン「XJ3」が予定されていましたが、開発の遅れから納期に間に合わないことが判明します。そのため、試作初号機にはイギリスのブリストル社製「オーフュースMk.805」（推力約1,815kg）が搭載され、「T1F2」と名付けられました。このT1F2試作初号機（機体番号82-5801）は、1958年1月19日に宇都宮飛行場で初飛行を成功させました。

試作機による試験飛行を経ていくつかの改良が加えられ、オーフュースエンジンを搭載した量産型は「T-1A」として1960年9月から部隊への配備が始まり、最終的に46機が生産されました。

一方、国産の「J3」ターボジェットエンジン（推力約1,200kg）が完成すると、試作機を改造して試験が行われ、J3エンジンを搭載した量産型は「T-1B」として開発されます。T-1Bは1962年9月から配備が開始され、20機が生産されました。後にT-1Aの一部もT-1B仕様に改造されています。総生産機数は、試作機を含めて合計66機に留まりました。これは、1962年からのF-104戦闘機導入に伴う教育体系の変化と、無償供与されたT-33Aが中等練習機として多数配備された影響によるものでした。

設計と特徴

T-1の設計は、低く配置された後退翼が特徴です。この主翼は、旧中島飛行機時代に開発された層流翼型の発展型で、十分な燃料タンク容量を確保しています。尾翼にも大きな後退角がつけられており、高速域での安定性を考慮した設計でした。垂直尾翼のドーサルフィンや、上反角のついた水平尾翼は、良好なスピン回復性能に寄与しています。

空気取り入れ口を機首に配置することで、空気流入効率を高めつつ機体全体の抵抗を減らしました。胴体は軽量化のために細身でしたが、その反面、装備品の搭載スペースや体格の大きなパイロットにとっては窮屈な面もありました。しかし、抵抗の少なさから、加速力や上昇力においてはT-33Aを凌駕し、操縦性や離着陸性能も優れていました。

開発コストと期間を抑えるため、電子機器や一部の主要装備品（キャノピー、射出座席、降着装置、増槽など）は、F-86FやT-33Aの既存品が流用されています。T-1Aはオーフュースエンジンの燃料消費が多かったため、通常、増槽を常時装着して飛行しており、これがT-1Bとの外見上の大きな違いとなりました（後にT-1Bも増槽を標準装備化）。

安全装備である射出座席は、当初外国製でしたが、後に安全性を高めた国産型に換装されました。この国産射出座席の開発には、1966年に岐阜基地で行われた地上滑走状態からの射出実験の成果が活かされています。これにより、低い高度や速度からの緊急脱出が可能となりました。

練習機ですが、機首右下に12.7mm機関銃1門を搭載可能でした。また、有事には主翼下のハードポイントに空対空ミサイルやロケット弾、爆弾などを搭載する能力も有していました。

運用と退役

T-1の導入にあたっては、従来のレシプロ機からの機種転換訓練が必要でした。初期の訓練は岐阜基地で行われ、その後、福岡県の芦屋基地に第13飛行教育団が移転し、T-1による本格的なパイロット養成が始まりました。少数ながら、岐阜の飛行開発実験団や術科学校でも運用されました。

1965年にはオーストラリア空軍がジェット練習機の候補としてT-1の調査に訪れたことがあり、その性能は国際的な水準にあることを証明しました。

1971年の航空事故を契機に、翌年から機体の視認性向上のため、従来の白一色から赤と白の鮮やかな訓練機塗装に変更されました。このカラーリングは、後継のT-4にも受け継がれています。

後継機であるT-4の配備が進むにつれて、T-1はその役目を終えていきました。T-1Aは2001年2月に全機が退役し、残っていたT-1Bも2006年3月3日に行われたラストフライトをもって、全ての機体が航空自衛隊から姿を消しました。退役した機体の多くは解体されましたが、一部は各地の航空関連施設などで保存・展示されています。

運用期間中には7件の墜落事故が発生したほか、機体の一部不具合により一時的に飛行停止命令が出された時期もありました。

登場作品

T-1は、日本の航空黎明期を象徴する機体として、フィクション作品にも登場しています。映画『ジェットF104脱出せよ』では実機が使用され、F-104パイロット候補生の訓練風景が描かれました。また、小説『タイムスリップ大戦争』や『遙かなる星』などでも、その存在が言及されています。

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