T-2 (航空機・日本)

T-2

T-2は、日本が初めて開発・実用化した超音速ジェット機です。航空自衛隊において、戦闘機パイロットとなるための最終段階にあたる高等練習機として重要な役割を担いました。また、後に開発された国産支援戦闘機F-1の設計基盤となったことでも知られています。機体には特定の愛称はなく、「ティーツー」と通称で呼ばれることが一般的です。

来歴

航空自衛隊は、1960年代にF-104J戦闘機を導入しましたが、従来のF-86Fなどとは性能が大きく異なり、パイロットの機種転換訓練に課題が生じました。特に、基本操縦課程を終えたばかりのパイロットにとって、F-104の複座型であるF-104DJは高度すぎたのです。このギャップを埋めるため、T-33A練習機とF-104DJの間をつなぐ超音速練習機の必要性が検討され、海外機の導入や国産開発の選択肢が浮上しました。

当初はアメリカのT-38Bなどが有力視されましたが、技術研究本部長や防衛庁長官が国産開発の重要性を主張した結果、国内での超音速機開発を目指す方針が固まります。開発には時間がかかると見込まれたため、一時的に海外機を「つなぎ」として導入する計画もありましたが、F-4EJ戦闘機の導入決定により、その予算がF-4EJに転用され、直接国産開発へと舵が切られました。

開発

国産超音速練習機計画は1967年度に基本設計予算が認められ、XT-2という識別符号が与えられました。三菱重工業が主契約企業となり、他のメーカーも協力する体制で開発が進められました。開発チームには、戦後の日本の航空機開発を担う若い技術者たちが集結。綿密な設計作業を経て、1971年4月には試作1号機が完成（ロールアウト）。同年7月には初飛行に成功し、わずか30回目の飛行で音速を突破しました。その後も試作機による技術・実用試験が重ねられ、1974年7月に部隊での使用が認められました。

設計

T-2は、「F-86Fの後継として戦技訓練を可能とし、支援戦闘能力も持ちうる超音速練習機」というコンセプトで設計されました。その設計思想は、F-104のような「余剰推力を利用した超音速機動」を受け継ぎつつ、F-104の課題であったT型尾翼の問題や遷音速域での性能不足を克服することを目指しました。

このため、主翼は面積が小さく、翼面荷重はF-104に近い値となりました。主翼はクリップトデルタ翼形状で、下反角が付けられています。特徴的なのは、三菱重工独自の全スポイラー方式による横操縦で、補助翼がない代わりにスポイラー（スポイレロン）を使用し、幅広い速度域での良好な操縦性を実現しました。水平尾翼は全遊動式で、低速時の方向安定性向上のため胴体後部にベントラルフィンが追加されています。胴体は超音速エリアルールを考慮した設計で、燃料タンクが胴体内に収められたこともあり、抵抗削減が重要な課題となりました。

コクピットは訓練生が前、教官が後ろに搭乗するタンデム複座で、後席は前席より高くなっています。射出座席はゼロ高度・ゼロ速度での脱出が可能なタイプを採用。コスト削減のため、一部の部品はF-104J/DJと共通化されています。

エンジン

T-2のエンジン選定においては、いくつかの候補が検討された結果、ロールス・ロイスとチュルボメカが共同開発したアドーア（Adour）の双発配置が採択されました。アドーアは、SEPECATジャギュア攻撃機のために開発されたアフターバーナー付き低バイパス比ターボファンエンジンです。T-2はジャギュアに続く2番目の搭載機となり、石川島播磨重工業がアドーアMk.102をライセンス生産したTF40-IHI-801エンジンを搭載しました。

アドーアは比較的新しいエンジンであり、開発初期には改良や設計変更が頻繁に行われ、運用中に様々な技術的課題に直面しました。石川島播磨重工業はロールス・ロイスと連携しながら、日本独自の改善策を講じてこれらの問題を解決し、生産性の向上も図りました。これらの経験は、後にF-15JやF-2といった主力戦闘機のエンジンをライセンス生産する上での貴重な財産となりました。

装備

T-2は大きく分けて、戦闘操縦基礎課程で使用される「前期型」と、戦技訓練に使用される「後期型」があります。後期型は固定武装としてJM61 20mm機関砲を搭載し、国産初の火器管制レーダーであるJ/AWG-11や光学照準器を備えています。これにより、空中戦技訓練だけでなく、対地射爆撃訓練にも対応可能でした。ただし、訓練カリキュラムの変更に伴い、訓練弾ディスペンサーの使用は短期間で終了しました。前期型はこれらの装備を搭載しておらず、外見上は機関砲口部が膨らみのみとなっているのが特徴です。重量バランスを取るため、装備品の代わりにダミーウェイトが搭載されています。

運用史

XT-2の初飛行成功を受け、1972年度から量産計画が開始されましたが、経済情勢の影響で発注は遅延し、最初の量産機が納入されたのは1975年でした。その後生産は進み、1988年までに全96機が製造されました。

T-2の訓練部隊は松島基地に編成され、1976年から本格的な教育が始まりました。T-2は従来の練習機課程に続く戦闘操縦課程として位置づけられ、多くの戦闘機パイロットがT-2で技量を磨き、F-104やF-4EJ、F-1といった戦闘機部隊へ巣立っていきました。また、F-1支援戦闘機部隊にも連絡や訓練支援用に少数が配備されました。

1980年代に入ると、T-2はその高い運動性能を買われ、仮想敵機（アグレッサー）部隊である飛行教導隊や、戦技研究班としてブルーインパルスにも使用されました。特にブルーインパルスの機体塗装は一般公募で選ばれたデザインが採用され、華やかな展示飛行で多くの航空ファンを魅了しました。しかし、運用期間中には訓練中や展示飛行中に複数回の墜落事故も発生し、尊い命が失われる痛ましい出来事もありました。

老朽化に伴い、2001年頃からT-2の用途廃止が進められ、後継機のF-2Bへの機種転換が進みました。2004年には松島基地でのT-2による教育課程が終了し、約30万時間、1,450人以上の戦闘機パイロット育成に貢献したT-2は、その役割を終えました。最終的に飛行開発実験団で運用されていた機体も2006年に退役し、T-2はその歴史に幕を閉じました。

派生型

T-2は、その開発途上から支援戦闘機への発展が構想されており、試作機（T-2特別仕様機、呼称FS-T2改）を経て、単座化・装備を強化したF-1支援戦闘機として77機が量産されました。

また、技術研究本部では将来の戦闘機開発に備え、1970年代後半からCCV（Control Configured Vehicle、運動能力向上機）技術の研究に着手しており、T-2試作3号機を改造したT-2CCV研究機を開発しました。この機体は国産初のデジタル式フライ・バイ・ワイヤ（FBW）システムを搭載し、機首にカナード翼を持つ独特の外観でした。飛行試験ではFBWシステムの調整の難しさから危うい場面もありましたが、その開発と試験で得られた成果は、後にF-2戦闘機の飛行制御システムの独自開発に大きく貢献しました。

諸元・性能 (量産型)

乗員: 2名
全長: 17.85 m
全高: 4.39 m
翼幅: 7.88 m
正規全備重量: 9.45 t
エンジン: RR/石川島播磨重工業 TF40-IHI-801A ターボファンエンジン × 2基 (推力 各3,240 kg)
最大速度: マッハ1.6 (高度 約11,000m)
実用上昇限度: 15,240 m
武装: JM61 20mm機関砲 (後期型のみ)
アビオニクス: J/AWG-11火器管制レーダー (後期型のみ)

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