THE SOUNDGRAPHY

カシオペア『The Soundgraphy』：軌跡を刻んだサウンドの肖像

日本のフュージョンシーンを牽引してきたバンド、カシオペアが1984年に発表した『The Soundgraphy』は、彼らにとって通算11枚目にあたるアルバムであり、同時にその歴史において初めてリリースされたベストアルバムという重要な位置づけを持つ作品です。

この時期のカシオペアは、野呂一生（エレクトリックギター）、向谷実（キーボード）、櫻井哲夫（ベース）、神保彰（ドラム）という、後に「黄金期」とも称される鉄壁のラインナップを誇っていました。彼らが織りなす緻密かつダイナミックな演奏は、国内はもとより海外でも高い評価を獲得しており、本作はまさにその充実した活動の成果を総括するものとなりました。

『The Soundgraphy』が単なる既発曲の寄せ集めではない、ベストアルバムとして異彩を放つ要因の一つに、参加ミュージシャンの豪華さが挙げられます。当時のレギュラーメンバーに加えて、ワールドクラスのプレイヤーたちがゲストとして迎えられました。その顔ぶれは以下の通りです。

ハーヴィー・メイソン（パーカッション、ドラム）
ポリニョ・ダ・コスタ（パーカッション）
ボブ・ジェームス（キーボード）
リー・リトナー（ギター）
ドン・グルーシン（キーボード）
ネイザン・イースト（ベース）
* キキ・ディー（ボーカル）

ジャズやフュージョン界の巨匠たちが名を連ねるゲスト陣の参加は、カシオペアのサウンドに新たな奥行きと色彩を加えました。彼らとの共演により、既発表の楽曲にもフレッシュな息吹が吹き込まれ、オリジナルの魅力がさらに際立っています。

アルバムの制作には、国内外の優秀なスタッフが携わっています。プロデューサーには宮住俊介、ハーヴィー・メイソン、リチャード・マナリング、そしてリーダーの野呂一生が名を連ね、サウンドメイキングを指揮。エンジニアはNorio Yoshizawa、Peter Chaikin、リチャード・マナリングが担当し、高品質な録音を実現しました。アートワークも特筆すべき点であり、アート・ディレクターのKaoru Watanabeのもと、カバー・イラストレーションは internationally renowned illustrator 安西水丸氏が手掛けています。彼のシンプルながら印象的なイラストは、アルバムのジャケットとしても非常に認知度が高いものとなっています。

初のベストアルバムである『The Soundgraphy』は、当時のカシオペアの代表曲を網羅することで、バンドの軌跡を分かりやすく提示しました。これにより、既存のファンはもちろんのこと、カシオペアの音楽に初めて触れるリスナーにとっても、彼らの多様な音楽性と高い演奏技術を知る絶好の機会を提供しました。また、豪華ゲストとの共演は、バンドが既に国際的なレベルに到達していたことの証でもあります。

近年では、2016年には鈴木浩二氏によるリマスタリングが施されたハイレゾ版もリリースされており、時代を超えてこのアルバムが多くの音楽ファンに聴かれ続けていることが伺えます。

『The Soundgraphy』は、カシオペアの豊かな音楽遺産を振り返るとともに、彼らの尽きることのない創造性と、国内外の素晴らしいミュージシャンとの交流によって生まれた化学反応を体感できる、バンドの歴史において欠かせない作品と言えるでしょう。そのサウンドは、まさに「音の肖像」として、今なお鮮やかに輝きを放っています。

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