TOI-270

TOI-270は、地球からおよそ73光年の距離に位置する恒星です。がか座の領域にあり、スペクトル分類ではM型に区分されます。M型星は太陽（G型星）よりも小さく、表面温度が低い赤色の星であり、TOI-270の質量や半径は太陽の約40%と推定されています。この種の星の中には、活動が活発で強烈なフレアを放出するものも少なくありませんが、TOI-270からは目立ったフレア活動は観測されておらず、比較的穏やかな恒星である可能性が示唆されています。恒星の安定性は、周囲の惑星環境に大きな影響を与えるため、これは重要な特徴と言えます。

この恒星の周囲には、太陽系外惑星が存在することが確認されています。2019年7月、NASAのトランジット系外惑星探査衛星TESSによる観測データの分析から、TOI-270の周りを公転する3つの惑星が発見されました。M型星のすぐ近くで、地球の1.5倍から2倍程度の大きさを持つ惑星が見つかるのは、これまでの観測例からすると比較的珍しいケースです。そのため、TOI-270の惑星系は、惑星がどのように形成され、進化していくのかという宇宙の基本的な問いに対し、新たな洞察をもたらす可能性を秘めていると考えられています。

発見された3つの惑星は、主星に近い軌道から順にTOI-270 b、TOI-270 c、TOI-270 dと名付けられています。それぞれの惑星は異なる特徴を持っています。

TOI-270 b: 3つの惑星の中で最も内側を公転しており、その周期は約3.4日と非常に短いです。大きさは地球半径の約1.25倍と推定されており、地球のような岩石でできた地球型惑星であると考えられています。主星に近すぎるため、平衡温度は計算上254℃にも達し、生命が存在するには非常に高温な環境と予測されます。
TOI-270 c: bの外側を巡る惑星で、公転周期は約5.7日です。この惑星は地球の約2.4倍の大きさを持つ「ミニ・ネプチューン」型に分類されます。これは、地球より大きく、天王星や海王星より小さいサイズで、厚い大気を持つガス惑星や、岩石と氷が混ざった惑星である可能性を示唆しています。平衡温度は約150℃と見積もられています。
* TOI-270 d: 惑星系の中で最も外側に見つかった惑星で、公転周期は約11.4日です。大きさは地球の約2.1倍と推定され、cと同様にミニ・ネプチューン型と考えられています。平衡温度は計算上67℃と他の2つの惑星に比べて低い値であり、理論上はより穏やかな環境を持つ可能性があります。しかし、温室効果をもたらす濃い大気が存在する場合、実際の温度は計算値よりも大幅に高くなることもあり得ます。

これらの3つの惑星は、主星に非常に近い軌道を公転しているため、潮汐力によって自転周期と公転周期が同期し、常に同じ面を主星に向けている「潮汐固定」の状態にある可能性が高いと考えられています。

TOI-270惑星系は、今後の天文学研究において重要なターゲットの一つとされています。特に、高性能なジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡（JWST）による詳細な観測が期待されています。JWSTはこれらの惑星の大気の組成や構造を精密に分析することが可能であり、惑星がどのように形成されたのか、どのような物質からできているのか、といった情報を得る手がかりとなります。大気の分析は、生命の存在を示すバイオシグネチャーの探索にも繋がる可能性を秘めています。

さらに、発見されている惑星dよりも外側に、まだ知られていない惑星が存在する可能性も指摘されています。もしそのような惑星が、主星から適度な距離に位置し、液体の水が存在できる「ハビタブルゾーン」内にあれば、生命が居住可能な環境を持つ可能性も考えられます。TOI-270が比較的安定した恒星であるという特徴も、こうした可能性を後押しする要因となり得ます。

TOI-270とその惑星系は、M型星の周囲に存在する惑星系の多様性を理解し、地球型惑星やミニ・ネプチューン型の惑星がどのように形成されるのか、そして生命を宿す環境が宇宙にどれだけ存在するのかを探求するための貴重な研究対象として、今後の観測結果が注目されています。

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