UDFj-39546284
UDFj-39546284は、ろ座の方向に位置する、宇宙の極めて遠方にある天体です。初期の観測で、当時知られていた中で最も遠い天体の一つ、あるいは最も遠い天体である可能性が示唆されました。遠方の天体を観測することは、宇宙のより古い時代の姿を捉えることを意味します。
この天体は、観測史上初めて赤方偏移の値が10を超える天体として注目を集めました。当初、ハッブル宇宙望遠鏡による観測データから計算された赤方偏移は約10.3 ± 0.8でした。この値に基づくと、UDFj-39546284は地球から約316億7400万光年の距離（宇宙の膨張を考慮した共動距離）にあると推定されました。これは、宇宙が誕生してからわずか約4億5100万年後、つまり宇宙の全年齢の約3.3%にあたる時代の光を見ていることになります。この距離は、それまで最遠の記録を持っていた天体UDFy-38135539（赤方偏移z=8.55、約300億3200万光年）よりも約16億4200万光年遠く、約2億年以上古い時代の天体でした。
しかし、2012年にMACS0647-JDという天体が発見され、その距離が約319億3900万光年と推定されたことで、UDFj-39546284は最遠の座を譲ることになります。ところが、MACS0647-JDの発見からほどなく、ハッブル・エクストリーム・ディープ・フィールド（HUDF）の追加観測データが分析され、UDFj-39546284の赤方偏移が約11.9である可能性が新たに示されました。もしこの値が正しければ、見かけの距離は約134億5100万光年、実際の距離は約326億6000万光年となり、再び最も遠い天体となる可能性が出てきました。
この赤方偏移の値の変動は、遠方天体の観測の難しさを物語っています。当初のz=10.3という値は、ハッブル宇宙望遠鏡の波長1600ナノメートルのフィルターを用いた観測から得られたものでした。しかし、新たに波長1400ナノメートルのフィルターで観測した際に、UDFj-39546284が撮影範囲の明るさに写らなかったことから、赤方偏移がさらに大きい可能性があると推測されたのです。極端な性質を持つものの、赤方偏移が2～3程度の比較的近距離にある特殊な輝線銀河である可能性も完全に排除はできませんでしたが、その場合は未知のタイプの銀河となるため、やはり極めて遠方にある銀河である可能性が高いと考えられました。ただし、この時点での距離推定の確かさとしてはMACS0647-JDの方が信頼性が高いとされていました。どちらが真に遠い天体であるか、そしてその詳細な性質を確定するためには、高い観測能力を持つジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡（JWST）による観測が待たれていました。
そして2022年、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の観測装置NIRSpecを用いた分光観測により、UDFj-39546284の赤方偏移はz=11.58であることが確認されました。これは、当初の推定値よりも大きく、初期の宇宙に存在していた天体であることを裏付ける結果です。
UDFj-39546284の物理的な性質についても、興味深い点がいくつかあります。その直径は約1000光年と推定されており、これは私たちの銀河系（天の川銀河）のわずか100分の1程度の大きさです。また、質量は銀河系の1万分の1程度と考えられています。これは、宇宙が誕生して間もない頃の銀河が、現在の巨大な銀河に比べて非常に小さかったことを示唆しています。現在の銀河を含む、宇宙に存在する多くの銀河の最も初期の形態を捉えていると考えられますが、ライマンα線による分光観測が行われていなかったため、発見当初は銀河であるかどうかの確定には至っていませんでした（現在はz=11.58が確定し、銀河である可能性が高い）。非常に複雑な形状をしているのも特徴です。これは、宇宙がまだ小さく密度が高かった時代に、他の天体との活発な重力相互作用によって形が変形した結果ではないかと考えられています。私たちが一般的に想像するような渦巻き構造を持つような大きさではないとされています。
UDFj-39546284は、観測される光が赤方偏移によって大きく波長が引き伸ばされているため、非常に暗い赤色に見えます。しかし、天体自身が光を放出した時点では、その色は実際には青色であったと考えられています。
初期宇宙の銀河では星形成活動が非常に活発であったと考えられていますが、UDFj-39546284の観測から、その時代の約1億7000万年後に存在する銀河と比較して、銀河内部で星が作られる速度が約10倍も加速していたことが示唆されています。
地球から見たUDFj-39546284の見かけの距離は約133億6900万光年ですが、宇宙の膨張によって光が伝わる間に空間が引き伸ばされるため、現在の実際の距離（共動距離）は約316億7400万光年にもなります（z=10.3時点の推定に基づく）。地球からの後退速度は、見かけ上は光速の98.5%にあたる約29万5133 km/sですが、空間の膨張も考慮すると、実際の速度は約65万2330 km/sにも達すると計算されます。これらの距離や速度の値には統計的なブレが含まれる可能性があり、さらなる観測による確定が待たれていました。
UDFj-39546284から届く光は、宇宙空間を伝播する間に赤方偏移によって波長が大きく引き伸ばされ、観測可能な波長帯では赤外線として捉えられます。しかし、この天体が光を放出した際の実際の波長は、よりエネルギーの高い紫外線であったと考えられています。UDFj-39546284が非常に小さく見える理由の一つとして、天体から放出された強い紫外線が、周囲に存在する中性水素ガスを電離させ、光子がまっすぐ進みにくくなることで、放射量が実際よりも少なく観測されるためではないかという説があります。これは、宇宙が「晴れ上がり」を迎えて中性水素が満ちた後の「暗黒時代」において、初期の恒星や銀河からの紫外線によって水素が再び電離される「宇宙の再電離」という重要な時代の様相を理解する手がかりとなるかもしれません。
UDFj-39546284は、ハッブル宇宙望遠鏡に搭載された広域カメラ「WFC3」が、2009年から2010年にかけて合計約87.2時間の露出時間で撮影した「HUDF09」と呼ばれる領域の画像の中から発見されました。その距離は、赤方偏移の値から推定されましたが、天体があまりにも暗く、詳細なスペクトル分析が困難だったため、発見当初は距離や天体の種類（銀河かどうか）の確定には至っていませんでした。このため、より強力な観測能力を持つジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡による観測が期待されていました。JWSTによるz=11.58の確認は、この期待に応えるものでした。
UDFj-39546284のような、赤方偏移z=10を超える極めて遠方の天体は、GN-z11 (z=11.09)、MACS0647-JD (z=10.7) など、現在でもごく少数しか知られていません。これほど遠い初期宇宙に存在する天体の詳細な性質については、まだ多くの謎に包まれています。UDFj-39546284の発見とその後の詳細な観測は、宇宙の夜明けとも言える時代、最初の星や銀河がどのように誕生し、進化していったのかを探る上で、非常に重要な手がかりを与えてくれるものです。
この天体は、観測史上初めて赤方偏移の値が10を超える天体として注目を集めました。当初、ハッブル宇宙望遠鏡による観測データから計算された赤方偏移は約10.3 ± 0.8でした。この値に基づくと、UDFj-39546284は地球から約316億7400万光年の距離（宇宙の膨張を考慮した共動距離）にあると推定されました。これは、宇宙が誕生してからわずか約4億5100万年後、つまり宇宙の全年齢の約3.3%にあたる時代の光を見ていることになります。この距離は、それまで最遠の記録を持っていた天体UDFy-38135539（赤方偏移z=8.55、約300億3200万光年）よりも約16億4200万光年遠く、約2億年以上古い時代の天体でした。
しかし、2012年にMACS0647-JDという天体が発見され、その距離が約319億3900万光年と推定されたことで、UDFj-39546284は最遠の座を譲ることになります。ところが、MACS0647-JDの発見からほどなく、ハッブル・エクストリーム・ディープ・フィールド（HUDF）の追加観測データが分析され、UDFj-39546284の赤方偏移が約11.9である可能性が新たに示されました。もしこの値が正しければ、見かけの距離は約134億5100万光年、実際の距離は約326億6000万光年となり、再び最も遠い天体となる可能性が出てきました。
この赤方偏移の値の変動は、遠方天体の観測の難しさを物語っています。当初のz=10.3という値は、ハッブル宇宙望遠鏡の波長1600ナノメートルのフィルターを用いた観測から得られたものでした。しかし、新たに波長1400ナノメートルのフィルターで観測した際に、UDFj-39546284が撮影範囲の明るさに写らなかったことから、赤方偏移がさらに大きい可能性があると推測されたのです。極端な性質を持つものの、赤方偏移が2～3程度の比較的近距離にある特殊な輝線銀河である可能性も完全に排除はできませんでしたが、その場合は未知のタイプの銀河となるため、やはり極めて遠方にある銀河である可能性が高いと考えられました。ただし、この時点での距離推定の確かさとしてはMACS0647-JDの方が信頼性が高いとされていました。どちらが真に遠い天体であるか、そしてその詳細な性質を確定するためには、高い観測能力を持つジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡（JWST）による観測が待たれていました。
そして2022年、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の観測装置NIRSpecを用いた分光観測により、UDFj-39546284の赤方偏移はz=11.58であることが確認されました。これは、当初の推定値よりも大きく、初期の宇宙に存在していた天体であることを裏付ける結果です。
UDFj-39546284の物理的な性質についても、興味深い点がいくつかあります。その直径は約1000光年と推定されており、これは私たちの銀河系（天の川銀河）のわずか100分の1程度の大きさです。また、質量は銀河系の1万分の1程度と考えられています。これは、宇宙が誕生して間もない頃の銀河が、現在の巨大な銀河に比べて非常に小さかったことを示唆しています。現在の銀河を含む、宇宙に存在する多くの銀河の最も初期の形態を捉えていると考えられますが、ライマンα線による分光観測が行われていなかったため、発見当初は銀河であるかどうかの確定には至っていませんでした（現在はz=11.58が確定し、銀河である可能性が高い）。非常に複雑な形状をしているのも特徴です。これは、宇宙がまだ小さく密度が高かった時代に、他の天体との活発な重力相互作用によって形が変形した結果ではないかと考えられています。私たちが一般的に想像するような渦巻き構造を持つような大きさではないとされています。
UDFj-39546284は、観測される光が赤方偏移によって大きく波長が引き伸ばされているため、非常に暗い赤色に見えます。しかし、天体自身が光を放出した時点では、その色は実際には青色であったと考えられています。
初期宇宙の銀河では星形成活動が非常に活発であったと考えられていますが、UDFj-39546284の観測から、その時代の約1億7000万年後に存在する銀河と比較して、銀河内部で星が作られる速度が約10倍も加速していたことが示唆されています。
地球から見たUDFj-39546284の見かけの距離は約133億6900万光年ですが、宇宙の膨張によって光が伝わる間に空間が引き伸ばされるため、現在の実際の距離（共動距離）は約316億7400万光年にもなります（z=10.3時点の推定に基づく）。地球からの後退速度は、見かけ上は光速の98.5%にあたる約29万5133 km/sですが、空間の膨張も考慮すると、実際の速度は約65万2330 km/sにも達すると計算されます。これらの距離や速度の値には統計的なブレが含まれる可能性があり、さらなる観測による確定が待たれていました。
UDFj-39546284から届く光は、宇宙空間を伝播する間に赤方偏移によって波長が大きく引き伸ばされ、観測可能な波長帯では赤外線として捉えられます。しかし、この天体が光を放出した際の実際の波長は、よりエネルギーの高い紫外線であったと考えられています。UDFj-39546284が非常に小さく見える理由の一つとして、天体から放出された強い紫外線が、周囲に存在する中性水素ガスを電離させ、光子がまっすぐ進みにくくなることで、放射量が実際よりも少なく観測されるためではないかという説があります。これは、宇宙が「晴れ上がり」を迎えて中性水素が満ちた後の「暗黒時代」において、初期の恒星や銀河からの紫外線によって水素が再び電離される「宇宙の再電離」という重要な時代の様相を理解する手がかりとなるかもしれません。
UDFj-39546284は、ハッブル宇宙望遠鏡に搭載された広域カメラ「WFC3」が、2009年から2010年にかけて合計約87.2時間の露出時間で撮影した「HUDF09」と呼ばれる領域の画像の中から発見されました。その距離は、赤方偏移の値から推定されましたが、天体があまりにも暗く、詳細なスペクトル分析が困難だったため、発見当初は距離や天体の種類（銀河かどうか）の確定には至っていませんでした。このため、より強力な観測能力を持つジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡による観測が期待されていました。JWSTによるz=11.58の確認は、この期待に応えるものでした。
UDFj-39546284のような、赤方偏移z=10を超える極めて遠方の天体は、GN-z11 (z=11.09)、MACS0647-JD (z=10.7) など、現在でもごく少数しか知られていません。これほど遠い初期宇宙に存在する天体の詳細な性質については、まだ多くの謎に包まれています。UDFj-39546284の発見とその後の詳細な観測は、宇宙の夜明けとも言える時代、最初の星や銀河がどのように誕生し、進化していったのかを探る上で、非常に重要な手がかりを与えてくれるものです。
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