V型小惑星

V型小惑星（Vestoid）

V型小惑星は、小惑星のスペクトル分類の一つであり、準惑星ベスタと非常に類似したスペクトル特性を示す小惑星群を指します。この分類において、最も大きく、その名前の由来となっているのが準惑星ベスタです。小惑星帯に存在する小惑星のうち、およそ6%がV型小惑星であると推定されています。

起源と分布

V型小惑星の大部分は、ベスタ自身とともに「ベスタ族」と呼ばれる小惑星ファミリーに属しています。ベスタ族は、類似した軌道要素を持つ小惑星が集まって形成されたグループです。ベスタ族に属さない場合でも、多くのV型小惑星はベスタ族の近く、特に軌道長半径が2.18天文単位から2.50天文単位の間にある、いわゆる3:1カークウッドの隙間と呼ばれる特定の軌道領域に位置しています。

こうしたV型小惑星の分布は、その大多数が、過去にベスタに発生した一度の巨大な衝突によってベスタの地殻から飛散した破片であるという説を強く支持しています。この大衝突の痕跡としては、ベスタの南半球に存在する巨大な衝突クレーターが有力な候補として挙げられています。

一方で、ベスタ族に属さないV型小惑星も存在します。これらには、火星横断小惑星（例：ブライユ）や地球近傍天体（例：ニュクス）なども含まれます。また、以下のようなベスタ族の近傍に位置するものの、ベスタ族には分類されないV型小惑星も確認されています。

ルンディア（フローラ族の軌道内）
エリザ
1459 Magnya（小惑星帯外側の軌道にあり、ベスタ起源とするには遠すぎる可能性）
2113 Ehrdni
2442 Corbett
2566 Kirghizia
2579 Spartacus
2640 Hallstrom
プリンキピア
2704 Julian Loewe
2763 Jeans
2795 Lepage
2851 Harbin
2912 Lapalma
インシデンティア
ペルチャー
3869 Norton
キーテジ
4278 Harvey
4434 Nikulin
4796 Lewis
5379 Abehiroshi

これらの多様な分布は、ベスタ起源説の主要部分を支えつつも、一部には異なる起源を持つ可能性のあるV型小惑星が存在することを示唆しています。

特徴と組成

V型小惑星は、観測上は中程度の明るさを持つ天体です。その構成物質は、岩石や鉄、普通コンドライトなどが主であり、この点では小惑星帯で最も一般的な分類であるS型小惑星と類似した部分があります。

しかし、V型小惑星の組成上の特徴として、S型小惑星に比べて比較的多くの輝石を含む傾向がある点が挙げられます。この組成の違いが、V型小惑星独自のスペクトル特性を生み出しています。

スペクトル特性

V型小惑星のスペクトルは非常に特徴的です。電磁スペクトルを分析すると、0.75マイクロメートル付近に非常に強い吸収線を示し、さらに1マイクロメートル付近にも別の吸収線が見られます。また、0.7マイクロメートルよりも短い波長側では、非常に赤い色合いを帯びています。

特に、可視光から近赤外線にかけての波長領域におけるスペクトルは、準惑星ベスタ自身を含め、地球上で発見される特定の隕石のスペクトルと驚くほどよく一致します。これらの隕石は、ハワード隕石（Howardites）、ユークライト隕石（Eucrites）、ダイオジェナイト隕石（Diogenites）の頭文字をとってHED隕石と呼ばれており、これらは玄武岩質のエイコンドライトに分類される石質隕石です。このスペクトルの一致は、V型小惑星やベスタ族がHED隕石の母天体であるベスタから来たという説の強力な証拠となっています。

J型小惑星

V型小惑星に近縁な分類として、J型小惑星が存在します。J型小惑星は、特に1マイクロメートル付近に強い吸収線を示し、これはダイオジェナイトと呼ばれる種類の隕石のスペクトルによく似ています。このことから、J型小惑星はベスタの比較的地殻の深い層やマントルに近い部分から飛散した物質に由来すると考えられています。J型小惑星はV型小惑星の一部として扱われることもありますが、より詳細な組成の違いを示すサブタイプとして区別されることもあります。

V型小惑星の研究は、準惑星ベスタの地質構造や進化、そして初期太陽系の衝突史を理解する上で非常に重要な情報を提供しています。

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