VASP航空

VASP航空：ブラジルの空を彩った航空会社の盛衰

VASP航空（Viação Aérea São Paulo S/A）は、かつてブラジルのサンパウロ市を拠点としていた航空会社です。1933年に州立航空会社として設立され、ブラジル経済の発展と共に成長を遂げましたが、2005年に運航を停止し、その後破産宣告を受けました。ここでは、VASP航空の歴史、拡大、運航縮小、そして破産に至るまでの経緯を詳しく解説します。

黎明期：州立航空会社としての誕生

VASP航空は、1933年11月3日にサンパウロ州の州立航空会社として、コンゴニアス国際空港を拠点に運航を開始しました。当時のブラジルは経済成長の初期段階にあり、VASP航空はサンパウロ州の航空輸送を担う重要な役割を担っていました。第二次世界大戦後には、ヴァリグ・ブラジル航空やレアル航空、クルゼイロ航空などと並び、ブラジル有数の航空会社へと成長しました。

拡大期：国内線、国際線への進出

1960年代に入ると、VASP航空はダグラスDC-4などの大型機を導入し、路線網を拡大しました。1965年には、ヴァリグ・ブラジル航空に次ぐ国内第2位の航空会社となります。また、日本の日本航空機製造YS-11型機を導入し、サンパウロ - リオデジャネイロ線やサンパウロ - クリチバなどの国内幹線に投入しました。

1970年代には、ボーイング727-200やエアバスA300といったジェット機を導入し、国内線の高需要路線に投入しました。これらの機材を使用して、アルゼンチン、ボリビア、ウルグアイなどの近隣諸国への近距離国際線も運航しました。これにより、VASP航空はブラジル国内だけでなく、南米地域においても存在感を示すようになります。

民営化とさらなる拡大：長距離国際線への挑戦

1990年に民営化されたVASP航空は、マクドネル・ダグラスMD-11を導入し、ロサンゼルスやマイアミなどのアメリカ路線に参入しました。さらに、サンパウロからロサンゼルス経由で関西国際空港への乗り入れを開始するなど、長距離国際路線への積極的な進出を図りました。また、一時期はボリビアの大手航空会社LAB航空に資本参加し、機体にVASPと同じ塗装を施すなど、国際的な連携も模索しました。

衰退期：競争激化と経営悪化

しかし、民営化後の無理な拡大路線は、国内の競争激化と相まって、VASP航空の経営状況を悪化させました。1990年代後半には、日本路線などの長距離路線の運航を大半停止せざるを得なくなります。2001年9月のアメリカ同時多発テロ事件は、国内外路線の乗客数を激減させ、VASP航空の経営にさらなる打撃を与えました。2002年には、全ての国際線を廃止し、国内路線に特化することで経営の安定化を図りましたが、状況は好転しませんでした。

終焉：運航停止、そして破産

ゴル航空やアビアンカ・ブラジル航空などの国内格安航空会社の参入による競争激化は、VASP航空の経営をさらに圧迫しました。2005年初頭、VASP航空はついに全便の運航を停止しました。サンパウロ地裁が会社再建案を命じましたが、提示されることはありませんでした。その後、経営建て直しを模索しましたが解決案は見つからず、2008年9月4日、サンパウロ会社更生裁判所により破産宣告が下されました。

VASP航空の破産は、5,000人の従業員に大きな影響を与えました。支給が約束された給与やボーナスが支払われず、経済的に困窮し、再就職も困難な状況に陥った従業員の中には、ノイローゼとなり自殺する者も出ました。また、破産時にコンゴニアス国際空港に放置されたままになっていたボーイング737-300やボーイング727-200、エアバスA300などの機材は、2013年に解体・撤去されました。

VASP航空は、ブラジルの航空史において重要な役割を果たした航空会社でした。州立航空会社として誕生し、ブラジルの経済成長と共に発展しましたが、民営化後の経営戦略の失敗と競争激化により、その歴史に幕を閉じることとなりました。VASP航空の盛衰は、航空業界における競争の厳しさと、経営戦略の重要性を示す教訓として、記憶されるべきでしょう。

過去に運航した機材

ダグラス DC-3
ダグラス DC-4B
日本航空機製造 YS-11
ボーイング 727
ボーイング 737
エアバス A300
ダグラス DC-10
マクドネル・ダグラス MD-11

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