Vinci (ロケットエンジン)

ヴィンチ (Vinci): 次世代ロケットエンジンの解説

ヴィンチは、欧州宇宙機関（ESA）が開発を進めている高性能ロケットエンジンです。アリアン6ロケットの上段エンジンとして採用される予定で、宇宙輸送能力の向上に大きく貢献することが期待されています。ヴィンチの最大の特徴は、ヨーロッパのロケットエンジンとしては初の再着火機能を持つことです。

概要

ヴィンチは、エキスパンダーサイクルを採用したロケットエンジンであり、液体水素と液体酸素を推進剤として使用します。元々はアリアン5ロケットの新型上段エンジンとして開発がスタートしました。従来のHM7Bエンジン（アリアン5 ESC-Aで使用）とは異なり、ヴィンチは最大で5回までの再点火が可能です。また、ヨーロッパ初の本格的なエキスパンダーサイクルエンジンでもあります。

エキスパンダーサイクルエンジンは、ターボポンプを駆動するためのガス発生器を必要としません。これにより、燃料の消費効率が向上し、比推力が増加します。ヴィンチは、カーボンセラミック製の伸張式ノズルを採用しており、ノズルの末端の直径は2.15mに達します。しかし、打ち上げ前はノズルが最小限の長さに収納されており、上段切り離し後に展開することで、高い膨張比を実現し、真空状態での推進効率を高めます。上段の軽量化と推進効率の向上は、ペイロードの重量拡大に直接影響するため、ヴィンチの採用は非常に効果的です。エンジンの全長は、収納時には2.3mですが、伸張時には4.2mまで伸びます。

開発の経緯

ヴィンチの開発は、2003年にアリアン5 ECAの開発が予算上の問題で中断された後も、中止されることなく継続されました。2005年には、ESC-Bの開発が凍結されましたが、ヴィンチ計画は進められました。開発の初期段階では、2005年5月20日にLampoldshausenの施設で最初の燃焼試験が行われ、同年7月26日の2回目の試験では、フルパワーでの運転に成功しました。この試験では、最長60秒間の燃焼を達成しました。2005年11月には、合計9回の燃焼試験が実施され、試作2号機を用いた試験も行われました。

2006年12月22日、スネクマ（現：サフラン）は、Future Launcher Preparatory Program（FLPP）の一環として、ヴィンチエンジンの長時間燃焼試験と再着火試験を実施することを発表しました。2008年11月には、ESAの閣僚会議で開発契約が調印され、開発が本格的にスタートしました。最初の350秒間の燃焼試験は成功し、これは計画されている飛行時間の約半分に相当します。2007年8月1日には、真空状態を模擬した環境下での再着火試験にも成功しました。この試験では、最初の燃焼を40秒間行い、148秒後に2回目の点火を行い、80秒間燃焼させました。

2008年のESA閣僚会議では、2011年にESC-B上段にヴィンチエンジンを搭載することが決定されました。当初、最初の打ち上げは2015年から2016年頃に見込まれていました。2010年4月末には、ドイツ航空宇宙センター（DLR）が、Lampoldshausenの施設でヴィンチエンジンの試験を6ヶ月間にわたって実施することを発表しました。2010年5月27日には、最初の燃焼試験に成功しましたが、ヴィンチの最初の試験打ち上げは2016年または2017年まで期待できない状況でした。

その後、アリアン5ME計画がキャンセルされ、ヴィンチはアリアン6計画に引き継がれることになりました。

ヴィンチエンジンの開発は、欧州の宇宙開発における重要な一歩であり、アリアン6ロケットの性能向上に大きく貢献することが期待されています。再着火機能を持つ上段エンジンの開発は、将来の宇宙探査ミッションや衛星打ち上げの柔軟性を高める上で不可欠です。

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