X10 (工業規格)

X10：家庭用ホームオートメーション規格

X10は、家庭内の家電製品を遠隔操作するための国際的なオープン規格です。1975年にスコットランドのPico Electronics社によって開発され、電力線通信と無線通信の両方を用いた、歴史あるホームオートメーション技術として現在も世界中で利用されています。KNXやINSTEONといったより帯域幅の広い規格が登場していますが、家庭用用途においてはX10が最も広く普及しています。

電力線搬送通信

X10は、家庭の電力線をデジタルデータ伝送路として利用します。120kHzの搬送波を用いてデータを符号化し、50/60Hzの交流波形のゼロクロス時にバースト転送を行います。1回のゼロクロスで1ビットのデータを送信し、アドレスと制御命令からなるデータパケットをコントローラから機器へ送信します。機器は、電源のON/OFFといった単純な操作だけでなく、照明の明るさ調整やセンサーデータの読み取りなどにも対応可能です。

ただし、搬送波の周波数が比較的高いことから、変圧器などを通過できないという制約があります。また、ゼロクロスを利用したデータ送信のため、三相交流電源などでは正常に動作しない可能性があります。隣家への信号漏洩を防ぐため、コイルによるフィルタ回路を用いて信号を減衰させる対策がとられることもあります。

X10プロトコル

X10プロトコルのデータパケットは、4ビットのハウスコード、4ビットのユニットコード、4ビットのコマンドで構成されます。ハウスコードはA～Pの1文字で、ユニットコードは1～16の数字で表され、最大256（16×16）個の機器を個別に制御できます。同一ハウスコード内の複数のユニットコードを同時に指定することで、複数機器への同時制御も可能です。ハウスコードは家庭内で使い分けることができ、部屋単位での制御も実現できます。

電力線プロトコルの物理層

60Hz交流電源において、電圧波形のゼロクロス時点（約200μ秒間）に120kHzのパルスを乗せて'1'を、パルスを乗せないで'0'を表します。信頼性向上のため、メッセージは常に2回送信されます。データ転送速度は約20bpsと低速であるため、電源ON/OFFなどの簡単な制御用途に適しています。データフレームの先頭には、開始を示すスタートコード（1110）が付加されます。

無線プロトコル

X10では、ワイヤレスコントローラやリモコンなどのための無線プロトコルも定義されています。アメリカでは310MHz、ヨーロッパでは433MHz帯が使用され、電力線プロトコルとほぼ同じデータ形式が用いられます。無線受信機は、受信した無線パケットを電力線パケットに変換するブリッジとして機能します。

制御対象とモジュール

X10は様々な機器を制御できます。白熱電球には、トライアックを用いたlamp moduleやwall switchが使用され、多くの場合調光機能を備えています。その他の機器（蛍光灯、HIDランプ、家電製品など）には、リレーを用いたappliance moduleが使用されます。多くのモジュールはローカル制御に対応しており、モジュールスイッチがOFFでも機器のスイッチをONにすると、モジュールの電源もONになります。

コントローラ

X10コントローラは、単純なON/OFFスイッチから、タイマー機能や赤外線センサー、フォトレジスタなどを搭載した高度なものまで様々です。プログラム可能なコントローラや、コンピュータからの制御に対応したコントローラも存在します。

弱点と制限

X10は、北アメリカの単相3線式電源環境では、変圧器や漏電遮断器によって信号減衰が発生することがあります。また、ノイズの影響を受けやすく、誤動作を起こす可能性があります。複数のコントローラが同時に送信すると、信号衝突が発生し、受信側でデコードエラーが発生する可能性があります。さらに、プロトコルの低速性も課題です。

まとめ

X10は、シンプルで安価なホームオートメーション規格として、長年にわたり多くの人に利用されてきました。その手軽さと普及率の高さが最大のメリットですが、近年ではより高度な規格が登場しており、用途によってはそれらの規格の検討も必要です。本稿ではX10の概要を説明しましたが、より詳細な情報は参考文献を参照してください。

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