YF-100

YF-100は、中華人民共和国が開発・運用する液体燃料ロケットエンジンの一つです。特に、液体酸素（LOX）とケロシンを推進剤として使用するタイプの中で、現時点で中国が開発しているエンジンとしては最も強力な推力を持つクラスに位置づけられます。その高性能から、YF-120tという別称で呼ばれることもあります。このエンジンは、中国の次世代大型ロケットの推進システムを担う基幹エンジンとして、将来の宇宙輸送能力を飛躍的に向上させる上で極めて重要な役割を果たしています。

開発経緯

このエンジンの開発は、2000年代初頭に開始されました。開発の主体となったのは、中国航天科技集団公司（CAST）の傘下にある航天推進技術研究院（AALPT）です。開発は中国国家航天局（CNSA）の厳格な監督のもとで進められ、2005年からは多岐にわたる試験が本格的に実施されました。エンジンの基本的な機能や性能を確認するための地上燃焼試験は、2007年半ばに成功を収めています。そして、一連の開発作業は2012年に完了しました。

技術的特徴

技術的な特徴として、YF-100エンジンは、ロシアの優秀な液体燃料エンジンであるRD-120を原型として開発された経緯を持ちます。推進剤には高エネルギーを発揮する液体酸素とケロシンの組み合わせを採用しています。燃焼サイクルには、ターボポンプを効率的に駆動し、高い比推力を実現できる二段燃焼サイクルが用いられています。具体的な性能を見ると、海抜ゼロメートル地点での地上推力は約122トン（約1200 kN）に達し、大気圏外の真空状態ではさらに強力な約136.7トン（約1340 kN）の推力を発生させます。真空中での比推力は335秒という優れた値を達成しており、これは燃料1kgあたりが生み出す推進力が大きいことを意味します。また、ロケットの飛行中に姿勢を制御するため、エンジンの推力方向を変更するためのジンバル機構が装備されます。この機構は、推力を一方向にのみ傾けるタイプと、二方向に自由に傾けることが可能なタイプの2種類が計画されており、搭載されるロケットの構成や制御要求に応じて使い分けられます。

用途と採用ロケット

YF-100エンジンは、中国が今後の宇宙ミッションで主に使用することになる複数の新型ロケットに採用されています。その筆頭が、中国航天科技集団公司傘下の中国運載火箭技術研究院（CALT）が開発を主導した大型ロケット、長征5号です。長征5号では、その強力な補助ロケットブースターのエンジンとしてYF-100が搭載され、打ち上げ時の初期推力の大部分を担います。また、現在、有人宇宙飛行プログラムで主に使用されている長征2号F型の後継機として開発が進められている長征7号にも、YF-100は主要な推進システムとして採用されています。長征7号では、ロケットの1段目のメインエンジンとして、また補助ロケットブースターのエンジンとしても使用される予定です。さらに、中型ロケットである長征6号の第1段エンジンとしても、YF-100の増強型が使用される計画があります。YF-100エンジンを搭載した最初のロケット打ち上げは、当初2015年に予定されていました。これらの新型ロケットに共通して採用されるYF-100は、中国の宇宙ステーション計画や月・惑星探査など、今後の重要な宇宙開発プロジェクトを支える基盤となるエンジンです。

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