YF-115

YF-115

YF-115は、中華人民共和国が開発した液体燃料ロケットエンジンです。推進剤として液体酸素とケロシンを使用し、高効率を追求するため酸化剤リッチな二段燃焼サイクルを採用しています。

中国の国家的な宇宙開発計画である863計画においては、常に高い効率と推力を持ち、かつ環境負荷の低いロケットエンジン開発が重要な目標とされていました。しかし、高圧で推進剤を燃焼させる二段燃焼サイクル技術は高度であり、中国国内の産業基盤は1990年代初頭にロシアからRD-120エンジン（関連技術資料を含む可能性が高い）を導入するまで、この種の先進的なエンジンを十分に製造できる能力を持っていませんでした。

ロシアからの技術導入などを通じて蓄積された知見を背景に、2000年代に入ると、より大型のYF-100エンジンと並行してYF-115エンジンの開発が本格的に開始されました。このエンジンは、中国が開発を進める次世代の主力ロケットシリーズである長征5号、長征6号、そして長征7号の動力として構想されました。

開発作業は主に西安航天推進開発院によって主導され、中国国家航天局（CNSA）の監督下で進められました。エンジンの地上燃焼試験は2005年には開始されており、技術的な検証が重ねられました。そして、開発における重要なマイルストーンとして、2012年初頭にはエンジンシステム全体の真空環境下での燃焼試験に成功しています。

YF-115の特筆すべき点は、それが中国で初めて開発・実用化された二段燃焼サイクル方式の上段用ロケットエンジンであるという点です。上段エンジンは、ペイロードを最終軌道に乗せるための重要な役割を担い、限られた重量と体積の中で可能な限り高い比推力（効率）が求められます。二段燃焼サイクルは、ターボポンプを駆動した後の燃焼ガスを主燃焼室で再燃焼させることで、非常に高い効率を実現できる技術であり、これを上段エンジンに適用したことは、中国のロケット技術における大きな進歩を示しています。

YF-115エンジンは、中国の次世代中軽量級運搬ロケットである長征6号および長征7号の上段エンジンとして使用されることが決定しています。

具体的な搭載形態としては、長征6号ロケットの上段には、推力方向を制御可能なジンバル装架式のYF-115が1基搭載される予定です。一方、より大型の長征7号ロケットの上段には、合計4基のYF-115エンジンが搭載される計画です。このうち、2基のエンジンは固定式で姿勢制御を補助し、残りの2基がジンバル式として主推力と姿勢制御の役割を担う構成となる予定です。

YF-115の開発と実用化は、中国が液体燃料ロケット技術、特に高効率な二段燃焼サイクルの分野で国際的な水準に到達しつつあることを示す重要な成果と言えます。これにより、より多様な軌道へのペイロード投入能力や、環境性能の向上が期待されます。

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