YORP (小惑星)

小惑星 YORP

小惑星 YORP（ヨープ）は、アポロ群に分類される地球近傍小惑星の一つです。地球に対する準衛星と見なされることもありますが、実際には地球の重力に永続的に捕らわれているわけではなく、太陽の周りを独自の軌道で公転しています。この天体は、2000年8月3日にリンカーン地球近傍小惑星探査（LINEAR）計画によって発見されました。

軌道の性質

YORPの軌道は、地球の軌道と非常に似ています。太陽からの平均距離を示す軌道長半径は1.006天文単位（AU）であり、これは地球とほぼ同じ値です。公転周期も368.6日と、地球の約365.25日と比べてわずかに長い程度です。しかし、軌道離心率が0.2300と比較的大きいため、その軌道は楕円形に歪んでいます。太陽に最も近づく近日点では0.775AUまで接近し、これは金星の軌道にほぼ接する距離にあたります。一方、最も遠ざかる遠日点は1.238AUで、これは地球軌道と火星軌道の中間付近に位置します。

軌道傾斜角は1.600度と、太陽系の惑星の軌道面（黄道面）に対してほとんど傾いていないため、YORPは金星や地球といった内惑星と頻繁に接近する特徴を持ちます。特に地球軌道との最小交差距離はわずか5万8000kmに過ぎず、これは月までの距離の約7分の1以下という非常に近い距離です。

1900年から2200年の間に予測されている地球への最接近は、2014年1月2日に発生しました。この時、YORPは地球から約78万7300kmの距離まで近づきました。同時に月からも約106万9000kmまで接近しています。また、金星へは2195年2月1日に約1050万kmまで接近する予測があります。

物理的性質

レーダー観測によって、YORPの形状がいびつであることが確認されています。その平均直径は111.7mから115.1mと推定されており、およそ110m強のサイズを持つ小惑星です。より詳細な形状は三軸径で表現され、およそ(147-150)m × (128-134)m × (91-99)mの潰れた形状をしていると考えられています。

YORPの絶対等級は22.7です。潜在的に危険な小惑星（PHO）として分類される基準の一つに「絶対等級22.0以上（つまり22.0より暗い天体）」というものがありますが、YORPはこの基準を満たしません。しかし、PHOのもう一つの基準である「直径100m以上」を満たしているため、衝突した場合の影響を考慮すれば、実質的には危険視されるサイズに相当すると言えます。

既知の太陽系天体の中で、固有名称が付けられているものとしては、直径約45mの小惑星Duende（ドゥエンデ）に次いで2番目に小さな天体です。また、絶対等級で比較した場合、小惑星番号が付与されている天体の中では最小クラスの明るさ（=小ささ）を持つ天体の一つです。

自転の特性とYORP効果

YORPの最も特筆すべき点は、その自転に関する性質です。YORPの自転周期は約12分10.4秒と非常に短く、さらに自転軸は軌道面に対して約173度傾いています。これは、他の多くの天体とは逆向きに自転していることを意味します（逆行自転）。

驚くべき観測結果として、このYORPの自転速度が、1年間に約1ミリ秒というわずかな量ながら、着実に加速していることが明らかになりました。この自転加速は、太陽光を受けて温められた天体表面からの熱放射が、いびつな形状を持つ天体の場所によって不均一になることで生じる、微小な推進力によるものです。この現象は「ヤルコフスキー・オキーフ・ラジエフスキー・パダック効果」と呼ばれており、略して「YORP効果」として知られています。

そして、このYORPの観測は、太陽系天体においてこの「YORP効果」が実際に作用していることを初めて明確に裏付けた事例となりました。この科学的な重要性から、この小惑星にはその効果の名前が冠され、「YORP」と名付けられたのです。

この自転加速が将来も続けば、YORPの自転速度は次第に限界に達し、最終的には自転による遠心力が重力を上回り、天体がバラバラに分裂してしまうと考えられています。この分裂が起こる際の自転周期は、約20秒程度になると推定されています。地球に頻繁に接近することから、地球の重力が自転に影響を与えている可能性も議論されましたが、詳細なシミュレーションの結果、この可能性は否定されています。

YORPは、その特異な軌道と自転の性質、特にYORP効果が初めて実証された天体として、太陽系小天体の進化を理解する上で重要な研究対象となっています。

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