潜在的に危険な小惑星

潜在的に危険な小惑星（PHA）

地球近傍小惑星の中でも、地球への衝突リスクが高く、衝突した場合の影響も大きいとされる小惑星を、潜在的に危険な小惑星（Potentially Hazardous Asteroid、PHA）と分類します。

PHAの定義

PHAの定義は、地球軌道との最小交差距離（EMoid）が0.05AU（約748万km）以下、かつ絶対等級が22.0以上である小惑星です。EMoidが小さくても、2008 TC3や2011 CQ1のように、非常に小さな小惑星はPHAに分類されません。これは、これらの小惑星はたとえ地球に衝突しても、ほとんど影響を与えないためです。

絶対等級22.0の天体は、直径が少なくとも110メートルあります。直径100メートルを超える小惑星は、海に落下した場合でも津波などを引き起こすほどの大きさです。直径の正確な算出にはアルベド（反射率）の値が必要ですが、多くの小惑星ではアルベドが不明なため、計算には0.13という値が仮定されることが多く、この場合、最低直径は約150メートルとなります。

PHAとなる小惑星のEMoidは非常に小さく、地球の半径よりも小さい値を持つものもあります。また、PHAはすべて地球横断小惑星ですが、軌道傾斜角が極端に大きいもの（例：2012 FZ23）や、遠日点が海王星の外側にあるもの（例：1999 XS35）なども含まれます。なお、PHAは小惑星の分類であるため、彗星は含まれませんが、彗星・小惑星遷移天体は含まれます。

PHAの総数

2012年9月20日時点では、地球近傍天体9192個のうち、1331個がPHAとして登録されていました。これは、存在するPHA全体の20～30％程度と推定され、未発見のPHAが多数存在すると考えられています。

PHAは、アポロ群、アテン群、アモール群に分類されます。2012年時点では、アポロ群1196個、アテン群135個、アモール群123個が登録されていました。また、軌道が確定し小惑星番号がつけられているPHAは352個ありました。その他、彗星・小惑星遷移天体（3個と候補3個）、地球の準衛星（1個と候補1個）、金星の準衛星（1個）、アティラ群（5個）、ダモクレス族（1個）などがPHAに含まれます。

衝突のリスク

PHAは、軌道が完全に確定していないため、衝突リスクが過大評価される傾向があります。アポフィスは、2029年に地球に衝突する確率が1.6％と予測され、トリノスケール4という高い評価を受けたことで話題となりました。他にも、(89959) 2002 NT7、(143649) 2003 QQ47、2004 XP14、2007 VK184、(29075) 1950 DAなどが、衝突リスクが懸念されたPHAです。

直径が最も大きいと推定されているPHAは(53319) 1999 JM8（約7km）、EMoidが最も小さいPHAは2004 TN1（約2000km）です。軌道傾斜角が小さく離心率が大きいPHAは、他の惑星の軌道と交差するため、それらに衝突するリスクも高まります。(35396) 1997 XF11は、頻繁に金星に接近します。

PHAの観測

PHAの衝突リスクを正確に測定することは容易ではありません。地球に接近するため精密な観測には都合が良い反面、地球の重力によって軌道が変化し、将来の軌道を予測することが難しくなります。また、小さな小惑星では、ヤルコフスキー効果（太陽光による熱放射で軌道が変化する現象）の影響を受けやすく、軌道予測の精度が低下します。アポフィスは地球の重力による軌道変化、ゴレブカはヤルコフスキー効果の例として挙げられます。

小さな小惑星や、地球軌道の内側で交差する小惑星は観測が難しく、長期間行方不明になる可能性があります。ヘルメスは、1937年に観測された後、2003年に再発見されるまで66年間も発見されませんでした。

地球と似た軌道を持つPHAは、小惑星探査機の探査対象として適しています。はやぶさ、はやぶさ2はそれぞれイトカワ、リュウグウに着陸しました。欧州宇宙機関のドン・キホーテ計画では、小惑星の軌道を変える実験を行う予定で、アポフィスが候補の1つに選ばれています。

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