ZiS-3 76mm野砲

76mm師団砲M1942 (ZiS-3)とは

76mm師団砲M1942 (ZiS-3)は、第二次世界大戦中にソビエト連邦が開発した師団砲兵用の軽カノン砲です。ドイツの88mm高射砲と同様に対戦車砲としても高い性能を発揮し、その名を知られています。

開発の経緯

1940年、赤軍は従来のF-22(M1936) 76mm野砲とF-22USV(M1939) 76mm野砲よりも軽量で低コストな76mm野砲の開発を開始しました。翌1941年にはナチス・ドイツがソ連への侵攻を開始し、大祖国戦争が勃発。

開戦当初、ドイツ軍の主力戦車であったIII号戦車とIV号戦車は装甲が薄く、F-22やF-22USVの徹甲弾で十分に対抗可能でした。しかし、奇襲や大粛清による戦術の稚拙さから、多くのF-22とF-22USVが失われます。

赤軍は部隊再編成のために補充用の野砲を大量に必要としていました。また、T-34やKV-1の重装甲に苦戦したドイツが、より強力な重戦車を開発することも予想されました。

ZiS-3は1941年に完成しましたが、赤軍はF-22USVの増産を優先。ZiS-3はトライアルも行われず、公式には製造中止とされました。しかし、F-22USVはコストが高く、生産も難航したため、スターリンはドイツ戦車に対抗可能なあらゆる砲の生産を許可する指令を出します。これにより、ZiS-3は1942年2月に5日間のトライアルを経て、1942年型76mm師団野砲として制式採用されました。

概要

ZiS-3は、ZiS-2 57mm対戦車砲の砲架にF-22USV 76mm野砲の砲身と駐退復座機を搭載する形で開発されました。軽量化された砲架は発砲時に転倒する危険があったため、76mm級の師団野砲としては初めてマズルブレーキが装着されました。

ZiS-2対戦車砲の砲架は、左右角調整ハンドルと仰俯角調整ハンドルが砲の左側に集中しており、照準調整を1人で行うことが可能です。仰角はF-22やF-22USVと比較して浅くなっていますが、野砲や対戦車砲としての運用に問題はありません。また、砲架の構造が簡略化されたことで、調達コストはF-22USVの2/3にまで低下しました。

従来のソ連軍の榴弾砲や野砲は仰俯角調節ハンドルが右側にあったため、照準調整は2人で行う必要がありました。ドイツ軍が鹵獲したF-22野砲を7.62 cm PaK 36(r)に改造する際にも、仰俯角調整ハンドルを左側に移しています。

砲弾

ZiS-3には、対戦車用の徹甲弾としてBR-350A徹甲榴弾とBR-350SP徹甲弾が用意されました。その他にも、榴弾、榴散弾、焼夷弾、煙幕弾、毒ガス弾が製造され、戦後には成形炸薬弾も開発されています。

BR-350A徹甲榴弾の装甲貫徹能力は以下の通りです。

100m：67mm（入射角60°）、82mm（入射角90°）
500m：61mm（入射角60°）、75mm（入射角90°）
1000m：55mm（入射角60°）、67mm（入射角90°）
1500m：49mm（入射角60°）、60mm（入射角90°）
* 2000m：43mm（入射角60°）、53mm（入射角90°）

運用

ZiS-3は、1個師団あたり1個大隊12門が配備された他、6個中隊24門で編成される独立対戦車連隊にも配備されました。主に直接火力支援に投入されましたが、対戦車砲陣地に配備したり、待ち伏せによる対戦車戦闘にも従事しました。車両搭載型のZiS-3Shは、SU-76の主砲として使用されています。

着弾後に発射音が聞こえる高初速から、ドイツ軍からは「ラッチュ（擦過音）・ブム（発射音）」と呼ばれて恐れられました。

III号戦車やIV号戦車に対しては十分な性能を発揮しましたが、パンターやティーガーといったより強力な戦車に対しては苦戦を強いられました。パンターに対しては側面や防盾を近距離から狙えば撃破可能でしたが、ティーガーの装甲には歯が立たず、主砲を側面から打ち抜くか、キャタピラを破壊する必要がありました。このため、1944年にはより大口径のD-44 85mm野砲とBS-3 100mm野砲が開発されています。

戦後、ZiS-3は予備役に退きましたが、多くはワルシャワ条約機構加盟国や中東・アフリカ・アジアの親ソ国に供与され、現在でも一部の発展途上国で使用されています。また、ロシアでは大祖国戦争の再現イベントで使用するために、少数のZiS-3が保管されています。

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