アフリカマイマイ

概要

アフリカマイマイ（学名：Achatina fulica）は、腹足綱柄眼目に分類される大型のカタツムリです。近縁種を含め、陸上に生息する巻貝としては世界でも最大級の一つに数えられます。この貝は、人体に深刻な影響を与える可能性のある寄生虫、広東住血線虫の中間宿主となることが知られています。広東住血線虫は、ヒトに感染すると好酸球性髄膜脳炎を引き起こし、まれに命に関わることもあります。生きた個体に直接触れることや、這った跡に触れるだけでも、寄生虫に感染する危険性があるため注意が必要です。

日本では植物防疫法に基づき有害動物に指定されており、生息地からの持ち出しや日本本土への持ち込みが禁止されています。また、外来生物法でも生態系への被害を防ぐための重点対策外来種に位置づけられています。国際自然保護連合（IUCN）が選定する「世界の侵略的外来種ワースト100」にも含まれるなど、その侵略性と危険性から、世界各国で生体の移動や持ち込みが厳しく規制されています。

特徴

成貝は、殻の直径が7～8センチメートル、高さが20センチメートル近くにも達する巨大なカタツムリです。殻は右巻きが多いものの、左巻きの個体も見られます。殻の色は、食べたものによって変化することがありますが、一般的には茶色をしています。

生態

主に夜行性で、昼間は畑の脇や林の縁などの地面に潜んで休息し、夜になると餌を探して活動します。カタツムリは動きが遅いと思われがちですが、アフリカマイマイは比較的速く移動し、一晩で50メートル以上も移動することがあります。

食性は非常に幅広く、雑食です。植物の葉や落ち葉、動物の死骸、菌類など、様々なものを食べます。殻を作るためのカルシウム分を補うため、日本の在来の陸貝と同様にコンクリートをかじることもあります。また、まれに共食いをすることもあります。特に農作物のうち、柔らかい葉などを好むため、農業にとっては深刻な害虫と見なされ、農家からは大変嫌われています。ナメクジと同様にビールを好む性質があります。

繁殖については、雌雄同体ですが、自家受精はできません。2匹が出会って交尾を行い、その後、交尾した両方の個体が卵を産みます。交尾は30分から2時間ほど続き、一度の交尾で受け取った精子は体内に最長2年間保存することができます。一度に産む卵の数は100個から1000個以上と非常に多く、これを約10日の周期で繰り返します。成長も早く、孵化後半年から1年ほどで成貝に達します。

生命力も非常に強く、原産地のアフリカの乾燥した環境に適応しているため、乾燥に強い性質を持ちます。乾燥時には殻の口に蓋をして仮眠状態に入り、半年以上生き延びることができます。しかし、低温には弱い傾向があります。成貝の寿命は、餌を食べるための歯舌がすり減って摂食できなくなるまでの3年から5年ほどです。

分布

原産地は東アフリカのモザンビークやタンザニア付近のサバンナ地域と考えられています。主に人間によって他の地域に運ばれることで分布を広げ、現在では東南アジア、インド洋や太平洋の多くの島々（モーリシャス、スリランカ、ハワイ諸島、台湾、タヒチなど）、西インド諸島、カリブ海沿岸地域など、熱帯地方のほぼ全域に広く分布しています。

日本では南西諸島の一部（奄美大島、徳之島、沖永良部島、与論島、沖縄本島、宮古島、石垣島）と小笠原諸島の一部（父島、母島、南鳥島）に定着しています。かつては奄美群島よりも北には定着しないと考えられていましたが、2007年に鹿児島県出水市と指宿市で個体が発見されるなど、分布域が広がる可能性も示唆されており、警戒が続けられています。

日本での定着経緯

日本国内でアフリカマイマイが分布する島々には、過去に食用目的で人為的に持ち込まれたという共通の経緯があります。台湾へは1932年（あるいは1933年）にシンガポールから移植され、台北帝国大学の教授によって研究されました。

沖縄本島へは1932年以降に台湾を経由して移入されました。当初は養殖目的で厳重に管理されていましたが、沖縄戦の混乱の中で野外に逃げ出した個体群が定着したとされています。台湾では現在も一部でアフリカマイマイが養殖され、食用とされています。奄美大島へは食用として大日本帝国陸軍が持ち込み、小笠原諸島へはジャワ島から持ち込まれました。

沖縄県では、終戦直後の食糧難の時代に、巨大なアフリカマイマイが貴重なタンパク源として利用されました。しかし、食糧事情が改善されるにつれて、日本では元々陸貝を食べる習慣が少ないことや、見た目への抵抗感から敬遠されるようになり、放置された個体が旺盛な繁殖力によって爆発的に増加しました。小笠原諸島や沖縄県では、一時期大発生し、道路一面を覆いつくすほどになり、自動車が踏み潰しながら走行する光景が日常的に見られました。農業被害も甚大で、小笠原諸島では駆除した個体を自治体が買い取る対策が取られましたが、短時間で大量に捕獲されたといいます。

1970年には、沖縄県でアフリカマイマイが中間宿主となる広東住血線虫による好酸球性髄膜脳炎の患者が初めて確認され、この貝は一層忌避されるようになりました。その後、沖縄県では駆除剤を用いた定期的な防除が進められ、その効果もあってか1985年頃から個体数は徐々に減少傾向にありますが、根絶には至っておらず、現在でも見られます。小笠原諸島の父島では、1989年以降に個体数が激減しましたが、その原因は不明です。外来の陸生プラナリアであるニューギニアヤリガタリクウズムシの影響が示唆されていますが、母島では依然として多くの個体が生息しています。

生態系への影響

アフリカマイマイは、その広い食性、強い生命力、そして驚異的な繁殖力により、侵入した地域の生態系に壊滅的な被害をもたらします。特に大陸から隔絶された海洋島では、天敵がいない固有種の植物を食い荒らし、絶滅に追い込むこともあります。また、旺盛な食欲による直接的な被害に加え、より深刻なのは在来の陸産貝類固有種への間接的な影響です。

太平洋の島々では、アフリカマイマイを駆除する目的で、肉食性のヤマヒタチオビというカタツムリが導入されました。しかし、期待された効果はなく、ヤマヒタチオビはアフリカマイマイではなく、捕食しやすい小型の在来固有種を主に襲いました。その結果、多くの島で固有の陸産巻貝が激減し、ハワイ諸島やタヒチなどではかなりの数の種が絶滅しました。

日本でも同様の事例が見られます。1960年代にヤマヒタチオビが導入された小笠原諸島父島では、固有の陸産貝類が1属を除いてほぼ絶滅しました。生き残ったカタマイマイ属も、その後侵入したニューギニアヤリガタリクウズムシによって危機的な状況に追い込まれています。これは、安易な外来生物の導入がいかに深刻な環境破壊を引き起こすかを示す典型的な例となっています。

人間との関わり

食用

日本では食用として広く定着しませんでしたが、他国では養殖され、食用や輸出に利用されている場合があります。フランスでは、絶滅が危惧されるブルゴーニュ産エスカルゴの代用品として使われることもあります。日本国内ではインドネシア産の業務用缶詰が流通しています。食用とする場合、広東住血線虫は100℃で3分間加熱すれば死滅するため、十分な加熱が必要です。

粘液の利用

カタツムリの粘液に含まれるムチンは保湿成分として化粧品に利用されますが、タイではアフリカマイマイが粘液採取のために養殖されています。2014年時点でタイ国内には80ヶ所の養殖場があり、1ヶ所で1000匹以上が飼育されている例もあります。

外来生物として

日本では植物防疫法に基づき有害動物に指定されており、生息地である南西諸島や小笠原諸島の島々から他の地域への持ち出しや、本土への持ち込みは法律で禁止されています。この規制は日本だけでなく世界各国で行われており、特にアメリカ合衆国では国内での移動も厳しく罰せられます。日本では、本種の防除に利用できないか、ニューギニアヤリガタリクウズムシの輸入に関する研究が進められています。

寄生虫症のリスク

アフリカマイマイを中間宿主とする広東住血線虫症は、人体に好酸球性髄膜脳炎を引き起こします。日本では1970年に沖縄県で初めて症例が報告されて以来、複数例の感染が確認されています。小笠原諸島では、アフリカマイマイへの広東住血線虫の寄生率が高いことが確認されています。そのため、素手で貝に触れること、這った跡に触れること、這い跡が付いた野菜などを生で食べることは、寄生虫に感染する危険性があるため大変危険です。駆除や防除には、ナメクジ用の農薬が有効です。また、ナメクジと同様にビールを使った罠を仕掛けるのも効果的です。

その他

沖縄県に生息する大型のオカヤドカリは、厚みのある殻を好むため、しばしばアフリカマイマイの大きな殻を利用しています。
多くの熱帯の島々に定着したアフリカマイマイですが、オーストラリア領クリスマス島のように定着できなかった例もあります。これは、島に多数生息するクリスマスアカガニが幼貝の有力な天敵となったためと考えられています。
2016年には名古屋市で発見された事例がありますが、単一個体であり、環境も適さなかったため繁殖には至らなかったと判断され、処理されました。

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