アーティチョーク

アーティチョーク：地中海の恵み、その魅力と歴史

アーティチョーク（学名: Cynara scolymus）は、キク科チョウセンアザミ属に分類される多年草で、その独特な形状と風味が特徴的な野菜です。日本では「朝鮮薊（チョウセンアザミ）」とも呼ばれますが、原産地は地中海沿岸であり、朝鮮半島とは直接的な関係はありません。食用とするのは、開花前の若いつぼみで、ヨーロッパを中心に春の味覚として親しまれています。

名称の由来

アーティチョークという名前は、中世アラビア語の「アル・フルシューフ（al khurshuuf）」、つまり「巨大なアザミ」に由来します。これがスペイン語の「アルカルチョーファ（alcarchofa）」を経て、北イタリアで「アルティチォッコ（articiocco）」となり、英語の「アーティチョーク（Artichoke）」となったとされています。フランス語では「アーティショー（artichaut）」、イタリア語では「カルチョーフォ（carciofo）」と呼ばれています。

特徴

アーティチョークは、草丈1メートル内外に成長する大型のアザミで、葉は50〜80cmにもなります。花蕾は直径15cmにも達し、主茎の先端に3〜4個程度つきます。品種により、パープル種とグリーン種があり、収穫時期を過ぎると紫色の花を咲かせます。根の張りも広く、一度植えれば3〜4年は収穫が可能です。また、英米ではキクイモやチョロギも「Artichoke」と称することがありますが、これらは別の種類の植物です。

歴史

アーティチョークは、南ヨーロッパの地中海沿岸が原産です。元々は野生のアザミでしたが、古代ギリシャ・ローマ時代から品種改良が進められ、食用として広く栽培されるようになりました。近縁種のカルドン（C. cardunculus）も食用とされ、こちらは茎も食べられます。15世紀にはイタリアのナポリ近辺で本格的な栽培が始まり、16世紀にはフランス、ドイツ、イギリスへと広がりました。

フランスにアーティチョークが伝わったのは、16世紀にカトリーヌ・ド・メディシスが輿入れした際とされています。彼女はアーティチョークを好んで食べ、それが広まるきっかけになったと言われています。日本では江戸時代にオランダから渡来しましたが、当初は観賞用として栽培されていました。明治以降に食用としての導入が試みられましたが、あまり普及しませんでした。アメリカでは、19世紀末にイタリア移民によってカリフォルニアで大規模に栽培されるようになり、その後、ニューヨークのマフィアの資金源となっていた時期もありました。

現在、世界的な生産地は、地中海沿岸や南フランスなどのヨーロッパ南部地域、アメリカのカリフォルニア州、ニュージーランドなどです。日本でも、徳島県や長野県、九州などで栽培されていますが、生産量は多くありません。

品種

アーティチョークには多くの品種があり、フランスでは総苞の先端にトゲのない「グリーン・グローブ」が主流です。イタリアの「アルカチョフ」など、トゲの鋭い品種もあります。また、イタリア産の「トスカーナパープル」は、細身で萼が少なく、萼の付け根が紫色をしているのが特徴です。種子から栽培すると、トゲの有無や形態が異なる個体が出やすいため、株分けで増殖する方法が取られることもあります。

栽培

アーティチョークは、一般的に春に種をまき、晩春に苗を植え付けて栽培します。1年目は株を育て、2年目以降の初夏に蕾を収穫します。また、9月に株分けして増やすことも可能です。植え付け後は、3〜4年は収穫が続けられます。水はけの良い土地を好み、栽培適温は10〜22℃とされています。土壌条件や気候が収量を左右しますが、年平均気温13〜18℃の地域で、耕土が深く、排水が良く、有機質に富んだ肥沃な土地が適しています。定植後は、畝間に敷き藁やマルチングを施し、雑草や乾燥を防ぐことが重要です。病害虫は少ない方ですが、アブラムシや高温時の石灰欠乏症に注意が必要です。

利用

食用とするのは、開花直前の蕾です。葉のように見える肉厚の萼の下部と、萼に包まれた花芯の部分を食べます。可食部は少なく、総体積のわずかですが、独特の風味と食感が特徴です。調理法としては、塩ゆでが一般的で、レモン汁を加えることで変色を防ぐことができます。ゆでた後は、萼を一枚ずつ剥がし、バターやオリーブオイルなどをつけて食べます。花托部分は、スプーンですくったり、サラダの盛り付けに使ったりします。また、フライやオーブン焼き、煮込み料理などにも使われます。

料理

アーティチョークは、ヨーロッパを中心に広く食用とされており、特にイタリア料理やフランス料理でよく使われます。日本では、輸入物が中心で、野菜としての普及はあまり進んでいませんが、近年はハーブティーとして利用されることも増えています。イタリアでは「カルチョーフィ」と呼ばれ、前菜などに用いられます。フランスではゆでたり詰め物をしたりするほか、新鮮なものを生で食べることもあります。アーティチョークの花を使ったチーズも作られています。ベトナムでは、乾燥させてお茶のように飲む「アーティチョーク茶」が特産品です。アメリカでは、小型の蕾を「アーティチョーク・ハーツ」といい、瓶詰にしたものが人気です。

成分・栄養素

アーティチョークは、野菜としては炭水化物が多く、水分が少ないため、カロリーはやや高めです。ビタミンCやカリウムが豊富で、利尿作用や体内の塩分排出効果が期待できます。また、カルシウムや食物繊維も豊富です。特に水溶性食物繊維を多く含み、コレステロールや糖質の排出を助けるため、糖尿病や高脂血症の予防に効果的とされています。また、シナリンという成分を含み、肝機能の向上や血中コレステロールの減少効果が期待されています。シナリンには、味蕾の甘味受容体を阻害する作用があり、アーティチョークを食べた後に食べるものが甘く感じられることがあります。また、放屁の回数を抑える効果もあるとされていますが、一方でイヌリンが放屁の回数を増やすという報告もあります。

アーティチョークは、その独特な風味と食感、そして豊富な栄養成分から、世界中で愛されている野菜です。日本での普及はまだ進んでいませんが、ぜひ一度試してみてはいかがでしょうか。

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