ウェザー・リポート

ウェザー・リポート：エレクトリック・ジャズの先駆者

ウェザー・リポートは、1970年にジョー・ザヴィヌルとウェイン・ショーターという2人の才能溢れるミュージシャンによって結成された、アメリカを代表するジャズ・フュージョン・グループです。エレクトリック・サウンドを主体とした革新的な音楽性で、ジャズ界に新たな潮流を生み出しました。

結成の背景

ザヴィヌルとショーターは、1959年にメイナード・ファーガソン・ビッグ・バンドで共に活動した経験を持ちます。その後、ザヴィヌルはキャノンボール・アダレイのグループへ、ショーターはマイルス・デイヴィス・クインテットへと進みました。特にマイルス・デイヴィスとの活動は、両者にとって大きな転機となります。ザヴィヌルは、マイルスのエレクトリック・ジャズへの移行期における重要な作品『イン・ア・サイレント・ウェイ』や『ビッチェズ・ブリュー』に参加し、エレクトリック・サウンドの導入に貢献しました。この時期、ショーターとザヴィヌルはスタジオで再会し、新たな音楽の可能性を追求するため、ウェザー・リポート結成へと至ります。

初期メンバーには、ドラマーのアルフォンス・ムゾーン、パーカッショニストのアイアート・モレイラとドン・ウン・ロマン、ベーシストのミロスラフ・ヴィトウスが名を連ねました。デビューアルバム『ウェザー・リポート』は、マイルスの影響を感じさせつつも、アコースティック楽器を主体としたソフトなサウンドが特徴でした。このアルバムは高い評価を受け、『ダウン・ビート』誌で1971年の「アルバム・オブ・ザ・イヤー」に輝きました。

サウンドの変化とファンク・グルーヴの導入

セカンド・アルバム『アイ・シング・ザ・ボディ・エレクトリック』以降、シンセサイザーやサウンドエフェクトが積極的に導入され、サウンドはよりエレクトリックで実験的なものへと変化していきました。また、『スウィートナイター』の頃からはファンク・グルーヴの要素が加わり、バンドの音楽性は新たな局面を迎えます。ベーシストのヴィトウスも、アコースティックベースに加えエレクトリックベースも使用するようになり、楽曲中で楽器を持ち替えるなど、多彩なサウンドが求められるようになりました。

1974年には、アルフォンソ・ジョンソンがベーシストとして加入し、よりファンキーなサウンドへと進化します。ジョンソンは、ショーターが以前から注目していたフレットレス・ベースの使い手であり、バンドに新たなグルーヴをもたらしました。

ドラマーの変遷と中期ウェザー・リポート

結成から『ヘヴィ・ウェザー』までの約8年間、ウェザー・リポートはドラマーが頻繁に変わる状況が続きました。アルフォンス・ムゾーンを始め、エリック・グラヴァット、グレッグ・エリコ、イシュマエル・ウィルバーンなど、多くのドラマーが在籍しました。そのような状況の中、1978年にピーター・アースキンが加入し、ようやく安定したドラマーを得ることができました。アースキンとオマー・ハキムは、3年以上在籍した稀有なドラマーとなりました。

『ミステリアス・トラヴェラー』の頃には、シンセサイザーが多用され、宇宙的で幻想的なサウンドが際立つようになりました。このアルバムは再び『ダウン・ビート』誌の「アルバム・オブ・ザ・イヤー」に選ばれました。続く『テイル・スピニン (幻祭夜話)』では、ウェイン・ショーターのサックス・ソロがフィーチャーされ、こちらも「アルバム・オブ・ザ・イヤー」に輝きました。

ジャコ・パストリアスの加入

1976年、ジャコ・パストリアスがベーシストとして加入し、バンドのサウンドは大きな変革期を迎えます。ジャコの加入は、ベースの表現力を飛躍的に高め、特に『ヘヴィ・ウェザー』に収録された「ティーン・タウン」は、ベーシストたちの間で大きな話題となりました。「バードランド」では、ベースによるピッキング・ハーモニクスなど、斬新な奏法が取り入れられ、ジャズファンだけでなくフュージョンファンにも支持されるようになりました。

『ヘヴィ・ウェザー』以降、アレックス・アクーニャとマノロ・バドレナが脱退し、一時的にメンバーは3人になりましたが、ピーター・アースキンが加入し、再び4人編成となりました。この頃から、ウェザー・リポートは世界各地でライブツアーを行うようになります。1979年には、ライブアルバム『8:30』をリリースし、その高い演奏能力を世界に示しました。

ハバナ・ジャムとナイト・パッセージ

1979年、ウェザー・リポートはキューバで行われたハバナ・ジャムに出演しました。この歴史的なイベントには、アメリカとキューバの様々なアーティストが参加し、東西の文化交流に大きな影響を与えました。

1981年のツアーでは、未発表曲を多く演奏し、次作アルバムの準備を進めました。1982年にリリースされた『ナイト・パッセージ』は、ロサンゼルスの巨大なスタジオで、観客を入れてライブレコーディングされました。このアルバムでは、大阪フェスティバルホールで収録されたコンサート音源も使用され、ライブ感溢れる作品となりました。

解散とその後

黄金期を築いたジャコ・パストリアスは1981年末に脱退し、ピーター・アースキンもジャコのバンドに加入するため脱退しました。ウェザー・リポートは、新たなリズムセクションとしてオマー・ハキムとヴィクター・ベイリーを迎え、活動を継続しましたが、1970年代後半のようなジャズ/フュージョンブームは終焉を迎え、バンドの音楽性も変化していきました。1986年、ザヴィヌルとショーターは、それぞれの新たな音楽を追求するため、ウェザー・リポートを解散しました。

ウェザー・リポートは、その革新的な音楽性とメンバーの優れた演奏能力により、ジャズ史に名を刻む重要なグループとなりました。彼らの音楽は、今もなお多くのファンに愛され続けています。

レコーディング・メンバー

ジョー・ザヴィヌル (キーボード)
ウェイン・ショーター (サックス)
ミロスラフ・ヴィトウス (ベース)
アルフォンソ・ジョンソン (ベース)
ジャコ・パストリアス (ベース)
アルフォンス・ムゾーン (ドラム)
ピーター・アースキン (ドラム)
オマー・ハキム (ドラム)
アレックス・アクーニャ (パーカッション)

主なゲスト・ミュージシャン

マンハッタン・トランスファー
トニー・ウィリアムス
スティーヴ・ガッド

ディスコグラフィ

アルバム
ライブ・アルバム
コンピレーション・アルバム

ビデオグラフィ

参考文献

ブライアン・グラサー 著、小野木博子 訳『ザヴィヌル：ウェザー・リポートを創った男』音楽之友社、2003年10月。
Brian Glasser (2001-02). In a Silent Way: A Portrait of Joe Zawinul. Sanctuary.
中山康樹「ジョー・ザヴィヌルはいかにしてウェザー・リポートを牛耳ったか？」『スイングジャーナル時代の中山康樹』シンコーミュージック、2018年11月。

外部リンク

JOE ZAWINUL official site (英語)
MIROSLAV VITOUS official site (英語)
ALEX ACUNA official site (英語)
JACO PASTORIUS official site (英語)
PETER ERSKINE official site (英語)
WEATHER REPORT / THE ANNOTATED DISCOGRAPHY (英語)
* Sony Music Online Japan : ウェザー・リポート (日本語)

もう一度検索